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仕事を依頼するときは最初にお金の条件を言って欲しい、という話

(※こちらは全文公開記事です)

人に仕事を頼む時、わたしは事前に必ずお金の話をする。
仕事をするかどうかを決める時に、賃金がいくらかというのは大事な要素だと思うから。
同時に、自分がどうして「あなた」にそのお仕事をお願いしたいのか、どういうスタンスでこのことを話しているのか、ということも示すことができる。

お金の話をせず仕事を頼もうとする人が多い

しかし案外、はじめにお金の話をしない人が多い。
「いついつ空いてる?仕事があるんだけど興味があれば」
というメールをしばしば受け取る。
こちらだってお金の話は切り出しにくい。
「まずお給料を教えてくれる?」
なんてなかなか言いにくい。
そこで私はとりあえず、「空いているけれどどういうお仕事?」と遠回しに打診してみる。
ここでお給料は…と教えてくれればまだ良い。
が、拘束時間、何人でどういう仕事をするか、相手はこういう人で…という説明を細かくされるだけでお金の話に触れない人が多いので、困ってしまう。

ひとにものを頼む時には、相手が断りやすいかどうかを考えるべきだ。
「日程的には空いている」と言ったのに、お金の話をされた時点でお断りしたら、お給料が見合わないので断ったと思われるだろうな…(実際そうなのだけれど)ということが気にかかってしまう。
そういう思いをさせないために私は、賃金が高かろうが安かろうが、無償であろうが、とにかく最初にお金のことだけははっきりさせておいて、絶対にその約束を破らないことにしている。
お願いする相手には条件を全て見せて、その上で選んでもらうのが誠実な態度だと思っているし、最低限の礼儀なのでは?と考えているから。
条件を隠した上で約束を取り付けようなんて、ずるいと私は思う。

ひとつの例

こういう例は枚挙にいとまがないのだが、つい最近の例。
AさんはBさんに楽器を習っている。
Aさんはプロフェッショナルな音楽家としてもすでに活躍している。
Bさんに習っているのは自分の分野外での楽器である。
Bさんにはこの楽器での仕事をお願いしたいし、のちのちあなたの勉強にもなるからという話をもらい、レッスン費を払って習っている。
自分が本気で取り組んでいる音楽は別にあるのでその楽器に全部を注ぐことはできないし、そのつもりもないことは、Bさんにも伝えている。
筋のいいAさんをBさんは気に入り、まだその楽器が未熟であるAさんを仕事相手として使っている。

Bさんは仕事を頼む時にいつもギャラの話をしない。
最初はAさんも、教わっている恩もあるしお金の話をしづらかったので聞かなかったが、仕事に使う楽器代を給料から引かれて赤字だった。
もちろん、そんな話は事前に聞いていなかった。
私もダンサーとして似たような業界にいるので分かるが、Bさんは明らかに雇い主からもらったお給料をほぼ自分のものにし、Aさんには微々たるギャラしか渡さなかった。
CMの仕事だったので肖像権料ももらっているはずだった。肖像権はあくまでも本人のものであるので、肖像権料も本人に支払われるべきだ。
しかしBさんはそれをAさんに渡さなかった。

Aさんはこれは続けることはできないと思い、Bさんに、自分のプロ活動も忙しいし、正直に言えばこの楽器に全力で打ち込む時期ではないので、仕事相手として自分を考えないで欲しいと頼んだ。
しかし、Bさんは相変わらずAさんに仕事を持ち込んだ。
そういうことが何度か続いて、ある時かなり大きな仕事が舞い込んだ。
Bさんは、またもギャラの話はしない。
AさんはBさんに思い切って、事前にギャラの話をしてください、私には自分の音楽家としての活動もあるし生活もある。お給料を聞いた上で仕事ができるかどうかを決めたいのです、とお話した。
Bさんは、あなたはこの楽器に対してはまだ素人なのでギャラをもらえるだけありがたいと思え、とお叱りをまじえた長いメールを送ってきた。

Aさんに仕事相手になってほしいと頼んできたのはBさんである。
Aさんはさほどやりたくもないレッスンをお金を出して受け、あまつさえ楽器すら買わされている。
音楽で仕事ができるのは嬉しかったし、自分を見込んで仕事を頼んでくれているなら断れない、と思えばこそである。
(BさんがAさんに仕事を頼みたいなら、そういう費用はむしろ経費でまかなうべきなのではないかとわたしは思うが…。)
しかし実際にもらえるギャラは、拘束時間や、他の仕事を断ってまで引き受けることにまるで見合わぬものだった。
しかしAさんは優しいので、Bさんのプライドを傷つけぬよう、再度お給料を教えてくれるよう頼んでみる、とのことだった。

お給料を隠そうとする仕事は引き受けない

お金のことを最初に言わない仕事は、たいてい仕事としてもろくなものじゃない。
お金のことを最初に言ってくれた仕事は、たいてい他のこともきっちりしているし、気持ちよく終えることができる。
だから、私はお金のことを最初に言わない仕事は引き受けないことにしている。

私のためになるからと相手が思っていたり、または私が仕事がなくて困っていると相手が思っていたり…そういう風習が根強くあることも知っているし、気持ち的にも想像はできる。
けれど、私のためと思うならちゃんとお給料のことを最初に話して私の選択する権利を尊重してほしい。
誰かと引き合わせてあげるから、あなたのキャリアになるよ、なんて言ってお金のことを濁すひとがいるが、それと仕事とは別の話である。
もちろん、私だってお金お金とお金を第一に考えているわけではない。
言ってしまえば、提示金額はいくらだって良いのだ。
それぞれの事情、懐具合がある。
ちゃんとそのことを話してくれれば、コーヒー一杯で引き受けよう!という気持ちにだってなれるかもしれない。
要は信頼の問題なのだ。
依頼主であるあなたが私を尊重し、約束を交わそうという態度を見せてください。
私の要求はそれだけである。

私個人のためだけじゃないと思うと強くなれる

そういうことを私はなかなか言えないでいた。
嫌われたくなかったし、お金にがめついとも思われたくなかった。
私だって経営側の経験もあるので、懐が厳しくて十分なお給料をあげられないまま仕事を頼むことだってある(もちろん最初にその金額は提示する)。
何かを頼んだり頼まれたりということの価値をお金にきっぱりと変換することなんて難しい。
だから、お金のことは言い出しづらい。

でもだからこそ、依頼する側が、ちゃんと提示してあげないといけないのだ。
その仕事を断る理由がお給料にあるのか、日程の都合であるのか…そういうことがはっきり知れてしまうことに抵抗があって、「空いているって言っちゃったから断れないよなあ…」なんて思わせるのは不誠実だと思うのだ。相手が断りやすいように、事前に条件は全部伝えなくてはいけない。

身近にアーティストがたくさんいるということもあってこういう問題を数多く聞いてきた。
アーティストはやはり、自分の表現物を見てもらいたいという気持ちが大きい。
それがたとえお金という形でかえってこなくても構わない、機会をもらえることがありがたい、と無理な依頼を断れない例も数多く聞く。
でも私はそういうアーティストの気持ちにつけ込んで利用する人を許すことができない。
「利用する」などという意識はないひともいるだろう。慣習に従って何も考えずにとりあえずお金の話は後まわし、としているだけかもしれない。

私は屈しないことに決めた。
事前にちゃんとお金の話をしてくださいと頼むようになった。
もちろん私のためでもある。
けれど、人に嫌われたくない本当は争ったりしたくない私が強くこのことを言えるようになったのは、「ちゃんとお金の話をする」ということが誰かの意識を少しずつ変えて、周りにはびこるこの状況をちょっとでも変えていければいいと思うからだ。
「お給料を最初に教えてください」とお願いすることは、やっぱり今でも気が引ける。
時にはAさんのように嫌味を言われることもある。
じゃあいいです、と仕事がなくなることもある。(意味が分からない)
だから勇気もいるし、もやもやもするのだが、私はわたしのためだけじゃなくて、多くのこういうことが言えないひとのために、こういうことに気づかないひとのためにちゃんと立っていたいと思う。
だからこれからも屈しない。

(最後に、可愛いから猫)

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この記事にあるAさんとBさんの後日談を書きました。


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