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    へんなものを見つけて考えて遠くから眺める 整合性と破壊、偏愛と狂気/冷静な神経質

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僕はアレルギーのことを嫌いになれない

「え、かわいそう!!」 アレルギーがある事を打ち明ける度に、こう言われてきた。 あとは「アイスが食べられないなんて人生損してる」「え、ヨーグルトもダメなの?」「卵かけご飯食べたことないのか〜」なんてのが定番フレーズ。 こっちは何百回と繰り返したやり取りだからちっとも愉快じゃないけど、毎回新鮮なリアクションをしてもらえるので、鉄板ネタを劇場で何度も何度も繰り返すお笑い芸人もこんな気持ちなのかなあ、なんて考えたりもする。 僕は生の牛乳、生の卵、キウイが食べられない。昔

    • 傷をみせあうとき

      「商店街の看板見える?」 「ちょうど今看板の下にいます。」 「あ、見えた見えた」 携帯電話を片手に近づいてくる彼女は、1つ年下の大学の後輩だ。長身で顔のパーツがはっきりとした彼女は大学時代の演劇仲間で、一緒の公演に出たこともあった。 たまたま彼女がTwitterで「今晩お酒を飲みたい」とツイートしているのを見た僕は、その日の予定がその直前にキャンセルになったこともあり、少し思い切って彼女に連絡したのだった。 演劇仲間と紹介したが、僕が他人との距離をかなり慎重にはかる

      • 見えざる奔流

        あの朝、駅のホームから改札口へとつながる階段を下りていく人々の姿が、排水溝に吸い込まれる水にしか見えなかった。 人々の群れは、ただ物体の集まりでしかなく、血の通っている動物、ましてや意思を持つ人間とは思えなかった。それぞれにどれだけ濃密な人生が詰まっていようとも、あの流れには逆らおうとするものもないし、立ち止まることも許されていなかった。仮に自分があの中にいたとして、歩き方こそ違えど同じ動きをしていた。そういう意味で、彼らにとっては自分の姿も電車に吸い込まれる水でしかなかっ

        • 植物への憧れ、肉体への囚われ

          私たちは見えない糸を持っている。 緊張?良識?感性?あるいは現世とのつながり? 何かはわからないのにそれが無いと自分が壊れてしまう怖さだけは何よりも理解している。 狂った人を見るたびに、私たちと何が違うのだろうと思う。 どこが私と彼らを分け、分かり合えない、向こう側に向かってしまうのだろう、と思う。 けれど、私とは決して違うということで少し安心している自分がいる。常識と比較して、自分がこちら側にいることに安らいでしまう。その意識こそが彼らをより苦しめていると

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          冷たい想像、赤いランプ

          ひと月ほど前、家の近くの交差点で事故があった。車とバイクがぶつかり、救急車が来て警察が現場検証するような事故だった。 僕はランニング帰りにその場を通った。最近は週に何度か、仕事終わりに帰宅してからご飯を食べる前に走っていて、その日も夜道を家に向かって帰っていたのだ。救急車と警察車両の赤いテールランプに照らされたいつもの道は、妙に現実味がなかった。 交差点の傍らには青いバイクが横たわり、前面のガラスは粉々になっていた。救急車はちょうど発車するところで、警察と現場に居合わせた

          冷たい想像、赤いランプ

          顔も名前もない言葉

          満員電車に毎日揺られるようになってもうすぐ一年、混み合った電車に乗ることが日常になりつつある。一時は押しつぶされそうになっていた東京の無機質な空気に少しは溶け込むことができたようにも思えて、少しだけ胸を張っている。 満員電車は疲れる。人が目の前にいる。後から乗り込んだ人が押してくる。押された人が押した人を睨み、聞こえるように舌打ちをする。 そんな満員電車を多くの人が待つ待つ朝のホームに昨日は怒号が響いた。通勤時間の混雑したホーム上で、何人もの人が振り返る。だが、仕事に急ぐ

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          都会の呼吸

          最近更新できていなかったけれど、こんな風にぽつぽつとあげるだけえらい、と自分を励まして書いています。 ―――――――――――――――――――― 今年の花粉症はなんだかおとなしい。 確かに目はかゆくて鼻水は出るけれど、昨年までのこの時期と比べると、びっくりするくらい鼻も目も穏やかだ。毎年春以外も鼻をかみながら過ごしているくらいのひどい花粉症持ちなので、今年は肩透かしを食らったような気分だ。 どうした花粉。いないといないでさみしいとかは全くないけど気にはなるぞ。 スギ、

          都会の呼吸

          美しいストーリーに食い殺される

          思い出を美化してしまう。そして、その思い出に苦しめられる。 苦しい思い出を消化するために、ときにその思い出を美化してしまう。 苦しい思い出を消化するため、は「乗り越えた自分」を肯定するため、と言い換えてもいい。下積みや修行、挫折の経験が成功につながっている、というのは耳触りがいい。つらければつらいほどそれを乗り越える感動は大きい。美しいストーリーは語りたくなり、何度も何度も繰り返し語ってしまう。 そのせいで現実がうまく見られなくなることがある。 つらかったことを乗り越えた

          美しいストーリーに食い殺される

          ピーマン

          嫌いな食べ物代表の、ピーマン。 においや苦みが苦手という人、かなりいます。 おとなでも嫌いという人、結構みます。 さて、嫌われ者のピーマンについて。 実はピーマンアレルギーというのもあったりします。 ピーマンを食べたくても食べられない、という人がいます。 好き嫌いとアレルギーは明確に違います。 体に取り込みたいと思うかどうかが好き嫌い。 その意思に関係なく体が拒否するのがアレルギーです。 それを混同している人、わりといます。たくさんいます。 好き嫌いを

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          今日できたこと

          僕は昨夏会社を休んでいた時、思い出すとiphoneの画面を開いて「今日できたこと」というメモを書いていた。 8月12日、普段人に話せなかったことを友達に話せた。 8月14日、早稲田松竹で映画を2本みた。 8月24日、部屋の掃除ができた。 9月2日、友達と晩御飯を食べた。 9月12日、洗剤を買った。 こんな具合だ。本当にささいなことも書いていた。 今日たまたまメモを見返しているときに「今日できたこと」のファイルを見つけた。すっかり最近は書かなくなってしまっていたことに気が

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          女のように走る男

          女のように走る男を見た。 いや、正確にいうのならば「見た目はおじさんと呼ばれる風貌だが、(軽くこぶしを握った状態でわきを締めつつも、ひじから先を左右に振りながら走る)いわゆる女の子走りをしている人」を見た。 なぜその人だけを覚えているのだろうか、と僕は考える。小学校の近くで交通整理をしていた人、駅前であいさつ運動をしている人、電車で隣に座った人のことも覚えているけれど、印象には残っていない。何が特別だったのだろうか。 違和感と言ってしまえばそれまでだ。 性別が男性・女性

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          からまり、そして、ほどき

          どういうわけか、絡まったものを見るのが好きだ。 あまったたこ糸、教室の大縄、イヤホンのケーブル。 放っておくといつの間にか絡まるあいつらのことだ。誰かが夜寝ている間にこっそりぐちゃぐちゃにしてるんじゃないかというほどあいつらは絡まる。絡まろう、という意思が見える。 あいつらを好きだといったが、正確にいうと、絡まったあいつらをほどくのが好きだ。ぐちゃぐちゃであればあるほどいい。やりがいというものが生まれる。 端と端を探す。一度離れてみて大体の絡まり方を見る。ほぐし

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          夕日が沈まないころの話

          高校一年生の春、僕はサッカー部に入れなかった。新入生が入部届を提出するはずの日の放課後、徐々に人が減っていく教室で、いつまでもいつまでも椅子から立ち上がれなかった。体験入部にも行き、入部届も書いていたのにもかかわらず。 とても奇妙な時間だった。幼稚園の頃からサッカーを好きで続けていたから高校でも当然続けるものだと考えていた。確かに体験入部の時に何かが違うなとは思ったが、入らないという決断をするにはあまりに漠然とした理由だった。この理由は今でもわからない。なんとなく入らなかっ

          夕日が沈まないころの話

          ふゆのおとずれ

          紅葉が終わり、風が吹く。 植物から色がどんどんなくなっていく頃、朝起きるのがつらくなる。 まだ起きなくて大丈夫、あと5分寝よう。そうやってまた目を閉じる。 起きなくてはいけない理由など、何も無いように思う。 そして、あたたかい布団から出ない理由は無限に出てくる。 空腹ごときでは僕を布団からは引っ張り出せない。先回りして枕元にパンを置いている。 暁を覚えないのは春だけではない。むしろ冬は起きていてもかたくなに布団という聖域を守ろうとする。 あたたかい布団とや

          ふゆのおとずれ

          おいしい読書

          小学生のころに読書カードというものがあった。あれはどこの学校にもあったのだろうか。 僕の学校の読書カードは、自分の読んだ本を記録し、月に一度くらい先生に見せる。そしてスタンプをもらう、というものだった。 帰りの会の先生はときどきこの読書カードを話題にした。先生は読書をたくさんすることを褒めた。色んな世界を見たり、感じたりするのに読書はいい、と教えてくれた。 先生のねらい通り、生徒たちは読書する子はかっこいい、という空気を作り出した。もちろんかっこよさでいうと足の速い子に

          おいしい読書

          うしろのワイパー

          ワイパーはいつでも、車のガラスからしずくを払ってくれる。 一定のリズムで淡々と自分の仕事をこなすワイパーは、毎日毎日会社に行って指示を受けて働く人間のようだな、と久しぶり雨が降った日に、その中をゆく車を眺めているときに思った。 幼いころ、日曜日になると蕎麦屋に出かけるのが我が家の定番だった。 蕎麦屋に向かう車では、前方には大人が、後方に子供が座った。 日曜日は特別朝の遅かった我が家では、15時まえに蕎麦屋に向かうのがたいていだった。 毎週通っていたから、もちろん雨の

          うしろのワイパー