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事業開発におけるドメイン知識の功罪


はじめに

こんにちは、株式会社エイチームコマーステックにてcyma事業の責任者をしている高村と申します。

今回のnoteは、私自身が事業立ち上げ〜年商40億円超え事業に一貫して携わった中での自戒を「ドメイン知識の功罪」という切り口で整理したものです。今後の事業開発のためにも記録を残しておこうと思います。

「ドメイン知識 = 特定の専門分野や業界についての知識、知見」といった程度の解釈で書いていきます。

簡単な自己紹介です

元々はフロントエンドエンジニアをしてました。体調管理ツールのUI設計・デザイン/フロントエンド開発に携わった後、社内新規事業としてcyma事業の立ち上げから参画し、現在はcymaの事業責任者をしています。

ドメイン知識の「功」

では、本題に入ります。まずはドメイン知識の「功」の話から。

ドメイン知識の功罪という切り口をテーマにしてますが、基本的にドメイン知識は深めるべきだと考えており、ドメイン知識がもたらすプラスの要素は計り知れないほどあると思います。

敢えて言わずともビジネスマンであれば普段から意識されている方もたくさんいると思いますし、一般常識とされている様な内容も含みますが、私自身の振り返りでもあるので何卒ご容赦下さい。


商売の勝ち筋を考える際のプラス面

あなたの商売の勝ち筋は何なのか?いかにして商売で勝つか?という問いに答えるには、言うまでもなくドメイン知識が必要です。

なぜその業界に参入したのか?という問よりも、商売の勝ち筋を聞かれた時のほうがドメイン知識が求められるかもしれません。

業界構造、商習慣、競合動向等々...抽象度の高い話から、自社は何をすべきか、誰と手を組むべきか、何で勝てたら長く存続出来そうなのか、何で負けたら撤退を考えるべきなのか….等々、商売の勝ち筋を描く上で考えることは少なくありません。

また、技術発展が目覚ましい現代においては至るところに盤面を変えてしまうプレイヤーとしてのゲームチェンジャーがいますし、時には根底にあるゲームルールすら変わってしまう事もあります。また、近年はルールが変わる頻度や速度も上がってきていると感じます。

自分が何のゲームをどんなルールでやっているのかを認識できれば出来るほど、ゲームの勝率は上がります。また、負けにくくする準備も出来ます。
そして、ドメイン知識を深めることはゲームルールの理解に繋がりますので、勝ちやすい(負けにくい)事業開発にも繋がってくると考えています。

私自身の実体験としてはここ数年は特に、ダウンサイドリスクの見積もりにドメイン知識を活用する事が多いです。最近あった話で言えば物流費の高騰や為替変動などが該当します。
参入業界と密接な関連業界も含め、業界に対して深い造詣を持つことが事業の生存率に大きく関係すると考えますので、怠らずに情報を集め続けようと思います。

技術的側面でのプラス面

ドメイン知識があることでの技術的側面におけるプラス面も強く感じます。

ドメイン知識が活用できていると一番多く感じる対象は「データの持ち方」です。エンジニア的にはもっと適した表現があるのかもしれません。何れにせよ優れたデータ保持の設計はビジネスを加速させるという事です。

簡単に例を挙げると、

  • その商売はフロー型なのかストック型なのか

  • 事業戦略上の主軸商品は何で、周辺商材の拡大余地・期待値はどの程度なのか

  • どの様な顧客体験をどのタイミングでどの様に提供したいのか

この様な商売特性の整理にもなるべくドメイン知識を用いることで、事業開発に必要なデータを始めからより適切な形で保持することができ、事業開発スピードを妨げない環境を作り出せると考えています。

特にデータ構造は一度作って走り出してしまうと後から変える難易度が高く、複雑さが増すとデータへのアクセスも難しくなりますので、商売の分析も思うようにいきません。

個人的なスタンスとしては、商売の設計→データ保持の設計への落とし込みの際には、この仕事1つで今後数ヶ月、下手したら年単位で事業が歩むスピードが変わるかもしれないという精神で取り組んでいます。
この様な仕事をする際は時間の許す限り、ドメイン知識を蓄えます。

また、これらは日々の仮説検証・施策実施でも同様です。

ドメイン知識があることで極力無駄なものを作らず、最小工数で検証したい仮説を試し切る、重要な部分は堅く作り、不要な部分は捨てやすいよう作るなど、多くのメリットを享受できると感じています。

機械学習におけるドメイン知識

最近個人的に機械学習に取り組んでいるのですが、ここでもドメイン知識の有無による成果創出度合いの違いをひしひしと実感しています。

詳細は本題に逸れるのでここでは書きませんが、例えばPVやUU、CVR、単価などの一般的な特徴量では実用に耐えるようなものが作れる気がしないという事です。
※私の知識や技術が乏しすぎる事にも問題がありますので、ぜひ界隈にお詳しい方はおすすめの書籍や記事をDMくれるととても喜びます。テーブルデータの取り扱いや時系列分析に特に関心があります。

私の現在地点はダニングクルーガー効果でいう所の左端にいる程度の認識ですが、個別ビジネスにも局所的に機械学習を十分活用できる点があると考えており、汎化性能の高い既製品やプラットフォーマーでは追随出来ないドメイン特化モデルを作って、ビジネスメリットを出せないかを日々妄想しています。

思惑を言えば、当社内にいる機械学習に取り組むエンジニアと、ビジネスサイドにいる人間(私)としてタッグを組んでAI活用を推進するような仕事もより大きな範囲で実践してみたいです。

ビジネスと技術、経営と技術の融解のようなテーマについては、また別の記事で書けたらと思います。

話が脱線しましたが、機械学習においてもドメイン知識が武器になりそうな実感を持っていますという話でした。

ドメイン知識の「罪」

続いて、ドメイン知識の「罪」について。自戒としてはこちらが主題です。

冒頭で「ドメイン知識がもたらすプラスの要素は計り知れない」と書いたとおり、ドメイン知識は原則深めるべきだと考えています。

しかし、多くのプラスをもたらすドメイン知識についても、気をつけないといけない点がいくつか存在していると実感したため、その内容を書き留めておこうと思います。

業界理解が進んだ際に訪れる、無意識的な停滞感に注意する

事業開発が進むと、業界の商習慣や関係各所のパワーバランスなどがある程度見えてきます。
これ自体は良いことでもあるのですが、業界の商習慣が気付かぬ内に自分の常識になってしまうことは危なくもあるという考えに至っています。
少なくとも当社で事業開発に携わる者としては本末転倒です。

わたし達は、既存業界の歪みを本来あるべきだと思う形で具現化することで、既存業界にはない利便性等の価値を提供し対価を頂く活動をしているはずですから、考えなしに既存の習慣に染まりすぎてはいけません。

しかし、特定業界に詳しくなればなるほど、「◯◯業界は△△だから...」という言葉を悪い意味で使っている自分がいます。この思考をしている自分に気付かないと改善のアイデアが生まれにくくなり、事業開発は停滞しかねません。

既存業界には既存業界なりの様々な淘汰を経た末の良い部分も沢山存在していると思います。そういった部分は尊重しつつも、変えるべきと思ったことや自社のビジョンを貫くべきと思ったことについては是々非々で考え、無意識的な悪い意味での慣れにいち早く気付き、自分達の信じるビジョンの達成に向けた活動にフォーカスすべきだと考えます。

事業立ち上げ時のスピード

こちらは余談ですが、
私自身がcyma事業の立ち上げの際に、ECならびに小売、物流などの業界についてあまり詳しく知らなかった事は良かった側面もあったと感じてます。

ドメイン知識が深く業界に詳しいということはそれだけハードルや障害も理解しているという事です。
仮に事業立ち上げ時において根本的な市場選びや提供価値の選定が正しかったとしても、事業開発で超えるべきハードルは多数かつ多岐にわたります。

また、新規事業の最初期における重要ミッションの1つとして、なるべく早く投資対象とすべきか撤退すべきかを検証するという命題があると思っています。

この様な状況で始まる事業立ち上げにおいては、業界理解度が高いからこそ理解できるハードルや障害を一旦頭の隅に追いやり、ハードルの高さに頭を悩ませる事なく一心不乱に事業開発に集中出来たほうが良い時期もあるとのではと思います。
最初から飛び込む業界に合わせすぎてしまっては、事業を軌道に乗せるまで、もしくは追加投資か撤退かの判断まで、何倍もの時間が掛かってしまうと思います。時間は有限でとても貴重です。

当時の自分はドメイン知識が浅く、業界のことをあまり知らなかったからこそ突っ走れた事もあったのだろうと思います。

ただし、飛び込む先の事を知らずに、ただひたすら突っ走った方が良いと主張しているわけではありません。自己の経験に学ぶのであれば、無知は後で悪い形で返ってくる事の方が多かったです。

「知っていた方が良い事が多いドメイン知識が、時として、知ってるからこそ枷となってしまう側面がある事を認識し、自分なりに区別して上手に付き合えると良い」
という主張であることを自戒を込めて明記しておきます。

もちろん、事業開始前に確度の高い勝ち筋を見いだせるレベルまで深堀り出来ており、勝つべくして勝つようなビジネスの始め方もあると思います。いずれはその様なスマートさも持った事業開発もしたいものです。

しかし、お金も人も限られているベンチャーであれば、対象業界に詳しすぎる状態で事業を始めるケースのほうが稀かとも思います。
ドメイン知識との上手な付き合い方、どの程度まで調べてから参入するか、どこだけは事前調査ではっきりさせるべきか、事業開発には永遠とも思えるテーマが尽きません。

引き続きドメイン知識を深め、参入業界において顧客への価値を追求できるよう、ただただ学び続けるのみです。

今回の記事は以上です。

ほとんどが自戒の内容でしたが、何かが少しでも読まれた方の参考になれば幸いです。