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「詩」小詩集~壁~

「壁」

壁は泣いていた
それはどこまでも高く
そして果てのない壁だった

泣き声はただ 一点から漏れた
その下で唯一 草が生きていた
壁の涙を糧に 生き続けていた



「遮断」

人々は私に 永遠の命を与えた
石棺の脇には 幾千の花びらの跡
数え切れきれないほどの 白い石室には

刀や家族や 女たちの彫像も在った
天井には 神々の世界が描かれていた
外への扉はなかった 壁からは 光も漏れなかった



「水晶宮」

気が付けば 私たちは 水晶宮の中にいた
広い宮内には 仕切りもなく 窓も椅子もなかった
陽射しは 水晶を抜け 私たちだけに集まった
風は 確かな和音となって 私たちに届けられた

魅せられて 私たちはここに 留まり続けた
夜のない水晶宮 私たちは清く 淡い光の中で生きた
風が終わった時 私たちは初めて 眠りに落ちた
夢はなかった 私たちは二度と 目覚めなかった



「伽藍」

伽藍の壁や床は 朱色を主体に
湾曲した蔦のような 緑の装飾がほどこされている
黒く円形の座が 伽藍の中心に一つあり
他には何もない 私のためのその座を除いては

どこからか 年老いた声が聞こえてくる
“この世は無量で お前もお前のための場所も無量なのだ”と
伽藍は果てしなく膨張を始める 赤と緑が激しく流動する
私は私を携え座に着く 伽藍は静止し 扉が開かれる


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