見出し画像

人の遺せるもの

脳腫瘍になって、死を間近に感じて、ちょっとだけ心境の変化があった。

これまで通り、

全力で今この瞬間を生きる以外にない

というのは変わらないけど、

遅かれ早かれ、人は死ぬ。

ならば、

何かを残してから死にたい

という想いが生まれた。


「俺の子を産んでくれないか」

何か残すと考えた時に、最初に思いついたのは”子ども”だった。

思い立ったが吉日、術後すぐに病室から恋人に電話をかけ

「俺の子を産んでくれないか」

と、範馬勇次郎みたいなことを言ったりした(笑)


しかし、飲んでる薬の影響で、

「少なくとも薬を飲んでいる間は子作りはできない」

と、その翌日、薬剤師から言われた。

しかも、生殖機能にダメージを与える薬なので、将来的に不妊のリスクは結構あるらしい。

(飲む前に生殖能力に関する説明とかは一切なかったんだけど、インフォームドコンセントはどうなってんだ)


ツマラナイ物語

恋人に誕生日を祝ってもらい、朝、家を出る時に「結婚したらどこに住もうか?」なんて話をしていたら、その日の午後には緊急入院することになり、そのまま手術になった。

ドラマだったら「はいはい、またその展開ね」ってなっちゃう使い古されたテンプレみたいな脚本。

この物語を書いたシナリオライターは三流なんだと思う。


そして、病気によって障害者になって、24時間誰かが監視してないといけなくなり、一人で出かけることもできなくなり、実家に帰り、恋人にもフられ。

ここで死んでお話が終わりだと、物語としては最高にツマラナイ。

映画だったらレビューが炎上するレベルだと思う。

この物語を面白くするまでは僕は死ねないなぁ。


余命

この脳腫瘍がかなり厄介なやつで、普通の腫瘍のように塊でいてくれたら手術で取れるんだけど、正常な脳細胞の間に入り込んでいく困ったちゃんなので、手術では完全に摘出することはできない。

やろうと思えばできるけど、それだと正常な脳までごっそり切り取ることになるので、呼吸はしていても廃人になってしまう。

ので、取っても問題のない範囲を手術で取れるだけ取ってあとは放射線と抗がん剤になる。

脳にできた腫瘍はガンとは呼ばないことになってるらしいが、性質的にはガンと変わらないので、治療薬は抗がん剤。


現在は有効な抗がん剤があるという話を医者から聞いたので、すぐに調べた。

理系で論文を読み慣れているので、自分の病気が分かった時すぐに。手術前だった。

できるだけ知っておいた方がよりよい治療を選択できると思ってのことだった。


それで治療薬についての論文を読んでみると、治療薬を使用した場合と、手術と放射線だけで治療した場合の生存期間の違いが載っていた。

手術と放射線治療のみの場合:12ヶ月

治療薬も使用した場合:14.6ヶ月

ほとんど変わっとらんやんけ!

と全力でツッコんでしまった。

下手に論文が読めるせいで、手術するより前に2年後に自分が生きてる可能性はそんなに高くないというデータを知ってしまった。


明日隕石が降ってくる確率

人間、誰しもいつ死ぬか分からない。

明日、頭上に隕石が降ってきて死ぬ確率もゼロではない(限りなくゼロに近いけど)。

交通事故で突然死ぬ確率となると、隕石に当たって死ぬ確率よりは高い。

だからこそ、今日が人生最期の日だと思って生きる

そうやって生きてきたつもりだ。

僕の場合、そう遠くない将来に死ぬ確率が人に比べて高くなったということだ。


何かを為そうと思えば、人の一生はあまりに短い。

人間一人の一生でできることなどたかがしれている。

だから人は何かを遺して、死ぬのだろう。

鬼滅の刃を読んでると、みんな誰かに想いを託して死んでいく。

もう長く生きれないとしたら、そうやって何かを遺して死にたい。


遺せるもの

自分は何かを遺せるだろうか?

自分が最初に思いついたのは子孫だったけど、それは叶わないかもしれない。

治療で生殖能力に問題が出るかもしれないし、相手もいなくなってしまったし。

となると、僕も誰かに想いを託して死ぬしかない。


女性を幸せにしたいという想いがずっとある。

(おそらく自分自身が女性的過ぎて男性の価値観よりも女性の価値観に共感してしまうからだと思う)

未だに達成できたことがないけど。

前の恋人には脳腫瘍発覚でフラレてしまったので、最後の恋人にはなってもらえなかった。


僕一人で世界中の女性を幸せにするのは無理がある。

100年生きるとしても、30億人全員を相手にすると一人あたり約1秒しか使えない。

となると、いい男(=女を幸せにできる男)を増やすしかない。

そんなこんなで、恋愛の情報発信をやっているわけだけど、まだやれることをやりきった感は全然ない。



死ぬ気がしない

前から言っているように不思議と死ぬ気がしない。

病気になってから本当に不思議なくらい最新の治療ができるドクターと次々と出会う。

みえない何かから「まだお前にはやることがあるから死ぬな」と言われている気がする。


現代医学だとこれくらいで死ぬ確率が高いというデータは出る。

だが、それは”現代”の医学の話、つまり日本の保険診療で使える古い医学の話だし、確率論でしかない。

つまり、最新の治療でどうなるのかはわからないし、そもそも2年後は半分以上の人は死んでるのかもしれないけど、生きている人もいるわけで。


やりたいようにやって死ぬならそれでいい。

もちろん、やれる治療はもちろん全部やる。

それでも死ぬんだったら、もう今生での自分の役目は既に果たしていているってことだろう。

これで生き延びたら、それは神がまだ俺に何かをさせようとしてるってことだろう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?