本が読めない私が初めてたった1日で読んだ本【TK(凛として時雨)「ゆれる」】
文章は書けるのに本が読めない
本が読めないことがコンプレックスだった。正確には「文章を書くことは人よりかはちょっと得意なのに、肝心な文章が読めないことへの矛盾」がコンプレックスだった。
文字を読もうとすると目と脳の間に分厚い壁があり、その分厚い壁に文字が弾き返されるようなのだ。
「本が読めればアニメや映画の知見が広がる」と分かっていても、なかなか脳味噌に入ってこないのである。
「文字が読める」と「文章を理解する」は同じ「文章を読む」では全く違う。
私の場合、文字のインプットする時間と、文章の理解がかなり遅い。つまり文字を”読む”から”理解する”へのタイムラグが著しく激しかった。
周りの人間が「この本面白かった」「最近小説を読んでいる」と話を聞くたびに羨ましく思っていた。
言語化してくれたのはピースの又吉さん
10年来のファンである凛として時雨のTKがエッセイ本を出したのが今年の夏だ。又吉さんとのトークショーの現地開催にも行ったし、サイン本も頂いた。そのサイン本がトップ画像である。
TKさんと同じくと言うと烏滸がましいが、先述の通り全く本が読めない。
その私の「文字が読めない」を最初に言語化してくれたのはピースの又吉さんだった。
2016年、アルバム発売の企画で2人は対談していたのだが、又吉さんのこの返しに当時の私は目を開いてハッとした。
ああ、これに近いと思った。又吉さんがTKさんに当てた言語化は、私にもしっくりときていた。
私の場合は両方だと思う。情報量が多いと感じた瞬間に、自分が文字に飛ばされてしまう。コップに水を入れすぎしまい、慌てふためいてしまうような感覚だ。
自発的にやるのは好きだが誰かにやらされることが大嫌いだった私にとって、最初は学生時代の強制的な朝読書の嫌悪感から読書嫌いが生まれているのだと思っていたが、なんだかそれだけではないような気がしていた。TwitterなりInstagramなり、ライトな媒体でも文章を書くのは好きだからだ。
今なら読める、ような気がした
ようやく冬らしい寒さになった11月の曇天の休日、だいぶ遅いがなんとなく”本が読んで欲しい”と言っているような、”今なら読める”と思ったからか、どちらにせよ”自分が今なら読める”気がした。
飾っている「ゆれる」を手に取る。本を開けば、自分でもびっくりするぐらいにスルスルと言葉が入ってきた。
好きなミュージシャンが綴った言葉だからか、エッセイだからか、人物相関図がシンプルだからか、知っている単語が多いからか、ごくごくと文字が脳内へ吸収されて行く。
今までに感じたのことない文字の吸収力だった。開けられていなかった脳内の扉が突然開き、そこにコロコロと収納されていく。無造作ながら、秩序的に。
以前、サリンジャーの短編小説を読んだ時とは全く違った。「BANANAFISH」「PSYCO-PASS」の作品への理解を深めたくて「バナナフィッシュにうってつけの日」を読んだものの、あの時ニートで時間はたんまりあったけど結果的に収録されている短編小説を3日かけて読んだ。
それに理解出来たかと言われれば全くだった。結局は読了後に解説ブログを読んだ。
「ゆれる」に関しては気がつけばあっという間に読み終わっていて、たった3時間で読了してしまった。こんなことは初めてだった。
「ゆれる」
内容はTKさんの半生のエピソード、破天荒だった実姉の話、音楽に対する執着心、存在意義への自問自答、何より印象的だったのは「違和感への執着心」だった。
TKさんは自身のことを”非才”と言っているが、「自分が理想していたものと違う」と感じたことへの探究心に関して天性であり天才だと思う。
その初見で感じた違和感を忘れたくないと言う意識と「人の”好き”より”嫌い”に興味を持つ」と綴られていたのはなるほどなと思うと同時に、非なるが似ているもの、その”違和感”と”嫌い”はニアリーイコールで、そして私も少なからず分かるような気がした。
特に印象的だったのは、アニメなどのタイアップ作品は「読者やファンと同じ速度で歩みたいから、原作を全て読んでから楽曲制作に励む」と言った内容が綴られていたことが嬉しかった。
昨今、Aimerの「残響散歌」(鬼滅の刃)やYOASOBIの「アイドル」(【推しの子】)、10-FEETの「第ゼロ感」(THE FIRST SLAMDUNK)のように、「アニメタイアップ曲はアニメのストーリーとリンクして当たり前」であるが、その先駆けでありレールを敷いたのはTKさんの「unravel」(東京喰種)だと常々思っている。その根底を知れたような気がしたのだ。
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楽譜の読めないミュージシャンがいるように(これにはTK本人も該当する)、読書家にとっては「本が読めない人が書いた本」と言うのもまた興味深いのかもしれない。
「ゆれる」と言う本が、私の脳内で開かずの間であった「脳文字を収納する場所」を意図も簡単にこじ開けたのだ。
やっぱり彼は凄い。
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