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中学生時代に学んだこと

中学2年生の夏、僕は1つ学んだ。

それは『無駄なことなんてない、なんてことはない』ということ。

それを学んだのだから無駄じゃないのでは、みたいな屁理屈にはウンザリ。

本当に無駄なことはある。

今日は、僕がそう考えるに至った経緯を、ここに書き記したいと思う。


中学生の頃、僕は何人かの友達とよく[谷野]の家に行っていた。

谷野は、怒ったところを見たことがない、同級生の中で最も心の優しい男の1人だった。

ニコニコしているわけではないけれど、なぜか谷野からはいつも朗らかな空気が流れていた。

そんな谷野の住む家は、僕の家から歩いて5分くらいのところにあるマンションで、間取りは3LDK。

谷野の部屋は4畳半の個室だった。

部屋には大きな勉強机と、ロフトベッドが置いてあり、それはそれはとても狭かった。

いつも僕たちはそこでテレビゲームをしたり、カードゲームをして遊んでいた。

その日、いつものように谷野の部屋には友達数人が集まっていた。

そして、集まってすぐ誰かがこんなことを言い出した。

「この部屋狭いけど、模様替えしたらちょっとは広くなるんちゃうか?」

それを聞いた僕たちは全員が賛同し、谷野の部屋の模様替えをすることにした。

ロフトベッドの向きを変え、勉強机の向きも変えた。

勉強机の向きを変える時、全員が思ったことがあった。

それは「光が入らなくなった」ということ。

というのも、谷野の部屋には窓が1つあったのだが、模様替え前はちょうどその窓を避けるようにして勉強机とロフトベッドが配置されていたのだが、模様替え後は勉強机が窓の前に置かれて、もう窓は見えなくなっていた。

『光が入らなくなった』とは思ってはいたものの、全員なぜか模様替えに満足していた。

谷野の表情は読めなかったが、さほど悪い風には思っていなさそうだった。

そして、その日僕らは模様替えだけをして、谷野の家を去った。

次の日、学校で会った谷野は少し元気がなさそうに見えた。

理由を聞いてみると、昨日の模様替えが原因だった。

模様替えを終えて僕たちが帰ったあと、仕事から帰宅した父親がその部屋を見て『これは一体どういうことだ』となったらしい。

そして、父親がすぐに模様替え前の状態に部屋を戻したということだった。

理由は明確。

窓だ。

窓が机に隠されたせいで、光が入らないし風が通らない。

独房状態。

しかも、おそらく模様替え前と後で広さは変わっていない。

なぜか達成感のあった僕たちは、広くなった気がしていたが、実際はそんなことはなかった。

その日の放課後、谷野の家に行って昨日の模様替えメンバー全員で部屋を見た。

僕たちはそれぞれが顔を見合わせて、同じことを思った。

『昨日の模様替えは完全に無駄だった』と。

無駄は実在する。

無駄なことなんてない、なんてのはなかった。

僕たちは模様替えを通して、そのことを学んだ。

谷野の部屋の窓からは、光が差し込み、少し風が吹いていた。

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