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便宜上と言わせてください

世の中、きっちりきっちり定規をあてたように運ぶとは限らない。

言葉についてもそうだ。適当な言葉を選び取りにくい場面だってある。

大昔、ニュアンスが曖昧な言葉を「便宜上」選ばざるを得ないことがあった。くわしく書くのは控えるけれど、いまいち厳密じゃないと感じる言葉をあえてつかわないと、よけいにわかりにくくなりそうだったのだ。

「便宜上、この言葉を用いますが……」などと言い添えてみたり、たとえや言い換えを多用してみたりと、心を砕く。

こういうときに「いや、そもそもその言葉は厳密じゃないですよね?」と、そもそも論を振りかざされると困ってしまう。当時も困ってしまった。ああ。

そういえば、まったく別の機会に「子育てしていると、こんなことが……」と話し始めたところで制止されたことがある。

「子どもは放っておいても育っていく存在です。親だからといって子育てや育児という言葉をつかうのはおこがましいのではないか?」と。

自分の無力さに、頭を抱えそうになってしまった。語りたかったのはその問題とは別のことだったのに、伝わっていなかった。

また、子育てとか育児のほかに広く知られた、同じ意味の平易な言葉があるかと言われれば、ない気がした。だからその言葉をつかったように思う(最適な言葉があるのならばぜひ教えていただきたかった……!)。

……。

ひとまず、今のわたしにはたまに「便宜上」をつかわせてください。お願いします。

昔のことをお風呂で思い出していたところ、こんな思いが心に居座るものだから、ちょっと吐露してみた。あのとき、どの言葉をチョイスするのが正解だったんだろう、と考えても答えが出ない。

どんな競技にも、万能選手はなかなかいない。誰にでも受け入れられる万能ワードもなかなかない。だからこそ精進しなくちゃいけないなあ、とため息をつきながらもやる気に満ちていくわたしがいる。

言葉選びは難しくて、ほんとうはとても面白い。わたしにはまだまだ修行が足りない。

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