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【企画参加】見てる人はちゃんと見ていてくれる

高校生活最後の文化祭。
3年生だけ、クラスの企画で飲食の模擬店が許されていたので、私のクラスは喫茶店をやることになった。
メニューは、サンドイッチやパフェ、ジュースに珈琲。

クラス全員が、制服の黒いズボンやスカートの上を、ペイズリー柄の茶色いシャツで揃えた。
シャツの裾を前で結ぶと、なんとなく悪カッコいい気分。

当時、女子の8割が「松田聖子ちゃんカット」だった。
残りはテクノカットか自由型。
ポニーテールにできる長さの子は、みんなが髪にリボンを結んで、踊り出しそうなギャルになる。

男子は、頭の上に鶏のトサカのようなものが立っていたり。
前髪がすだれみたいになっていたり。
ナチュラルに何にもしてない感じが、実は一番カッコよかったり。

全力でイケてる感じに自分たちをおしゃれした。

くっつけた机の上にオレンジ色のギンガムチェックの布をかけて、テーブル席をいくつか作る。
いつもの教室を精一杯かわいく飾り付けした。

想像以上にお客さんがたくさん来て、教室の入り口は長蛇の列ができていた。


クラスを2つのチームに分けて、片方が喫茶店をしている間は、もう一方のチームがぶらぶらと他のクラスの企画を見に行くようにした。

担当する時間の中でも、役割を固定せずに、「調理、接客、洗い場」の係を平等にまわそうと決めていた。
しかし忙しくなりすぎると交代のタイミングがわからなくなり、結局、皆が適当にどこかをずっと担当するようになってしまった。

私は最初から最後まで「洗い場」にいて、ジャカジャカ食器を洗っていた。たぶんその仕事はみんなが最も嫌がるものだった。
仲の良かった友達と2人だけで、喫茶店からかなり離れた、トイレの横の薄暗くて寂しい場所で、ずっと皿を洗い続けることになった。


本当はちょっと、ウェイトレスみたいなこともやりたかった。
調理も好きなので、サンドイッチやパフェだって作りたい。
おしゃれもしてるんだし、お客さんとして来てくれる友達にも会いたい。

でも「代わるよ」という人が現れず、どんどん汚れた食器だけがやってくる。
多分、調理や接客も忙しくて、代わるゆとりもなかったんだろう。使用した食器を持ってきて、洗い終わった皿を届けるという「運ぶ仕事」も、ずっと同じ子がやっていたから。


結局、お店の賑わいを見ないまま、クラスの催しの時間が終了してしまった。


次は校庭で、全校生徒が踊る時間だ。
みな、各クラス手作りのハッピ姿。
テラテラしたサテン地で作られた、くるぶしくらいまでの長いハッピが当時の流行はやりだった。

なんとも、ファンキーな時間が流れる。

同じ踊りの輪の中にいた、当時好きだった他クラスの男子から

「お前、ずっと洗い物をしとったな。えらいやん。」

と言われた。 

あんな隅っこで洗っていたのを、見ていてくれたんだな、と思って、頑張りが報われたようで嬉しかった。
ご機嫌に踊りまくった。





大学一年生のときの学祭は、同じ学科の仲間たちと甘味処の模擬店をした。
お汁粉やあんみつを、お茶と一緒に出すお店だ。

私のいた学科の伝統で、代々一年生が甘味処を出店することになっていた。
女子全員が浴衣を着て、髪を結い上げるのも、毎年の恒例だった。

お店として使っていた教室の中は、色とりどりの浴衣姿が溢れていて、とても華やかな雰囲気だった。
そのお店もお客さんで大繁盛。


当時、憧れていた部活の先輩も、「あとから食べに行くわ。」と言ってくれたので、私は内心ワクワクして待っていた。

しかしここでも、ずっと私は洗い場を担当することになる。
お店から見て、廊下をはさんだ斜め向かい側に洗い場があったので、私はずっとお店に背中を向けていた。

先輩に浴衣姿を見せる機会もなく、先輩が来ていたのかどうかもわからないくらいに、ひたすら皿洗いをした。

誰も「代わろうか?」とも言わず、私たちも「代わって」とも言えず。
店の中に一度も入らず、その頃の親友と2人で、手がカサカサになるほど水洗いを続けた。

友達とおしゃべりしながら洗っていたので、それほど嫌ではなかったが、「これならジャージでもよかったくらいだな。」とは思った。


商品が売り切れになったので早めに店を片付けて、浴衣から洋服に着替え、所属している陸上部が出店していた焼き鳥屋の屋台に向かった。

今度はせっせと焼き鳥を焼いていると、先輩から言われた。

「お前がおらんなぁと思ったら、浴衣着て、必死で皿洗いをしとったな。」と。

先輩はお店に来てくれていた。

見てる人はちゃんと見てくれているんだなぁと、嬉しくなったのを覚えている。




洗い場担当も、やらされたというよりも、「まぁいいか、私が洗うからどんどん持ってきて」って気持ちで没頭していたので、高校も大学も、嫌な記憶ではない。
たぶん、私は要領も悪く、「波風立てずに、余った役割を自分が被っておけばいい」と思ってしまうところがある。

けして褒められた性分ではない。

でも、ずっと洗い場だったから、あの時もらった言葉が今でも印象に残っているんだと思う。

そして、誰にも気付かれないような地味な頑張りも、見ている人はちゃんといるんだなぁと強く実感した経験だった。




35年くらい前の懐かしい文化祭を、ふっと思い出しました。






ららみぃたんさんの企画「noteで文化祭」のなかの、思い出コーナーに参加させていただきます。
ららみぃたんさん、素敵な企画をありがとうございました。


みらいさん、どうぞよろしくお願いします。





最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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