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【掌編小説】リレー小説④(これってひよこの挑戦状?)#電車にゆられて

リレー小説という企画へ参加させていただきます!
秋様主催↓↓


こちらの続きを書かせていただきました。

【①~③超ざっくりあらすじ】

見知らぬ駅で佇む”俺”は、切符はおろか持ち物や記憶もない。
仕方なく歩いた道の先で待っていたのは、知っているはずの知らないような女性。
彼女が問うてくる。
「君、生きたいの? 死にたいの?」

その言葉は苦痛な毎日を蘇らせた。
会社で浴びせられる罵声。ある日を境に仕事へ行かなくなった。それからはぼんやりと過ごす日々。
ふと、ゴミの間に一枚の封筒を見つける。

ウチの会社の封筒だ。中に入っていたのは一枚の切符だった。

 見覚えがある。

 葬儀の会場である山内の実家へ向かうため、ローカル線の小さな駅に行った。電車は一時間に一本、ICカードは使えない。仕方ないので何年かぶりに紙の切符を買った。これは、そのときの切符だ。

「お前、仲良かった? 山内と」

 お調子者の同期の佐藤。喪服の上着を脇に抱え、額の汗をタオルで拭っている。いつもふざけてばかりだが、今日はつまらないギャグを口にしていない。

「や、別に。挨拶程度、かな」
 
 どう答えるべきか迷い、歯切れが悪い返事になってしまう。
 佐藤はそんな俺を気にする素振りもなく、「そうだよな。俺達とは違ったもんなぁ」と切符を古びた自動改札機へ入れた。彼に続いて改札を通り、スマートフォンで時間を確認する。出発まではあと十分だ。

 駅のホームへ足を踏み入れると、オレンジと白のツートンの電車が目に飛びこんできた。こじんまりとした車内には生温い風が通っている。不思議に思い見回すと、天井に冷風機が取り付けられていた。ああ、エアコンがないのか。

 開けっぱなしのドアから聞こえる蝉の声、窓から見える田舎道。小さな横並びのシートでは、ジャージ姿の女子高生が楽しげに話している。
 のどかだ。のどかで、ここだけ時代が進んでいないような、奇妙な感覚に陥る。

「山内がこんな田舎の出身だったなんてなぁ」

 佐藤は意外に思ったようだが、俺はなんとなく腑に落ちた。山内と初めて会話をしたのは近所のコンビニ前だ。

 
「えっ、もしかして◼️◼️君? どうしてここに?」

 俺は慌てて目元を擦った。暗がりでも指が少し濡れているのがわかる。まずい、なぜ彼女が。

「山内こそ。俺は家がこの近くで」

 平静を装ったが、たぶん顔を見られた。
 会社からの帰り道、急に涙が溢れてきた。疲れとストレスでおかしくなったのかもしれない。そのまま無意識にいつものコンビニへ来ていた。まさか、知り合いに出くわすとは。
 
「そうなんだ。私もこの近くに住んでいるの。すごい偶然だね」

 山内は涙のことに触れてこない。俺はその様子に安堵しつつ、少しだけ残念に思う。

「これ、一つあげるよ。ブラックサンダーの箱買いしたの。たくさんあるから」
「あ、ありがとう」

 それからというもの、彼女とはコンビニでよく顔を合わせた。
 
「山内、またお菓子買ってんの?」
「うん。これがないとやってらんないよ」
「俺はビールがないとやってらんねー」
「お酒かぁ。私は無理」
「あれ? 接待は? よく課長と行ってる気がするけど」
「ああ、接待でもひと口だけ。ニコニコしてお酌しまくれば、おじさん達は勝手に酔ってくれるからねぇ」

 ぷぷっと笑う山内の顔は、子どものように無邪気だ。会社では隙がなく、どこか近寄りがたい空気を纏っている。周りから期待されている優秀な同期の女性。「凡人の俺達とは違う」誰もがそう思った。

「課長かわいそー」
「あ、内緒にしといてよね」

 コンビニでなんでもない話をするだけの、名前のない、ただそれだけの関係。それでも「こんな山内は俺しか知らない」そう思うと少しだけいい気分になれた。

(⑤へ続く)


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