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古代緑地 Ancient Green Land

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ひとまわり違いの弟を持ったせいもあり もともと絵本好きで高校生の頃は絵本作家になりたかったのを 思い出しています 児童書の卸をしている書店が高校のすぐそばにあって よくそこに入り… もっと読む
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古代緑地 Ancient Green Land 23 犀の角

金木犀の香りがうっすらと夕方のお部屋に漂っていました。 お母さんは隣の部屋で寝ていますので、 麦ちゃんはお部屋で一人、おもちゃで遊んでいました。 麦ちゃんには妹ができるのです。それでお母さんはちょっと具合が悪いみたいでした。 麦ちゃんのいるお部屋は夕焼けに染まり、ものの輪郭がぼやけ、薄く光っていました。 麦ちゃんは、そこに何やら影のようなものが混ざっているのを見つけました。それはフラフラと、隣のお部屋の中へ消えていったのです。 隣の部屋にはお母さんが寝ているのです

ゑ本 "古代緑地 Ancient Green Land” 22 お誕生日の夜

今日はすもものお誕生日 街へお買い物へ連れて行ってもらって お洋服にリュック、それにケーキも買ってもらったのです それに美味しいご飯だって 夕方にはおうちに帰ってきたすもも 一通りのお誕生日の儀式は済みました 夜になって すももが ピンクに染めたおかっぱ頭に お気に入りのラピスラズリ色のパーカーに包まれて お誕生日のしめに 特別なおやつを食べていますと  おトイレからは竜巻さんがゴーゴーとごあいさつに  好きな指輪がぴっかりひかり ウィンクします  机のお花も

ゑ本 古代緑地 Ancient Green Land 20『歳寒三友 小梅熊太夫(コウメクマダユウ)の巻』

松栗鼠乃助の守る小松峠 竹久兎之氶の守る細蟹(ささがに)の道に続いては 小梅熊太夫が門番をする 海からの道 小梅洞門 のものがたり 小梅熊太夫のパートナーは パワフルな熊のクーマン 海へと続く洞門をくぐると梅林が広がっています 村へ入るには 大きな崖にポッカリ空いたこの自然の門を潜るのです 二人が守る梅林は今日もお日様が差し込み 山からの清水と風に包まれて 生き生きとしています 梅林の入り口にあたる洞門の横にある梅の木のウロのお家では 小梅熊太夫が鼻歌交じりに 梅干しを

ゑ本 古代緑地 Ancient Green Land 19『歳寒三友 竹久兎之氶(タケヒサウサノジョウ)の巻』

この村へ入るには3つの道があって そのひとつ「細蟹(ささがに)の道」はその一本 かつてこのみちは恋人たちの通い路でした いくつかの悲恋の物語も語り継がれています 村はずれには悲恋の物語のお姫様が飛び込んだ池もありました 細蟹とは蜘蛛のこと 笹に蜘蛛が巣を張るのを見て 恋人がやってくることを占ったといいます 昨今では細蟹の道の先の 村はずれには遊女の街ができていましたから 峠を越えて通う男達も多いのです    遊びもいつか本気になったりするもので 恋には情念がつきものです

ゑ本 古代緑地   Ancient Green Land 18 「歳寒三友 松栗鼠乃助(マツリスノスケ)の巻」

  その村には 二つある峠のどちらからか 南の海側からでないと入れません 西と北に山があり、東には大きな川があって、南は海 自然の要害に守られて村はありました 村人たちは海山の恵みで長い間幸せに暮らしてきました 豊かな山が豊かな海をつくり 良いめぐりがたくさんのめぐみをもたらしてくれていたのです 海に出るもの 山へ入るもの 里で耕すもの それらを運ぶもの 商うもの 穏やかな四季のめぐりに寄り添ってきた村です 村に入る道の一つ 小松峠には たくさん生えている小さな松

ゑ本 古代緑地 Ancient Green Land  第21話 「森の黒くま 空の白くま 半島にて」

海に突き出した半島 いつもの静かな渚 森の黒くまさんは 夢の中 広い空と海    空の旅人の雲       客船が水平線を航行していきます 雲が白くまさんになって 森の黒くまさんを見つけて やってきますよ 黒くまさんもちょっと気がついたみたい やあ!お目覚め? やあ!ごきげんよう! タッチ! ばいばい 元気でね! ゆっくり見送ると 森の黒くまさんはまた寝息をたてはじめました 森になっておやすみです 雲は森の分身  二人は離れていても いつも 一

ゑ本 古代緑地 Ancient Green Land 17話 『めぐり花 森のはじまり』

今日はハレの日 昨晩まで降っていた雨も上がって キラキラと雫が光る 気持ちのいい日になりました とても気持ちがいいので みんなで何かきれいな空に向かってプレゼントしよう!ということになりました それで みんなでお花を持ち寄って いつも遊んでいる野原に花を飾ることに決まったのです あ 誰かやってきましたよ  サイゾーくんは 桃色の花を どこからか 摘んで来たみたい  ライノちゃんは 黄色い花の咲いた みどりの細い草を角にかけてきましたね 双子のニワノトリオ君とトリ

古代緑地 Ancient Green Land 第16話 「星のマントル」

ずっと昔の 寒い寒い冬の森のできごとです もの皆寝静まった夜 モミの木の穴に住むふくろう爺さんの目だけが光っています 星が夜空に瞬いて ゆっくりこの星はまわっています そこへ ヒュー〜ー  ドッカーン!!   ギャン!  ガラガラ  グサッ    空から 「いってぇー 〜 〜 」  キーンと 甲高い声  森にそびえる水晶山に星がぶつかって 飛び去っていったのです なんだ なんだ 冬眠中のものも 寒くて丸まって寝ていたものも 目を覚まして 水晶山の麓にあ

古代緑地 Ancient Green Bert エッセイ 『空を食む』

空を見上げてばかりいたら 透明な生きものが 見えるようになった 地上の生きものの比較にならないほど 大きくて  雄大に壮大に 軽やかにゆったり泳いでいる  見えない空のプランクトンを食べているようにも見える 太古の龍のように のっしのっしと歩むものがいる  おおきな  空の向こうへ遠ざかっていく  笑い声が 降ってくるときもある  そんな時見上げると 子どもと獅子が 渦のようにじゃれあっていた  破顔大笑した顔が仲良く雲の形になって 空にほどけていった 魂

古代緑地 Ancient Green Bert  第15話『ソングライン』

白く透き通ったちいさなきれいな女の子が白い道を歩いていきます 白いおべべに白い帯を締めています 女の子はまだ目が開かないようです でも何かに促されるように歩いていきます しばらく行くと菫の咲く野原に差し掛かりました 菫は言いました 「あなたの帯にわたしうつってもよくって?」 女の子は「はい どうぞ」と言いました 悪い気がしなかったからです すると帯はきれいな菫色に変わりました 女の子は菫が好きになりました さてもう少し歩きますと 早緑の美しい森に差し掛

古代緑地 Ancient Green Bert 第14話 『剣闘士と牛鬼(うしおに)』

むかしむかし ある国に怪物がいました 人々はこの怪物を 牛鬼と呼んでいました  散々手こずらせた挙句 捕らえられ 最強の剣闘士による 公開処刑が決まりました 場所は大きな闘技場です  大衆は こういう正義の名の下の 暴力が好きです その時が来ました  最初に怪物が鎖をつけたまま円形の闘技場に入れられました 汚い言葉が渦巻きヒートアップしています  続いて地鳴りのような大歓声とともに 剣闘士が入ってきました  盾は持たず その代わり美しい衣をマントのように羽織って

古代緑地 Ancient Green Bert    第13話『蛙のなみだ』

おさないゆきちゃんが お散歩していたら 小さな真っ黒なおたまじゃくしを見つけました  おたまは芝の上に 飛び出してしまって 池に帰れないでいたのです 息ができなくて 今にも死んでしまいそうなところを ゆきちゃんが救ってくれたのでした  おたまは嬉しそうに 池に帰って行きました 数日後 おさないゆきちゃんが 池のそばを通ると でかいおたまが飛び出てきて言いました 「この前は 助かったよ ありがとう!!」 ゆきちゃんは大きなおたまにびっくり でも すぐに仲良

古代緑地 Ancient Green Bert  第9話『丘』

「こんにちは」 「今日もよろしく」 「いいお天気!」 「うん 風もいいから 楽しみだね」 「早速始めよう」 寸断された世界に住む二人は会ったことはなく 互いに素性や住まいを明かさず ただ終わらない物語をリレーで作っていく遊びを続けていました これまでも それぞれ自分の部屋からとか 旅先とか 公園とか川とか いろいろな場所で お互いが見えるものから 言葉を生み 即興で二人だけの物語を作ってきたのです お互いのお話から二人の住む世界は表と裏のように違うと感じていました

古代緑地 Ancient Green Bert  第8話 『菖太の滝登り』

菖太は怖がり菖太って みんなに言われてました  毛虫 こわい  ざりがにもダメ  ミミズも苦手  ヘビなんかみた日には卒倒しそうになります 今日は五月晴れ いつも連れ歩いている 鯉太郎を引いて お散歩していると ヌッと 現れたのは 山に住む鬼姥です おっかさんに 行ってはいけないと言われているところに来たわけでも おっかさんに ウソをついたわけでもないのに どうして! しかも あろうことか この鬼婆は髪の毛が凶悪そうな蛇だったのです  蛇に睨まれたカエルと