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優しい時間

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日常にありふれたどうしようもない葛藤の話
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2016年4月の記事一覧

嘘つき side A

「ウソツキって鳥、知ってる?木を長いくちばしでつついて食べ物を取るの」

「それはキツツキでしょ」

「違うんだって、ウソツキ。そういう鳥なんだよ」

何を言ってるんだと、今日も俺は呆れ顔をする。向かいに座ってる男は飄々とした態度で、面白くないダジャレにしては自信ありげな表情だ。
こいつは小学校からの幼馴染だ。明るいポーカーフェイスで、冗談や嘘が上手い。このくだらない話だって、彼が言うもんだから本

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箱庭

箱庭

人生は箱庭である。この街も、学校の教室も、スマートフォンの中でさえも。

人は常に何かに囚われながら生きている。まるで堅牢な壁に囲まれた世界。

そんな自由のない息苦しさに耐えきれなくなって、仕事を辞めた。もうあの意地悪上司に悪態をつかれることもなければ、意味のない残業に苦しむこともない。

毎日朝早く起きなくてもよくなって、暇と思える時間が増えた。

植物を育ててみる。毎朝、適度な水をやる。

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とある話

とある話

雨が、春先のあたたかい空気を濡らす。
きっとこの雨で桜が落ちてしまうだろうな。

ゆっくりとした自殺願望が私にはある。毎年この季節になるとその思いが強くなる。桜を見上げる私の手にはいつでも首吊りロープ。春の匂いに、私の視界が歪む。

幸せでないというわけではなかった。でもどこか寂しかった。愛されてないわけでも愛していないわけでもない。けれど。

桜の木に、ロープをかけた。人の通らない時間を見極めて

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