不動産投資で法人化するメリット・デメリットとは?

不動産投資で利益が増えると税金対策や相続対策を考える機会が増えてきます。そのような悩みを解消するための手段として期待される不動産事業の法人化について説明します。法人化によるメリットやデメリットのほか、判断基準などについて触れるので、参考にしてみてください。

1.法人化のメリット

まずは法人化のメリットについて確認します。
事業所得の節税
①法人税率が一定
一定税率が課せられる法人は課税所得額が大きくなるほど、個人(個人事業者)よりも納税額が少なくなります。
個人の所得に対する税率は分離課税の対象等を除き、段階的に5%から45%となっており、900万円超からは33%以上になります。
一方、法人の所得に対する税率(実効税率)は、資本金が1億円超の普通法人は約31%、資本金1億円以下の中小法人は所得額によって22%~34%ほどです。
単純に個人と法人の税率を考えた場合、所得額が900万円を超えていくケースでは法人の税率は一定なので個人よりも納税額が少なります。

また、法人の場合は個人事業者よりも損金で処理できる項目が多いため個人以上に課税所得額を低くできるため納税額を低減しやすいのです。

②役員報酬
役員報酬は損金扱いとなるため事業収入から控除でき課税所得を低くできます。
個人の場合は、「事業収入-経費=課税所得」となりますが、法人の場合は、「事業収入-経費-役員報酬=課税所得」です。もちろん役員報酬にも税金がかかりますが、給与所得控除、所得控除、社会保険料を差し引けるので個人以上に税金を抑えやすくなります。

③所得分散(役員を複数人とする節税メリット)
家族等を役員にして彼らに役員報酬を支払うことで法人所得の分散が実現され、法人の課税所得額を低減することができます。
例えば、役員1名(事業主)に1,200万円の報酬を支給する場合のその課税所得は
1,200万円-220万円(給与所得控除)-38万円(所得控除)=942万円
となります。
また、このときの所得税額は
942万円×0.33-153.6万円=約157.3万円
になります(法人の課税所得は役員報酬により0円とする)。
しかし、役員を2名にして各々の報酬を600万円ずつ支給すると、役員1名の課税所得は
600万円-174万円(給与所得控除)-38万円(所得控除)=388万円
です。
その所得税額は
388万円×0.2-42.75万円=約34.9万円
になります。このケースでの役員2名の所得税額は約69.8万円となり、役員が1名だけの場合の約157.3万円よりも大幅に削減できます。

④役員への退職金
役員への適正な退職金の支払いは損金扱いとなるため節税につながります。また、退職金を得る役員の税金は退職金所得控除を含む有利な算定方法が採用されるので、通常の給与所得によりも課税所得が低くなるのです。
なお、退職金の資金を準備するために損金扱い可能な生命保険に加入すれば法人での節税ができます。

⑤広範囲の費用計上
法人は、「借家の社宅扱い」「出張手当」「社員旅行」など広範囲の経費を損金扱いにすることが可能です。
また、経営セーフティ共済の掛金や生命保険の保険料などは、全額あるいはその一部を損金として計上できます。利益を抑えながら万が一のリスクの備えがしやすいのが法人化の最大のメリットといえます。

1-2 事業上のメリット
このほか、節税や事業上のメリットも多くあります。
①欠損金の繰越し
法人化により過去7年まで損失は繰越利益と相殺できます。
個人事業者でも青色申告をしている場合、損失を繰越せますが期間は3年間です。一方、法人の場合、ある年に大きな赤字を計上しても以降7年間は利益と相殺できます。

②消費税の免税
法人化の前に個人事業者として消費税の免税を受けていたとしても、法人化すれば個人とは関係なく2事業年度の消費税免税の適用が受けられます。
ただし、資本金が1000万円未満の法人で、2年前の売上げが1000万円以下であるなどの要件があります。

③個人の損益通算より有利
法人は損益通算の概念が当てはまらず、結果的に個人以上の損益通算が可能です。
個人事業の場合、不動産による売却損を他の所得である給与所得や株式の譲渡益などと損益通算することが原則できません。しかし、法人では事業上の不動産の売却損や有価証券の売却益など事業の利益として通算されるので、個人以上に課税所得を抑えることができます。

④連帯保証からの離脱
法人化して実績を積めば個人の連帯保証を外すことも可能となり、デフォルト(債務不履行)が生じた場合での個人資産への影響を回避しやすくなります。
不動産投資では銀行等からの借入れも必要となりますが、個人事業の場合は経営者等の連帯保証が求められることが少なくありません。
しかし、不動産事業を法人化して実績を積み、信用が増していけば融資にあたり経営者等の連帯保証を回避することもできます。

⑤任意償却
個人事業の場合、資産の耐用期間で毎年減価償却する必要がありますが、法人は償却限度額の範囲であれば任意で償却できます。
例えば、法人では利益が出ているときは減価償却を行い、利益が過少なときには行わない、といった選択が可能です。
ただ、任意償却は金融機関からは歓迎されず、融資上のデメリットが生じる可能性はありますので、税理士ともしっかり相談しながら検討したほうが良いでしょう。

1-3.相続対策でのメリット
法人化では相続対策上のメリットも期待できます。
①相続財産の移転
個人が所有する建物等を法人に移せば、多額の相続税を低減できるとともに贈与税を支払うことなく相続人への財産移転ができます。
建物等の財産を法人所有に移転し相続人を役員として報酬を支給すれば、財産は贈与税の負担なしに報酬として移転されるわけです。
法人に財産を移転することで相続財産は減り相続税も減少し、相続人は役員報酬で将来の相続税資金の準備もしやすくなるでしょう。

②土地の相続税評価額の低減
法人が土地を所有している場合は、個人が所有している場合よりも相続税評価額を低くできます。
被相続人個人が所有する土地を相続人が相続する場合、相続税は土地の相続税評価額を根拠として算定されます。例えば、10年前に個人が購入した1000万円の土地が現在時価で5000万円になっていれば、その相続税評価額は5000万円です。

一方、法人で同じように購入していた場合、法人の資産である土地は時価5千万円として評価されますが、相続の対象は株式になります。時価のない株式の評価においては、土地に含み益がある場合はそれに法人税等を乗じた分を控除して評価することが可能です。
例えば、被相続人が法人の株式を100%(1千万円)保有していた場合、株式の評価において
(5000万円-1000万円)×法人税率(40%等)=1600万円
を控除できます。
その結果、この法人の株式の評価額は
5000万円-1600万円=3400万円
となり、個人の場合よりも1600万円ほど相続税評価額が低減できるのです。

2.法人化のデメリット

法人化には多くのメリットがある一方、いくつかのデメリットもあります。

2-1.設立・運営上のコスト
①法人の設立費用
個人事業と異なり法人を設立する場合、登録免許税などの費用が20万円~30万円程度必要となるケースがあります。また、各種の手続等を専門家に依頼したり相談したりするとその費用もかかり、軽視できない費用が発生することもあるので注意が必要です。

②ランニングコストが割高
法人化して会計処理を税理士等に依頼すれば一定の費用が必要になります。また、事務所で利用する電話の通信料、自動車保険等の保険料、銀行等の振込手数料等が個人より割高になっているケースも少なくありません

③事務コストの増加
法人は個人よりも会計業務、給与支払い、社会保険事務、役員変更の登記(株式会社)等での手間がかかり、事務コストが多くなります。

2-2.事業上のその他デメリット
①赤字でも納税が必要
法人の場合、個人事業と異なり赤字でも住民税の均等割は納税しなければなりません。例えば、資本金1000万円以下で従業員が50人以下の会社の住民税の均等割は年額7万円(東京都の23区の場合)です。

②税務調査
法人化すると税務署の税務調査の対象になりやすいでしょう。税務調査に備えて会計処理を適切に実施できるようにしておく必要があります。
また、税務調査対策のために税理士等に相談して指導を受ける場合高額な費用になることもあるので注意しましょう。

3.法人化の判断基準

事業法人化について法律で定められた基準などはありませんが、納税額の大きさや相続対策上の有効性がその判断基準になります。

3-1.個人と法人の納税額の差
個人と法人とでは所得税率が異なるため、不動産事業の両者の所得税額に大きな差が生じる点を考慮して法人化を検討してみましょう。
個人の所得は累進課税であるため、所得が多くなるほど税率が高くなります(最大45%)が、法人税率の上限は個人の所得税率ほどは高くありません(最大33%)。例えば、個人の所得が900万円超1,800万円以下の所得税率は33%です。一方、資本金1億円以下の中小法人の実効税率は21%~33%程度(所得額により異なる)になります。

年収900万円超が目安
単純に税率だけで判断する場合、個人の所得が900万円超になると法人のほうが納税額は少なくなるので、その所得水準が一つの目安になるという見方ga できます。
また、法人の場合は、役員の数が多いと所得の分散効果により課税所得を低減させ納税額はさらに低くなります。ほかにも個人よりも法人のほうが損金算入できる経費項目が多いので利用すると節税につながり、法人化で有利となる所得水準はさらに下がります。
納税額を法人化の判断基準にするなら、所得の大きさのほか法人の資本規模、役員数や経費の内容(予定)などに基づき税額算定し比較検討する必要があります。

3-2.相続対策の必要性・有効性
法人化は一般的に相続対策として有効であるため、その必要性がある方には法人化の判断基準になるでしょう。
被相続人が不動産事業を法人化することで役員である相続人に財産を贈与税の負担なしに移転することが可能です。また、法人における相続は株式が対象となりますが、個人所有の土地などの相続税評価額よりも低くなるので、節税効果が期待できます。

法人化が相続対策にどれほど有効かは、被相続人の状況、事業の状況等で異なりますが、その有効性の程度が法人化の判断基準の一つになります。

法人化するか否かの判断はメリットやデメリット、相続の有無など、ご自身の状況にあわせた判断が必要になります。担当の税理士や、コンサルタントなどに相談するのも良いでしょう。

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