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オーソドックスをなめるな

最近、ワイドパンツをよく穿くようになったことで、再び大活躍しているニットがある。

10年ほど前に買ったウールニットだ。控えめなオフタートルになっていて、首に生地が張りつかないため、とても着心地がいい(わたしは「タートルdeチクチク族」である)。

なにより、体につかず離れず、ほどよくコンパクトなサイズ感だから、ワイドパンツとのバランスがとりやすい。小柄な人間にとって、トップスにもボトムスにもボリュームのある組み合わせはなかなか難しいのだ。

このニット、10年着続けているにもかかわらず、傷みがほとんど見られない。もちろん、使用感は多少あるものの、毛玉もできにくいし、色あせや型崩れもない。

なんたって、当時のわたしにとって、まあまあ高い買い物だった。コンサバ系国内ブランドのベーシックラインのもので、なんの変哲もないオフタートルニットにしては高価だった記憶がある。1990円でウールのニットが買えるご時世に、その10倍以上の値段をつけるとは、強気なブランドだと思った。

しかし、「長く着られますよ」との店員さんのすすめで購入してから約10年。このニットは、今も現役だ。

優しいアイボリー色のシンプルな形は、ワイドパンツと組み合わせたあとにストールを巻いても、大ぶりなピアスをつけてもよく映える。柄物のパンツやスカートと合わせても嫌味がない。2日に1回、着たいくらいだ。

昨今はやりのオーバーサイズではないから、面白みには欠けるけれど、ほかの洋服にはない安定感がある。

「オーソドックス」の底力をこれほど実感した冬もない。

正統派だからこそ、変化球が効果を現す。正統派だからこそ、アレンジが利く。そういうことなのかもしれない。魅力的な崩し文字を書く人は、たいていオーソドックスな美しい文字の書き方だって知っている。

……ということを、洗い終えたこのニットを干しながら考えていた。気に入りの洋服は娘たちを寝かしつけたあとに手洗いし、除湿機を稼働させた部屋で乾かすのがわたしのやり方だ。

物干しロープにかけたニットが「オーソドックスをなめるなよ」と言っているような気がする。


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