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映画「男と女 人生最良の日々」にみる夢とうつつの境界

私は映画好きですが、いわゆる正統派恋愛ものはあまり見ません。同世代が主人公の恋愛ものはさすがに見てきましたが、そこまで感動したとか印象に残ったとか何度も繰り返し見る映画の中には皆無といっていいでしょう。おそらく、照れくさいとか主人公の考えに共感できないとか複数の原因があるのでしょう。

特に、自分がまだ子供の頃や生まれる前に流行った映画だと、未だになんとなく見てはいけないような気がしてしまいます。映画「男と女」はその代表のような映画で、見ようとしたこともありませんでした。

ところが最近、主人公たちの老後を描く映画をみたところ、冒頭からとても惹きつけられてしまいました。

主人公のアンヌを演じるアヌーク・エーメの、ドキュメンタリーのような語り口と抑えた演技の表情にまず引き込まれました。前作を見ていなくても、映画に挿入される前作のシーンを見ているとストーリーはだいたいわかります。小さな子連れのシングル男女が子供の送り迎えのときに出会い、恋に落ちる、といったところです。でも結婚しなかった。

この先はネタバレを含むので、これから見たい方は読まない方がいいかもしれません。

時を経て2人とも高齢者になりました。アンヌの恋人だったジャン・ルイは高齢者施設に入所していて、心身ともに衰えており、認知症も重度になっています。逃げ出そうとしたり介護に抵抗したり、話していても幻覚妄想が迷入する、いわゆるBPSD(behavioral and psychological symptoms of dementia:認知症に伴う行動心理学的症状)の状態です。

その状態でも、思い出すのは例の結婚しなかった彼女のことばかり。見かねた息子が、父に会ってくれないかとアンヌに頼みにくるところで始まります。アンヌが会いに行くのですが、ジャン・ルイはアンヌとはわからない様子。しかし何かを感じるようで、かつて愛した女性(=アンヌ)の話をして聞かせます。ところが、同じ話を何度もしたり、アンヌがさっき言ったことをすっかり忘れていたりします。この会話には認知症の方の様子がリアルに再現されていると感じました。

ジャン・ルイは車で施設を脱走するから一緒に来ないか、とアンヌを誘います。次のシーンでは本当に二人でドライブしていて、懐かしいところを訪ねたり、ジャン・ルイが自作の詩を聞かせたりします。しかし、アンヌの反応がどうも現実的ではありません。いきなり警官に銃を発砲したりして、これはジャン・ルイの夢の中なのか、時々幻覚が混ざってくるのか、とにかくジャン・ルイの内面を表しているのだろうと思われます。このような描き方をみたのは私は初めてで、認知症の方の内面を知るという意味で興味深く感じました。

この映画は、前作と同じく監督クロード・ルルーシュ,主人公アヌーク・エーメ&ジャン=ルイ・トランティニャン、音楽フランシス・レイで、全員元気というのもすごいと思いましたが、映画製作後にフランシス・レイが、ジャン=ルイ・トランティニャンが昨年亡くなったのが残念でした。

全編に流れるフランシス・レイの音楽もやはり素晴らしく、録画した本作を何度も見てしまった理由のひとつです。そして、結局前作も見てみたくなり、デジタルリマスター版を買ってしまいました😅アンヌの服がどれも可愛くて、とてもおしゃれな映画でもあったんですね。


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