バロメーターと標準装備
ふだんから、わりと目立つ指輪を着けている、らしい。いちばん出番が多いのは、カジュアルな日常にも似合うフィリップ・オーディベールだ。
「女性はたいへんやな、いろいろ着けるもんがあって」
このあいだ、知り合いの男性に言われた。
そのときのわたしの装いはたしか白のブラウスにテーパードパンツ、耳にはピアス、手もとには指輪が合計三つ。あ、ネックレスもしていた。
アクセサリーを着けない方には「なんだかたくさん着けている」と映るかもしれない。
身支度を完成させるにはアクセサリーの一つひとつを手に取り、体のパーツにまとわせる作業が必要になる。
指輪を一、ニ、三つ。ネックレスの丸カンを爪で引っかけ、鎖を首に巻く。耳たぶにピアスをそっと挿し入れる。ときにはサブピアスも。興味のない人が見れば、まあまあ面倒くさい動作がてんこもりである。
しかし、わたしにとって、一連の動作は心の元気ぶりをはかるバロメーターだ。
心身ともに疲れ果てているときは、アクセサリーを身に着ける気にならない。あの工程(よそいきのわたしをつくりあげるのだから「工程」と言ってよいと思う)を乗り切る自信が湧いてこない。
そういうときはノーアクセサリー、さらにひどいときはノーアイメイクである。わたしの場合、どちらかというとアイメイクやチークをしていないほうが問題ではある。ものすごく顔が薄くなり、不幸そうに見えるらしいので。
この世の憂いを集めたような顔をして、わたしがノーアクセサリーで立ち尽くしていたら、かなりまずい。たぶんそうとう追い詰められている。
そうならないように、使い古された表現だけれど自分の機嫌を取りながら暮らしている。心健やかに生きていくためのライフハックと言ってもいい。
人それぞれ、元気バロメーターがあるはずだ。夫に聞いてみると、彼にとってのバロメーターは「お酒をおいしく楽しめるかどうか」だそうだ。下戸のわたしには考えられない指標だけれど。
みんないろいろなバロメーターを隠し持ち、毎日をつつがなくやり過ごせるよう工夫しているのだろうと思う。
だから、顔まわりに、手もとに、あれやこれや着けたわたしに会ったら「ああ、活力に満ちているんだな」と思っていただけると嬉しい。顔まわりがうるせえな、とお感じになったとしても、それは元気なわたしの標準装備なのだ。
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