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がんばれ!

 毎朝乗る電車に、小さな女の子がいつも一人で乗っている。紺色の制服を着たその子はおそらくこの春小学校1年生になったばかりだ。

 4月のはじめのころは、お母さんとおぼしき女性とふたりで並んで座っていたのだけれど、何日かすると、母親が少し離れたところから見守るように座るようになり、そしていつからか気がつくと、女の子がひとりだけで電車に乗るようになっていた。

 電車の乗ってひとり、遠い小学校に通う少女。床につかない足をぶらぶらさせることもなく、静かに椅子に腰かけて座っている。

 表情からはあまり読み取ることはできないが、とても不安だろうな、と思う。親離れする時期ではないのだけれど、仕方がない、と心を強くしているのだろうか。

 お母さんの方も、おそらく毎日心配で心配でならないだろう。でも、いつまでも一緒に通うこともできないのだろう。

 家庭の中でも、彼女ひとりだけで通うとなった時には、そこには大きな葛藤や色々なことがあったに違いない。


 ぼくが小学校の時はもうかなりの昔の話だけれど、1年のころは同い年のいとこと3人人で一緒に電車に乗って毎週スイミングスールに行っていた。

親は共働きだったので、初回だけ一緒に来てくれただけだった。

 小学校高学年になると、友だちと連れ立って、電車で何時間も乗りながら神戸の海に釣りに出かけたりした。今思うと、子どもだけで海へ釣りに行くなんて、危険なことをよく普通にしていたものだ、と思う。

 その頃は、友だちと行くので不安でもなんでもなかったけれど、1人だったら怖かったかもしれない。
 それに、親の方もいつも気軽に送り出してくれていたように思っていたが、実際のところは心配でたまらなかったのかもしれない。
 ぼくも人の親になり、ようやく親の気持ちが分かるようになったと感じる。


 ぼくは、その少女よりも先に電車を降りる。電車を降りるとき、座席の関係上いつも彼女の横を通ることになる。そのときいつも、心の中で「がんばれ!」と思いながら電車を降りている。




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