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とある話
雨が、春先のあたたかい空気を濡らす。
きっとこの雨で桜が落ちてしまうだろうな。
ゆっくりとした自殺願望が私にはある。毎年この季節になるとその思いが強くなる。桜を見上げる私の手にはいつでも首吊りロープ。春の匂いに、私の視界が歪む。
幸せでないというわけではなかった。でもどこか寂しかった。愛されてないわけでも愛していないわけでもない。けれど。
桜の木に、ロープをかけた。人の通らない時間を見極めていた。コンクリートブロックの上に立つ。
不自由はなかった。そこそこの家に住み、そこそこの服を着て、そこそこの生活を送っていた。
けれど。
首にひんやりとロープの感触。
目を閉じる。
コンクリートブロックを蹴って。
桜の咲く季節、とある小雨の中。
私の自殺した日の話。
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