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「詩」あなたの暮らす場所へ

古びたオレンジ色の バスを降りると
小さなバス停が 風に揺られていた
私は陽炎に 染まる小道を
花束を握りしめながら 歩いた
振り返れば 彼方の稜線は
おどけた金色の さざ波に見えた

あなたから来た絵手紙
住所は遥か遠くの小さな村
描かれたクレマチスの片隅に
「よければ会いに来てください」

あなたへと続く 小道の脇には
可憐な蓮華が 咲いていた
小さなカフェの テラス席から
レモングラスの 香りがした
小川のせせらぎは美しく
石橋の上で私は 告天子のさえずりを聞いた

長閑な風の向こうに あなたはいた
はにかんだ笑顔は 煌めきに満ち
私はひととき 光の中で途方に暮れた
あなたに捧げるはずの 言葉は溶けていき
私の瞳は 涙に溢れた

私は花束を 空へと放ち
あなたを強く 強く抱きしめた
陽光と 砕けた花弁が
二人をやんわりと 包み込んだ

どこかの寺院が 時を告げる
鐘を大地に 響かせた
黄昏に染まる 風景の中でも
私は確かに あなたの手を握っていた

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