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物流DXとは?物流業界における課題や物流DXの有効性、事例等を徹底解説

物流業界で注目されている物流DXについて、有効性や概要を理解できていない方もいるでしょう。物流DXとは、物流業界におけるデジタル変革のことです。
近年、物流業界ではEC市場の拡大に伴う配送の多様化と急増、人手不足の深刻化など、複数の課題が浮上しています。その課題に対して有効策となるのが、物流の各プロセスをデジタル化する物流DXです。
この記事では、物流DXの基礎概要からその有効性、実際の取り組み事例までを徹底解説し、その上でワークフロー導入による事例なども詳しくご紹介します。

この記事でわかること

  • 物流DXの基礎概要やその定義

  • 物流業界の課題とそれに対する有効策

  • 大手企業による物流DXの取り組み事例

こんな方におすすめ

  • 物流DXに関する知識を深めたい

  • 物流DXの取り組みを検討している

  • 物流業界の改善を目指したいと考えている



1.物流DXとは?

物流DXとは、物流業界におけるデジタル変革のことです。そもそもDXは、「Digital Transformation」(デジタルトランスフォーメーション)」の略語であり、日本語ではデジタル技術を用いた変革を意味します。
具体的に物流DXは、入荷・検品、管理、流通加工、配送といった物流の各プロセスにおいて、AIやITなどのデジタル技術を活用し、新たな価値や事業を創出するのが主な目的です。
データを活用して物流の効率化、精度向上、コスト削減を図る取り組みであり、企業の競争力を高める一方で、高品質なサービスを提供し、顧客満足度を向上させるための重要な手段でもあります。

1-1.物流DXの定義

物流DXを明確に定義すると、デジタル技術やデータの活用により、物流の在り方やビジネスモデルを根本から変革することを意味します。
近年では情報化社会が急速に進展しており、各業界がデジタル化の波に乗っている状況です。その中でも、物流業界は特に大きな影響を受けています。
具体的な導入方法として、ITシステムやビッグデータの活用、AIやロボット技術による作業の自動化などが考えられます。これらは全て、物流の一連のプロセスを効率化し、物流に関わる業務をより高速化。そしてコストの削減を図り、精度の向上を図るための活動です。
つまり、物流DXは物流業務のデジタル化により、業績向上を実現するための効果的な活動だと言えます。


2.物流業界の現状と課題

物流業界は日々、急速に変化しています。その中で、「世の中のデジタル化に対応できていない」「既存システムが複雑化し過ぎている」という悩みを抱える事業者も多く存在します。
まずは、これら物流業界の現状と課題を明確にしましょう。本項では、以下4つの課題に分けて、それぞれを詳しく解説します。

  1. EC市場の拡大に伴う配送の多様化と急増

  2. 人手不足の深刻化

  3. 燃料等による配送コストの変動

  4. 2024年問題への対応

各ポイントを1つずつ見ていきましょう。

2-1.EC市場の拡大に伴う配送の多様化と急増

EC市場の急速な拡大に伴い、配送の需要が急増しています。顧客のニーズは多様化し、個々の配送要件も複雑化しているため、事業者にかかる負担が大きくなっているのです。
経済産業省が2022年8月に公表した「電子商取引に関する市場調査の結果」によると、物販系分野のBtoC-EC市場規模は、2019年から2021年にかけて拡大傾向にあります。

【2019年から2021年までの推移】

このように、物流業界でのEC市場は年々拡大を続けており、これまでより柔軟性と効率性が求められるようになりました。また、時間指定配送や配送先変更など、多種多様なサービスも要求されています。
しかし、現状の物流インフラや人員、システムでは、新たな要求に対応するのは難しい傾向にあります。

2-2.人手不足の深刻化

2つ目の課題は、人手不足が深刻化していることです。運転手の高齢化と若者の物流業界への就労意欲の低下が重なり、深刻な労働力不足が続いています。それに加えて、EC市場の拡大によって人手不足はさらに拍車をかけています。

【人手不足による業務トラブルの一例】

  • 配送の遅延やミス

  • 倉庫内の混乱

  • 返品・クレームの増加

  • 労働事故の発生

また、人手不足が顕在化したことで、物流業界では以前にも増して長時間労働が定着しています。国土交通省が2023年2月に公表した「最近の物流政策の動向について」によると、トラック運送事業においての労働時間は、全職業平均より2割長いと示されています。
このような現状は、物流DXの推進が急務であることを意味します。物流プロセスのデジタル化や自動化は、人手不足問題の解決に寄与し、さらには労働環境の改善や業務効率化にも期待できるのです。

2-3.燃料等による配送コストの変動

物流業界における燃料等による配送コストの変動も無視できません。物流業界はロシアによるウクライナ侵攻など、経済状況の変化にも影響を受けています。
燃料価格の上昇は配送コストに大きな影響を及ぼし、結果として事業者の利益を圧迫する可能性があるのです。その上で、新たな運賃制度や配送網の最適化など、物流業界には定期的に戦略的な判断を求める声が上がります。
これらの課題に対処するためには、データ分析やAI技術を活用した予測モデルが必要となります。これもまた、物流DXが業界の成長と持続可能性を支える一例です。

2-4.2024年問題への対応

忘れてはならない物流業界の課題が、この「2024年問題」への対応です。これは、2024年4月からトラックドライバーの時間外労働の960時間上限規制と改正改善基準告示が適用され、人手不足が重なり物流業界がさらに深刻化する問題を表しています。
2024年以降は時間外労働がより制限されることで、運送能力が業界全体で低下し、「モノを運べなくなる」という可能性が危惧されます。
この問題への対策として、運転支援システムの導入や無人配送技術の開発など、物流DXを急速に進めなければなりません。人間が直面する困難なタスクを機械が担当することで、業界全体の労働力を補完し、高品質なサービスの維持に繋がります。


3.物流DXの有効性とは

物流DXは、これら複雑な課題に対応するための効果的な手段です。特に物流業界では、大量のデータを扱う必要があるため、デジタル技術の活用はほぼ必須と言えるでしょう。
それでは、具体的に物流DXがどのような有効性をもたらすのか、以下4つのポイントに分けて解説します。

3-1.在庫管理の効率化

最初に挙げられるのが、在庫管理の効率化です。デジタル技術を物流業務に導入することで、在庫の数量や位置、動きをリアルタイムで把握することが可能になります。
これまでの在庫管理では、人員工数がかかる、管理方法が属人化する、発注元ごとに管理方法が違うなど、複数の課題がありました。これらは、アナログ管理だからこその課題と言えます。
そこにデジタル技術を活用したDXを適用させることで、過剰在庫や品薄を避けることができ、結果的にコストの削減に繋がります。また、AIを活用した需要予測も可能となり、より精度の高い在庫管理が実現するでしょう。

3-2.配送ルートの最適化

物流DXが実現すれば、配送ルートの最適化も図れます。物流DXによってビッグデータを活用し、最適な配送ルートを算出できるようになれば、配送効率の大幅な向上に期待できます。それに伴い、以下のようなメリットが見込めます。

  • 不必要な運行時間の削減

  • 燃料コストの削減

  • 労働力の削減

また、道路交通情報をリアルタイムで取り入れることで、交通渋滞や道路工事情報に基づくルートの再設定も可能です。これにより、2024年問題や人手不足問題を根本から解決するための糸口となります。

3-3.倉庫内の自動化

3つ目の有効性は、倉庫内の自動化です。物流DXの導入により、倉庫や物流センターの自動化を実現できます。
現状、物流業界では、長時間労働や肉体労働といったマイナスイメージが定着しています。このマイナスイメージにより人手の確保が難航し、結果として人手不足問題に大きな影響を与えているのです。
しかし、倉庫や物流センターに物流DXを適用させ、在庫の入出庫作業や仕分け作業など、重労働や単純作業を自動化することができれば、働き方の変化やマイナスイメージの払拭に繋がる可能性があります。
例えば、自動棚搬送ロボットを導入することで、これまで人手を必要としていたピッキング作業の負担を軽減可能です。さらに、IoT技術を用いた温度管理や湿度管理などは、倉庫や物流センターの品質管理に大いに貢献します。

3-4.顧客体験の改善

物流DXは単に運用効率を上げるだけでなく、顧客体験の向上にも寄与します。これは、製品の製造から顧客に届くまでの一連の流れをデジタル化することで、より透明性が高まり、顧客からの信頼を一層深めることができるためです。
具体的には、運送会社が配送状況をリアルタイムで共有することで、顧客は商品の到着時間を正確に把握できます。つまり、顧客は自分のスケジュールに合わせて、商品の受け取り時間を調整することが可能になるのです。
このような体験は、顧客満足度を向上させるだけでなく、企業と顧客とのコミュニケーションを強化し、ブランド価値を高めることにも繋がります。そのほか、物流DXによる顧客体験の改善メリットは以下の通りです。

このように物流DXは企業にとって重要な戦略であり、積極的な取り組みが求められています。物流DXを通じて、企業は高い顧客満足度を維持し、競争優位性を強化することが可能になります。


4.物流DXの取り組み事例

現代の物流業界では、物流DXの重要性が認識されているため、中小から大手まで、さまざまな企業が具体的な取り組みを開始しています。その一例として、以下4つの企業における物流DXの取り組み内容を紹介します。

  1. 【三菱商事】倉庫のデジタル化

  2. 【トヨタL&F(豊田自動織機)】倉庫の自動化

  3. 【山九】配送のデジタル化

  4. 【ヤマト運輸】物流全体のデジタル化

各事例を把握することで、物流DXの理解がより深まるはずです。

4-1.【三菱商事】倉庫のデジタル化

三菱商事は物流DXの一環として、倉庫のデジタル化に取り組んでいます。同社では、「利用者と提供者の倉庫需給を最適化したい」という理由から、シェアリング型倉庫利用サービス「WareX」を導入しました。
この「WareX」が倉庫提供者と利用者を繋ぐプラットフォームになることで、利用の手間の解消やコストの削減などの効果に期待できます。また、利用者・提供者のニーズを合致させ、物流産業全体の活性化に繋がる施策を展開しました。
さらに三菱商事は、倉庫内の仕分け作業を自動化するロボットを導入しています。人間の作業負荷を軽減し、作業ミスの防止にも貢献しています。

4-2.【トヨタL&F(豊田自動織機)】倉庫の自動化

トヨタL&F(豊田自動織機)は物流DXを活用し、倉庫の自動化を図っています。「ULTRA Blue」という自動荷役ロボットを導入したことで、高速処理、全方向移動、自動運転での荷下ろし・積込みを実現しています。
また、ローディングの際は、ケースの大きさに基づいて、縦積み/横積みの最適な方式を選択し、コンテナ内に積み込むことが可能です。このようにトヨタL&F(豊田自動織機)は、労働集約的な倉庫業務を自動化・効率化することで、人手不足の解消や労働時間の削減を図っています。
さらに倉庫業務を自動化することで、作業者を重労働から解放するだけでなく、コンテナ内の密集を避けることにより、新型コロナウイルスの感染防止にも役立てています。

4-3.【山九】配送のデジタル化

山九は元より、業務に関わる多種多様な手書き紙帳票の手入力にかかる業務時間の削減が課題でした。そこで「AI-OCR」というAI技術を活用したOCRを導入したことで、業務時間の削減や担当者負荷の軽減を実現しました。
この物流DX化は「読みにくい手書き文字も自動で読み取って手入力作業を省力化したい」という背景から着手し、AI-OCRであるデータ入力業務支援ツール「DX Suite」を導入しました。

【「DX Suite」とは?】
「DX Suite」は、AIの学習機能を搭載している紙帳票読み取り支援ツールです。発行元によってフォーマットが異なる非定型帳票の読み取りにも対応しています。
山九はデータ化業務に必要な書類仕分けをAIで実現し、導入から約1年で全国の拠点に浸透させました。デジタル化の導入により、点検記録、作業日報、請求書、出勤簿を合わせて、月間約400時間の業務時間の削減に成功しています。

4-4.【ヤマト運輸】物流全体のデジタル化

ヤマト運輸を傘下に持つヤマトホールディングスは、物流全体のデジタル化を目指しています。2020年7月から機械学習の技術を活用し始め、営業所における業務量予測の精度向上に努めています。
また、ECエコシステムの確立も行っており、ヤマト運輸と連携したECサイトなどの注文商品は、自宅の玄関前やガスメーターボックス、車庫などへの置き配の指定が可能です。EC事業者とヤマト運輸のデータやシステムはAPIで連携され、顧客の多様なニーズに対応できるようになっています。
さらに、ヤマトグループ横断のプラットフォーム「ヤマトデジタルプラットフォーム」を構築するなど、ヤマトホールディングスは積極的に物流業界のDX化を推進しています。


5.ワークフロー導入による物流DX & 事例紹介

物流DXは、ワークフローのデジタル化を通じて具体的な形を取ることが多いです。その導入の具体例として、以下3つのパターンをそれぞれ紹介します。

  1. 配送手続きのデジタル化

  2. 従業員管理のデジタル化

  3. DX基盤の構築

これらの導入例を知ることで、物流DXのイメージがより明確になるでしょう。各ポイントを順番に解説していきます。

5-1.配送手続きのデジタル化

配送手続きのデジタル化は、物流DXの一環として特に重要です。運送会社や配送員が使用する配送伝票などの情報をデジタル化することで、リアルタイムでの情報共有や、データベース化による情報分析が可能になります。
例えば、配送伝票の情報をスキャンしてデータ化することで、データベース上で一元管理が可能となり、配送状況の把握や、配送ルートの最適化が容易になります。また、デジタル化により、配送伝票の紛失や誤入力などのリスクを軽減し、より正確な配送管理を実現できるのです。
また、倉庫業務では伝票や送り状など、多くの紙が使われているため、これらをデジタル化すれば、配送効率の向上や管理のコスト削減だけでなく、サービスの質の向上にも期待が持てます。

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5-2.従業員管理のデジタル化

物流業界におけるDXの取り組みは、従業員管理にも大きな影響を与えます。特に、従業員のスケジュール管理や業務分担など、日常の業務遂行に直結する部分のデジタル化は、業務効率の大幅な向上を実現します。

【従業員管理のデジタル化の一例】

  • 紙で管理していた従業員のシフトをデジタル化する

  • 従業員の能力や特性に応じてデータベース化する

  • モバイル勤怠管理システムを導入する

従来は紙で管理していた従業員の勤怠やシフト、または業務進行状況などの情報を一元的にデジタル化することで、リアルタイムでの情報共有や迅速な意思決定が可能となります。その結果、急な人員の変動や業務量の変化にも迅速に対応できるようになり、業務の効率化に繋がります。
また、従業員の能力や特性を公平に判断し、正確な評価を下すためにも、従業員管理のデジタル化が必要です。従業員の情報をデータベースとして活用すれば、業務の効率化だけでなく、従業員の満足度向上にも寄与します。

5-3.DX基盤の構築

物流DXを成功させるためには、各部門のデジタル化だけでなく、一元的に管理できるDX基盤の構築が必須です。このDX基盤は、物流業務における情報を一元的に管理することで、各部門間の情報共有をスムーズにします。
また、AIを活用したデータ分析により、各種業務プロセスの最適化を実現し、物流全体の効率化だけでなく、顧客サービスの質の向上も図れます。
さらに、このようなDX基盤は、新たな技術の導入やシステムのアップデートを容易にするため、常に最先端の状態を維持することが可能です。DX基盤を構築することで、競争力の維持と業務効率化の両方を実現できます。

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6.まとめ

この記事では、物流DXの定義や有効性、具体的な取り組み事例を紹介しました。
物流DXとは物流業界におけるデジタル変革のことであり、明確に定義すると、物流の在り方やビジネスモデルを根本から変革することを意味します。物流業界は現在、複雑な課題をいくつも抱えており、それらを解決に導くものとして物流DXが注目されています。
今回紹介した三菱商事やトヨタL&F、山九、ヤマト運輸の取り組み事例、そして物流DX導入の具体例を参考にし、物流DXの取り組みを積極的に進めてみてください。


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