見出し画像

古代緑地 Ancient Green Bert 第9話『丘』

「こんにちは」

「今日もよろしく」

「いいお天気!」

「うん 風もいいから 楽しみだね」

「早速始めよう」

エデンの丘


寸断された世界に住む二人は会ったことはなく 互いに素性や住まいを明かさず ただ終わらない物語をリレーで作っていく遊びを続けていました

これまでも それぞれ自分の部屋からとか 旅先とか 公園とか川とか いろいろな場所で お互いが見えるものから 言葉を生み 即興で二人だけの物語を作ってきたのです お互いのお話から二人の住む世界は表と裏のように違うと感じていました まるで合わせ鏡のように物語を作っていたのです 二人の紡いだ物語は本にしたら多分聖書くらいにはなったでしょう

二人の遊びは 二人を親密にして 会いたい想いは募っていました でも会うと夢のような物語時間が壊れてしまう そんな気がして 口には出しませんでした

雲とり 2


二人は今日は街の煙や空の雲を見ながらお話を作ろうと決めていました

「雲見っていうのよ 小さい頃 田舎で煙突から出る煙を見て 色々空想していたの」彼女は言いました

二人とも小高い場所からそれぞれの街を眺めていました

エデンの丘 雲の鸚鵡 2

「青い空に 雲の鳥が浮かんでゆっくり飛んでいるわ そして街のいくつかの煙突からも小さな鸚鵡が生まれているの 煙突から出た時は翼を閉じたままで目を閉じているのだけれど 煙突を抜けて風に乗ると翼を広げて 雲のお母さん鳥のところへ行くのよ 煉瓦造りの街に 淡い羽毛が空を舞い落ちてきて きれいよ」

「僕の方はね 白い蛇のように空に向かってツイーっと登っているよ 少し上に登ると くねくね頭を揺らして 本当に蛇みたいだ 何匹もいるよ インドの蛇使いが きっと笛を吹いて踊らせているんだと思う そういえばキングコブラの模様を持っているのもいる」

「鸚鵡はだいたいは白いけど グレイや紫がかった色をしているのもいるわ 羽根を繕ったり 羽根が光を浴びて虹みたいなのもいるわ お互いにマネするなっていってるの 鸚鵡返しにね 」

「あはは 蛇たちも どんどん風に流されて形が変わるよ みんなで あっちの工場の真っ黒な奴をやっつけに行くんだきっと 真っ黒い魔法のランプの巨人みたいのに 向かっていくよ」

「わあ すごい 迫力ね」

エデンの丘 黒雲

「真っ黒いやつは 黒い毒霧を吐くんだ 白い蛇使いの神様と黒いランプの巨人使いの神様が戦っているんだよ ああ 白い蛇が足りない 薄くなってきちゃった 真っ黒巨人雲に 吸い取られて消えちゃった」

「それは大変!私の鸚鵡が加勢に行けるといいんだけど! あら こちらの山から白いスノーマンみたいな巨人が動き出したわ すごい速さで 虹色に変わった鸚鵡たちと合流しているわ」

エデンの丘 虹の鸚鵡

「僕の方では 黒いやつがどんどん背が高くなっているよ まずいなこれは 稲光もはじまった ああ君の白い巨人が来てくれないと もう大ピンチだ」

「巨人はどんどん山や森のエネルギーを吸って筋肉がモリモリよ 鸚鵡も大きな翼を持って ちょうど夕陽を浴びて まるで火の鳥のように輝いているわよ」

「わあ そりゃすごい! こっちは夕陽を背にしてますます黒くて赤い目と口までついちゃったよ ゴロゴロ言いながら 向かってくるぞ」


「今 虹の戦士となった白い巨人と火の鳥がわたしの頭の上を通過中!すごい早さよ!!」

「こっちも 僕の頭を津波のようになって 今にも雨が落ちてきそうだ」


「あ!突然現れた黒い雲と 丘の上でぶつかるわ!」

「こっちの丘にも輝く白い巨人みたいな雲が出てきて 今ぶつかったところだよ!」

エデンの丘 黒雲 1


〈〈 え?!〉〉

二人は同時に言いました


巨人同士はピカピカ光ったり 轟音を轟かせて それはそれは凄まじい取っ組み合いを見せていたのですが 二人の世界にとっては大したことでないようです 巨人たちは空の彼方にくるくる回りながら消えていってしまいました

澄んだ空がぽっかり



「… ねえ 雲がぶつかったその下に大きな樹 ある?」

「うん… うん!確かにある!!」


二人は丘の頂上にある大きな樹を同時に反対側から見上げていたのです

                       (寄り目でみてください↓)

エデンの丘 


二人はゆっくりゆっくり丘を登って行きました 

そして大きな樹の下で 初めて出会ったのです

丘の上の空は 魔法のように晴れて 夕陽が二人を照らしていました


二人は喉が荒地になるほど話し 笑いすぎて涙も干上がるほどでした

そうして茜色の空が漆黒に変わるまで丘の上にいたのです

夜空には天の川が流れ下り 満天の星が輝いていました


^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

風薫る五月 空見雲見に最適なときでもあります 今日も 高速道路やお庭の現場から空を見ていると旅心が疼く空でした 
「空に吸われし十五の心」五十でも変わらず 
寸断された世界で スマイルという奇跡 古代緑地の第9話です。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?