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なんか楽しそう、が世界を作る

朝ドラ「半分、青い」の主題歌、星野源の「アイデア」です。理由は読み終わる頃にはわかってもらえると思います。

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飲み会が苦手だ。得意ではない、というのが正確かもしれない。声が低く、通りが悪いのですぐ喉が痛くなるし、ぼーっとした性格のせいでどんどん話においてかれ、ほとんど上の空で飲み会の帰り道を、お酒で重くなった頭を抱えながら歩くことになる。だから、お酒を飲む時はできるだけ親しい人と静かに飲みたいと思って来た。

しかし、そんな僕が1ヶ月以上も先に開催される、ある飲み会を楽しみにしている。かつて大学で演劇を共に作った仲間と行う「プロダクション(架空)打ち上げ」だ。
説明が必要だ。まず、プロダクションについて。プロダクションとは、舞台芸術の公演を行う際に運営を行うためにできる、演者やスタッフの集まりのこと指す。映画では座組、演劇では劇団、広告業界では制作プロと呼ばれたりする、何かを作り出す(product)集団である。
次に打ち上げの説明だ。辞書には、

興行・仕事の終わり。また、そのあとの慰労会。(三省堂国語辞典)

とある。今回参加する打ち上げは、演劇公演を行うプロダクションのものなので、プロダクション打ち上げ=演劇公演を行なった後の慰労会と言うことになる。

ところが、だ。このプロダクションは架空のものなのである。打ち上げる対象の公演がないのだ。慰労会なのに、集まる人々との思い出も、努力も、深夜まで語れる感動秘話もないので、ねぎらうものが何もないのだ。

しかし、開催が提案されるやいなや、参加を希望する人が続々と集まった。社会人となり、忙しい日々を過ごすかつての仲間たちが、スケジュールをその日のために確保した。地方にいて当日参加できない人まで参加者リストに【その他】の参加者として書き込まれるほどの盛り上がりを見せている。(【その他】の参加者には、突然来たOB、という設定も存在する。笑)

主催者のコメントの、重要だと思う要素を独断で勝手に抽出するとこうなる。

社会人になって打ち上げというものをしなくなり、さみしい。みんなに久しぶりに会えるいい機会だから主催します!架空だけどね!

実にシンプルかつ自分の気持ちに正直な開催理由だ。もし仮に、主催者の意中の人が参加者の中にいて、その人を落とすためだけに開催した邪念にまみれた会だとしても、この打ち上げはそれに有り余るプラスの効果をもたらしている。(主催者には恋人がいるのでそんなことは、多分ない。)

僕がなぜこんな文章を書いているかと言うと、人間の脳の素晴らしい能力に改めて気づいてしまったからだ。それは、対象がフィクションのものでも人は動き、お金を払い、喜びを感じる、ということだ。もう少し詳しく説明する。

今回主催者の提案した、打ち上げを行う理由となる公演は架空、つまりフィクションだ。フィクションであるということは現実には存在しない、ということなので、参加者にとっても実体は存在しない。しかし、参加者はわざわざ参加費を払い、わざわざ開催される居酒屋まで足を運び、わざわざ打ち上がる。はっきり言って、時間とお金と体力を使ってただ人と酒を飲む、ということは生きる、ということにおいてはほとんど意味をなさない。ではなぜ、参加者はわざわざそんなことをするのか。

なんか楽しそうだから。

これが、本当の理由だ。参加者の中には別の参加者と喧嘩中で目も合わせたくもない人がいるかもしれない。酒の席が苦手で、みんなでワイワイするのがあまり得意でない人もいるかもしれない。けれども、参加者は参加者たるゆえに、参加する。なんだかんだ酔っ払って次の日二日酔いになるかもしれないのに、参加する。楽しいという保証すらいらない。なんか楽しそう、ただそれだけで参加する。

かつて出演した舞台の演出を取っていた先輩に、サプライズでプレゼントをあげたことがあった。プレゼントは、腰の高さを優に超えるキリンのぬいぐるみ。巨大なキリンを背中に縛り付け、冷ややかな注目を集めながら12月の寒空の下、自転車を走らせた。その様子は動画に収められ、SNS上にも公開された。当時18歳、髪はボサボサの自分の姿が動画の中にある。トレンチコートを着るその背中にはキリンがくくりつけられ、相当奇妙な格好をしながら街を歩く自分は、カメラに向かってこんなことを言い放っている。

まあ、みんなが笑顔になってくれたらいいですよ。

当時はなんかいいこと言ってやろう、くらいの軽い気持ちで言っていたであろうこの言葉に驚かされた。ただ楽しんでばかなことをやっていた自分が、とても大切なことを言っていたことに気づいた。

なんか楽しそう、だから時間とお金と体力を使って人のために何かをする。それで人が笑顔になると、かけた時間とお金と体力など余裕で報われる。なんという商売なのだろうか。趣味に当てられる時間は潰れ、家計的にはただの赤字、しかも疲れる。けれど楽しい、の一点だけでなぜかペイしている。偽善だの無駄だの言われても、痛くもかゆくもない。自分の考えと行動の結果、他人が幸福になり、自分も幸福になることが人間にとって快楽なのだ。

だからこそ、今回開催される(架空)打ち上げの主催者は素晴らしい。頭の中で、なんか楽しそう、と考えたアイデアをみんなにもシェアしたことで、なんか楽しそう、と人とものとお金が動く。主催者と参加者、それにお店の人がその場に集まり、農家の人や漁師さんが育てたりとって来たりしたものを材料にした食事やお酒が誰かが作った食器の上に並び、参加費はお店の利益になり、誰かの生活を支える。

もちろん、架空ではなく時間とお金と体力を使って成し遂げた何かの打ち上げではその分さらに楽しみが増す。しかし本当に大切なのは、なんか楽しそう、の部分である。

ここで人類の歴史を振り返ってみると、いろんな場面でなんか楽しそう、があったのではないか、と気づく。

なんか楽しそう。だから、人は宇宙を目指した。
なんか楽しそう。だから、人は音楽を奏で始めた。
なんか楽しそう。だから、人はオリンピックに熱狂している。

(宇宙の例に関連して、この意味でZOZOの前澤社長はすごい。莫大なお金と、少年のような純粋さがなければこんなことは思いつかないし、ましてや実行などできない。)

そう考えると、何かが始まる時(つまり歴史が作られるとき)、そこには必ず、なんか楽しそう、があることに気づく。人類はなんか楽しそう、と歴史を重ねて来た、と思うとワクワクする。時に自分のなんか楽しそう、が他の人を傷つけてしまうこともあるが、その時はしっかり謝って、その人を含めたもっと多くの人がなんか楽しそう、と思うことを始めればいい。

これからも世界中の人が考える「なんか楽しそう」が世界をより良いものにするに違いない。


何が言いたいかというと、飲み会が苦手だったはずなのに、まだ一ヶ月以上も先にある(架空)打ち上げが、なんか楽しそうだから楽しみで仕方ないのだ。



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あとがき:なんか楽しそう、というのは好奇心とい言葉に置き換えられます。好奇心から生まれる考え、それがアイデアです。星野源が染みますね。ここでネタバレしますが、朝ドラ見てませんごめんなさい語れません。笑
あと全然関係ないんですが、タイトルって決めるの難しいです。今回はバズりそうな「飲み会嫌いな僕が、今度ある飲み会が楽しみで仕方なくなった訳」、真面目に「アイデアが世界に与える良い影響」、ちょっと抽象的に「ひらめきのランプが、世界を照らす」などが候補に思い浮かびました。より多くの人に読んでもらうために、その時々で名前を変えるのはなんか楽しそう、というアイデアが浮かびました。

素直に書きます。出会った人やものが、自分の人生からどう見えるのかを記録しています。