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Collective Intelligence Special Session ~北極海航路問題~

Collective Intelligence 『Special Session』 とは

通常回で知見の共有をいただいた方から、さらに知見の深掘りを行う会です。過去の参加者であれば誰でも参加できる特別な50分のナレッジシェアセッションです。

今回は、国際政治学を研究されている2名の方にお話をお伺いしました。

北極海航路問題

■内容
○そもそも北極海航路問題とは
○中国、アメリカはどう動いているのか
○現状日本への影響はどのようにあるのか

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(日本経済新聞 『中国 北極海でも「一帯一路」 権益拡大へ白書発表』2018/1/26) より画像引用


司会:
コロナの3,4月頃から気になっている北極海航路問題について聞きたいとなっておりお話をさせていただいていたのですが
、1人だけ話聞くのがもったいないので、せっかくなら他にも集めて話を聞こうと思いまして、それが本日の会を開催した背景になります。

Aさん:
Aと申します。比較政治学という各国の政治学を比較して、似ているところ、違うところを分析し理論化する仕事をしています。北極海航路問題は専門ではないので、中国外交を専門とされているBさんにもお越しいただきました。

Bさん:
初めまして、Bと申します。私は中国の外交について研究をしております。本日は北極海路問題について改めて調べたのでそれを伝授できたらと思います。

司会:
ありがとうございます!それでは、Aさんお願いします。

Aさん:
研究者というと言えることしか言わないというところがあるので、みなさんが期待しているような内容を話せるか不安ですが、我々の分析を聞いていただければと思います。
まず、北極海航路問題の前提となる概要をざっくりお話しします。地球温暖化により、北極海の氷が溶けてきました。それに伴って、船が通れるようになり、その航路をどう使っていくかがビジネスにおいて重要だと認識されるようになりました。また、北極海は資源もあるため、それをいかにして獲得していくかということも今国際的な関心になっております。

近年、日本でも北極海をいかに利用するか議論が行われるようになりました。その理由は、北極海は一本道なので、環境が整理されれば、燃料などのコストが削減できるだろうと点にあります。
また、今日本が現在使っている南側ルートは海峡を多く抱えているため、海賊問題などのリスクがあります。北極海航路はそういった海峡などを通らなくても良くなるため、積極的に使ったほうが良いのではないか等議論がされています。

この後、中国の外交戦略に関しては、Bさんにお話していただきたいと思いますが、なぜ現状では日本がそれほど北極海航路積極的に取り組めていないかを私の方から話していきたいと思います。

1つ目は、政治的コストが高いということですね。
南側ルートは日本友好的な国が多いんですよね。シンガポールとかフィリピンとかマレーシアなどですね。北極海航路を使うということは、ロシアに沿っていくということになるので、航行以前にかかってくるコストが高くなる可能性が高いと思います。
また、そちらのルートを使うとなると、ロシアの意向を相当受けないといけないということになります。そのコストが高くつくだろうと思います。政治的コスト、経済的コスト、あるいは、安全保障上のコストを考えた結果として、日本は北極海航路の利用に関してあまり積極的に取り組めていないのだと考えます。
もう1つは、中国とロシアを刺激しない方が良いのではないかという点もあるのではないかなと思っております。日本から見ると、ロシアに沿ってぐるっとまわって行かなければならないため北極海航路は意外遠いんですよね。そのような状況で北極海に日本が進出すると、中国やロシアを過度に刺激する可能性があると考えているんではないかと思います。
ここで一度まとめていきますと、どちらかというと、北極海航路は、日本からヨーロッパに向かうルートではなく、ヨーロッパから太平洋に向かうルートであると一般に認識されている点が重要だと思います。


北極協議会(北極を取り囲む国で行われている会議)という組織がありまして、そこには日本もオブザーバーとして入っています。元々は、北極に関する温暖化の動きなど環境問題を議論するための組織です。地理的にも離れており、オブザーバーということからもわかるとおり、日本はこの地域の問題に積極的に取り組もうとしてこなかったと思われます。
実際に内閣府の報告書を見てみますと、日本は受動的な立場をとっています。ですので、基本的には北極海問題に関しては国際社会の流れに乗るという選択肢を日本は取っていると思われます。
ただ、ヨーロッパの国が北極海航路を通り、太平洋に抜けていくことが可能となる過程で、環境問題や経済だけでなく、国際的な安全保障環境も変化してくると思われます。米国、ロシア、中国の対立が深まっていくこともありえます。そのため、近年ではこの問題をどちらかというと、ビジネスにおける問題というよりも、日本をはじめ各国は安全保障上の問題として捉考えるようになってるように見えます。

Bさん:
Aさんありがとうございました。私の方ではAさんの話を引継ぎまして、中国が北極海航路をどのように政策を展開しているかを中心で話していきたいと思います。
そもそも中国が北極や南極に関心を持ったのが、おそらく1980年代になります。その背景には、中国が1970年代に改革・開放政策に合わせて、外を向こうとしたというものがあります。
それと同時に、中国が海軍に力を入れようという動きがありまして、本格的に海軍力や海洋政策に力を入れ始めたのは、80年代からになります。ちょうどそのあたりから北極や南極に関する政策が始まりました。それが90年代に加速して2000年代に加速したという背景があります。ただですね、本格的に北極もしくは南極に関する政策始まったのは、習近平政権が始まってからだと思われます。(2012年総書記、2013年主席になって習近平は中国の最高指導者になった。)

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習近平が北極海航路を重視する要因は主に4つあると思います。
1つ目は、習近平のリーダーシップの影響。2つ目は、外交的な要因になります。3つ目は、軍事的な要因。4つ目に、資源やエネルギーなど経済の要因になります。

1つ目の習近平のリーダーシップの影響から話します。
その前に背景に少し触れたいと思いますが、習近平は若い頃から多くの経験を積んできました。その中でですね、1972~82年だったと思いますが、その頃中国には耿飈(Geng Biao)という軍人がいました。実は習近平は耿飈(Geng Biao)の書記をつとめていたんですよ。彼が他の軍人と違ったのは、海軍に力を入れるべきだと言っていたんですね。これ当時は受けが良くなかったですが、習近平は耿飈(Geng Biao)の影響を受けているんではないかと言われています。
実際に習近平が政権を取ってから、直接南極や北極の政策に力を入れ始めました。特に代表的なものがですね、2014年に習近平がオーストラリアのタスマニア島という島を訪れました。そこで習近平が演説をしました。で、演説の内容としましては、中国は南極を重視するべきだというものですね。さらに、ちょうどタスマニア島に中国の砕氷船が寄港してまして、習近平がそういうことを言ったあたりから、これは南極の話ですが、南極や北極を意識するような発言をするようになったと言われます。
これらが1つ目の習近平の個人的なリーダーシップの話です。

2つ目は、外交的な要因ですね。
習近平が政権を取った頃、世界的に北極に関する直接的な興味が高まっていましておりました。日本が北極オブザーバーになったのが2013年になります。中国や韓国も同時にオブザーバーになっております。
さらに重要なのが、日本の存在ですね。中国はかなり日本を意識していると見られております。中国は日本の真似をします。日本は2015年に北極に関する白書を提案していて、中国も2018年に提案書を出しております。中国も日本のやっていることをチェックして後追いでやっているんではないかと言われております。
さらに、日本・中国・韓国の3カ国でですね、北極に関する外交を結構頻繁にやっております。そういう点でですね、日本の存在も影響しているのではないかと思われます。

続いてですね、中国とロシアの関係ですね。ロシアは北極と接していて、外交においては大切な位置付けになります。中国が、良好なロシアとの関係を上手くてこに使って、この北極にどうにかプレゼンスを確立したいという意図があります。

もう1つ大切なのが、色んな国が興味をもっていたことで、中国も国連の常連理事国の1ヵ国として、そういう動きを傍観しているわけにはいかないということで外交的に活動をしています。
もう1つですね、北極や南極に関する政策を国民に見せつけるという意図もあると思われます。今までやってこなかった政策をアピールして中国共産党や中国政府の威信を高める狙いがあると思われます。

次に、軍事に関する話ですね。
北極海は米軍、ロシア軍が冷戦時代に使われていたとこで、中国においては直接はまだ北極海政策をやっていませんが、将来的なことを考えますと、北極的政策は軍事的に非常に重要であると思います。実際、人民解放軍が北極的政策にかなり関わっているとみられます。むしろ人民解放軍が主導しているという部分もあります。軍人が北極に関する論文を書いていたりもします。

北極を取るメリットは、原子力潜水艦を航行させることができるというものもあります。海に潜るため、相手に見つけられにくい、核兵器を積んで航行すればアメリカに対する抑止力になると考えられております。
それだけでなく、北極海の氷が溶けて民間の船が通れるようになれば、中国の空母や海上艦艇が、民間の船をエスコートすることができるようになります。
2014年か15年に、実際、中国の艦隊がアラスカに行っておりまして、アメリカも中国の北極海におけるプレゼンスを懸念しております。実際に去年、アメリカのペンス副大統領とその後にポンペオ国務長官がアイスランドを訪れております。アメリカとしても中国の北極海プレゼンスは懸念していると見られております。

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最後に、経済に関わる話ですね。
北極海航路は未知な部分が多く、北極あたりにまだ未発見な石油天然ガスの20%くらいが北極海にあると言われています。他にも、レアアース・ニッケルなども埋まっていると言われています。
中国は対外的にエネルギー依存していて、中国は中東から輸入している石油などをアメリカが邪魔してくるのではないかと言われています。マラッカ海峡などを通じて輸送するエネルギールートに依存したくないというのがありまして、北極海の回路に注目されていると言われています。

2018年に中国政府が出した北極政策に関する白書がありまして、その中で氷上のシルクロードを築くと発表しています。それと同時に、中国は今は一帯一路構想を進めております。実はその最終地点は、オランダのロッテルダムになります。一帯一路政策の地図を見ると、陸のベルトロード、海のシルクロードは最終的にロッテルダムに行き着きます。そういう意味でも、一帯一路政策の中でも北極海航路は非常に重要だと思われます。

Aさん:
すいません。今、B先生からもお話しいただいた件で、私の専門からお話しさせていただきます。中国が日本の後追いをしているところがあると言うのはその通りなのですが、にもかかわらず、現在、北極海問題について中国が力を入れてやっていて日本があまりできていないとは、国内の政治体制の違いも関係すると思われます。今回コロナの件も色んなところでお話しさせていただきますが、中国やロシアなどは独裁国家なので意思決定の仕方が異なるため、特に大きな国家戦略、例えば外交安全保障に関しては、後から始めたとしてもスピーディーに実行させることができます。だからこそ日本より3年遅れで白書を出したとしても、日本よりも早くこの問題に着手できたのだと思います。その点からも日米中ロの外交政策の違いは独裁国家と民主主義国家という政治体制の違いに大きく影響を受けていると思います。

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質問&感想タイム

司会:Question
東南アジアの海域で、中国が抑え切ったと思っていまして、商社や運輸業のビジネスがやりにくくなったのではないかと思っているがその辺り、何かあれば、コメントいただければと思っています。

Bさん:Answer
私は、米中武力衝突が起きるとしたら、南シナ海で起こると思っています。もう明日、起きてもおかしくないって言うぐらい緊迫しています、確かに、東南アジアの国から見ると、中国の南シナ海におけるプレゼンスは相当高いと言えます。なぜなら東南アジアの国は中国海軍に太刀打ちできないからです。ただ一方で、アメリカは実は相当、南シナ海に力を入れていて、航行の自由作戦をやっていて、中国が領有権を主張する海域に艦艇を航行させていたりしています。正直まだアメリカの方が軍事力が上回っていると思う。ある意味アメリカの覚悟次第だと思われます。
日本も自衛隊の艦艇を南シナ海の海域に出しています。他にも、イギリス、フランスにも最近軍艦を出していて、実は中国対日米ヨーロッパという図式ができています。戦力的には日米の方がまだまだ優位だと思っています。

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参加者Cさん:Comment
もう今のお話を伺いしててめちゃくちゃ可能性あるなと思ったのは、結構その三国間貿易とかでロシア産の穀物を三国間に持っていくことができるんじゃないかと思いました。というのも穀物に限らず商品のフレートコストって本当に馬鹿にならないところがありまして、具体的な例を申し上げると60,000トンの船を1日浮かばせるだけで200万くらいかかってきて割と馬鹿にならない。そういう意味では、ビジネスとして可能性が広がるのではないかと思いました。

司会:
ありがとうございます。全然違う国際連携の文脈で、いろんな東南アジアヨーロッパ中国も含めていろんなスタートアップ支援団体とコミニケーションをとっている参加者Dさんの立場から、スタートアップの力の入れ具合とかそういうところの視点から何か欲しいなとか思うんですけど、どうかな、なんかありますか?

参加者Dさん:
中国はヨーロッパに対してどのようなスタンスなのかが知りたいなと思いました。

Bさん:
中国はヨーロッパについて経済的に重視しています。習近平が2017年にフィンランドに訪問したりしていました。それは北極のことに関わってくると思いますが、それだけでなくノキアなどスマホ技術の話だったりしていたと思われます。中国の最大の貿易相手は確かEUだったと思います。ただし、中国は人権問題だったり南シナ海問題だったり、ヨーロッパの国々から中国に対する見方がどんどん厳しくなってきていると言えます。


参加者Dさん:
どんどんヨーロッパや中国からもアメリカでもロシアも何回も話題に上がってきて、日本って世界における立ち位置がどんどん薄れていかないのかなと思ってしまったんですけど、その辺のお考えはどうですか。

Bさん:
実は、安倍政権は外交的なプレゼンスを国外に出すという点ではうまくやっていると思います。インド太平洋という、インド洋と太平洋を一つの地域としてみる。ということで日本政府が自由で開かれたインド太平洋戦略(構想)を打ち出して、アメリカも同じ構想を良いと思い採用しました。他にもオーストラリア、フランス、ASEANなども採用しています。

Aさん:
そうですね。基本的にはBさんと同じだと思います。やっぱりBさんとワシントンに行った時も、最近はずっとこのインド太平洋の話をするんですね。
ただ日本の発言が採用されたっていうのは、日本のプレゼンスが高まっているからって言っていいのか、あるいはむしろ、中国が台頭してる裏返しなのかと言うところがあります。中国の一帯一路構想に代表されるように、日米がこれまで主導してきたアジア開発銀行と同じようなものであるAIIBとして作ってしまったとか。日米がこれまで自分たちでイニシアティブをとってきたところを中国に上塗りされているので、それにもう一度上塗りし返すという背景があるのではないかと思われます。ですので、果たして日本のプレゼンスが高まったと言っていいのか、中国が出てきてるから日本のほうにアメリカが乗ってきてくれてるだけと言っていいのか、ちょっとその辺りは評価が分かれると思います。

司会:
質問出して言ったらキリがないので、今日はこれくらいでストップさせていただきたいと思います。個人的にはすごく興味深い分野でよければ次は一帯一路について深掘りさせていただければと思っています。ありがとうございました。


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