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古代緑地 Ancient Green Bert 第8話 『菖太の滝登り』

菖太は怖がり菖太って みんなに言われてました 

毛虫 こわい 

ざりがにもダメ 

ミミズも苦手 

ヘビなんかみた日には卒倒しそうになります

あやめ 

今日は五月晴れ いつも連れ歩いている 鯉太郎を引いて お散歩していると

ヌッと 現れたのは 山に住む鬼姥です


おっかさんに 行ってはいけないと言われているところに来たわけでも

おっかさんに ウソをついたわけでもないのに どうして!

しかも あろうことか この鬼婆は髪の毛が凶悪そうな蛇だったのです 

蛇に睨まれたカエルとは今の菖太のこと

 「おめえ 丸くってうまそうだなあ 食ってやろうかなあ 」 

もうおしっこが漏れそうで ガタガタして後退りしました


腰が抜けるかどうかというところでしたが 

そこに鯉太郎が登場

「おい!菖太しっかりしな!オレが時間を稼ぐから あっちの池の方へ逃げろ!」

いうが早いか ブゥーンと鬼婆の方へ向かって行きます

あやめ  1

菖太はとにかく言われた通り菖蒲の咲く池の方へ走ります



鯉太郎は鬼婆を巻いて 池まで来ると

「アヤメさん 菖太はいい子だから 守ってあげてくれないか!」

と言いますと

あやめ  2

 「よっしゃ!」

 「いいともさ!」

 「まかせとけ!」(^ー゜)

 「がんばるわ!」

といくつもの声がします 

 「オレがアヤメだ」

 「わたしよ」

 「僕だよ」

 「何をおっしゃいます わたくしよ」

(全員で)「「「「はあ?」」」」


菖太が見ると 一つは花はなくて緑の葉っぱでしたが

他はみんなそっくりな紫の花をつけ 鋭い葉っぱを持っていて 見分けがつきません


鯉太郎が割って入りました

「おいおい喧嘩しないで みんなで頼むよ さあ もうあいつがやって来たぜ」


あやめ  3

「それではまずはわたくし達が!

 いずれアヤメかカキツバタって言うでしょう?」

「おばあさんおばあさん わたしたちの名前を当てなさいな 

どっちがどっちかわかるかしら 捕まえて名前を当てたら 食べられても良くてよ」


 「おお うまそうなおなごじゃおなごじゃ マテェ」


「うふふふ さあさあ こちらよ」

「いえいえ こちらよ」


鬼婆がバシャバシャ向こうで暴れている

その間に他のアヤメが菖太を安全なところへ連れて行って 世話を焼きました


「さあ これを着て!」と渡されたのは アヤメの花で染めた紫の服

「頭に巻いて!」と被せられたのは アヤメの鉢巻 キリリとします

あやめ  5

「これ挿して!」と挿されたのは アヤメの美しい花 鉢巻に挿します

「これをつけて!」胴に巻かれたのは アヤメの葉で編んだいい匂いのする鎧

「これ持って!」と手渡されたのは 立派なアヤメの葉の刀と脇差

「これでよしっと」最後にアヤメの紫の目はじきです



鬼婆は 泥で滑って 葉っぱで身体は切り傷だらけ

少し弱りましたが まだまだ元気

「はあ はあ あいつらは もういらねえ

菖太はどご行っだ?」


向きを変えて ずんずん草をかき分けて こっちへ来ます


「わ ヨモギもあるでねえか こえーなあ」


ヨモギを避けながら 鬼婆は 菖太欲しさに迫ってきます

「どごさ行っだあ 隠れてもダメだぞう」

とうとう 菖太のすぐそばまでやってきました

目は変わらず金色で 真っ赤な顔 真っ黒な爪 蛇の髪の毛がうごめいています


勇ましい身なりになった菖太 

勇気を出して 「えいやっ!」

鬼婆の目の前に踊り出ました!


あやめ  4

「お おめえ そんなこえーものばっかし つけてたら

おら 目が回る はあ〜」

とその場に倒れました

あやめ  7


菖太はとても誇らしい気持ちでした


みんな 鯉太郎とお花さん達のお陰です

うれしくって振り向くと アヤメは綺麗な紫の花を咲かせて 葉叢は緑の風に揺れて まるで笑っているように見えました 



「菖太〜 菖蒲湯に入りなさーい」

お家の方から おっかさんの呼ぶ声がします

あやめ  6

「おら ゆめみてたのか」

菖太は起きて 周りをきょろきょろしました

大きな古い柳の木が揺れて その下にはあやめが咲いています

「菖太〜返事しねーかぁー」

「はあい」


鯉太郎を持つと菖太は駆け出しました 鯉太郎は気のせいかちょっと汚れています


「柏餅も作ったわよ」

菖太はニコッと笑って いつもの菖太でしたが でもちょっと前より眉がキリッとしているようです

鯉太郎には小さな龍の角が生えていたことは秘密ですよ



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端午の節供の物語 アヤメいろいろ 物忌みのしるし 目に青葉の季節に紫の染みが滲みだす 夢うつつ 現実だけが人の成長を促すのではなく 物語も夢も巻き込んで 生きることそのものがある 鬼婆もまた 古代緑地に住んでいる


  






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