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9.ホテルに避難する

 転地療養のイメージで避難した実家は、「低周波音症候群」の私にはかえって苦しい場所でした。実家がダメなら次は・・・ そうだ! 駅前のホテルに泊まろう!
 帰省時の中継地点として時々利用してきた駅前のこのホテル。空港と実家間のアクセスはバスかレンタカーしかなく、バスの本数も限られるため、旅程の一部の宿泊場所としてお世話になっていました。

 付き添ってくれていた夫とチェックインしましたが、部屋に入ってすぐ私は苦しくなります。低周波音をたどって窓からのぞくと、数フロア下の広い屋外スペースに設置された何台もの室外機が、フル稼働しています。下から迫ってくる低周波音で頭に振動を感じ、めまいがします。
 ホテルのフロントに電話で相談すると、室外機から離れた側にあるフロア違いの空室を2室、案内してくれました。それぞれの部屋に入らせてもらい、体に感じる低周波音が小さいと思った部屋に、替えてもらうことができました。
 同じホテル内なのに、こんなに低周波音の強さが部屋によって違うなんて。このとき私には、室外機の低周波音が扇のような形で上へ上へ広がっていっているように感じました。というのも、室外機からフロア数がいちばん離れている部屋よりも、その真下で室外機に近い部屋のほうが、低周波音が小さく感じられたのです。よくわからないのですが、それは、選んだ部屋が、低周波音が上に広がっていくその扇形のような音の境界の外にあったのだろうと思います。

 このとき対応してくれたのが、胸に実習生の札をつけたホテルの男性スタッフでした。「この部屋はだめです」「この部屋なら大丈夫そうです」というやりとりの最中にも、申し訳ない気持ちでいましたが、今後の宿泊は、予約のときに室外機から離れた側の部屋を用意し、低周波音の影響が少しでも軽減するようにします、とのこと。自分が情けなく感じる一方で、配慮には感謝しかありません。涙ぐんでしまいました。

 バス・トイレ別で洗面所も独立しているので過ごしやすく、JRへのアクセスすぐで空港へは電車で10分、と便利なので、その後も利用しています。部屋はあの時の言葉通り、室外機から離れた側です。部屋の空調は止めて寝ますが、ありがたいことに、低周波音で途中目が覚めて眠れない、ということはありません。

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