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【掌編小説】リレー小説③(これってひよこの挑戦状?)#電車にゆられて

秋様がリレー小説を募集しています。

 気軽な調子で1話目を書いたら約2週間くらい空きまして、さすがにお話を始めちゃった手前、自分のぼんじりは自分で拭わねば……! と思った矢先、続きを書いてくれた方がいました! ありがとうございます!

※ちなみに(これってひよこの挑戦状?)はタイトルではありません。私はタイトルは書き終わってから考えるもので、無題なのです。今のところ。


リレー小説①

リレー小説②

「君が持っているはずの切符を使えばあの列車は君を死へと運んでくれる。多分生きるか死ぬか、どっちつかずだからどこにしまったかわからなくなったのよ」

 彼女は細く白い人差し指を俺にすっと向けた。

「君、生きたいの? 死にたいの?」

 向けられた指先から逃げるように、思わず身じろぎする。

「死にたくなんてないよ」
「じゃあ、生きたいのね」
「そりゃまあ」
「だったら何でここにいるの?」
「何でって……」
「生きることに迷いのない人は、こんなところに来ないのよ」

 彼女の冷たい瞳は俺を射抜く。それから逃げるように、顔を背けて家の玄関へ向かう。
「もういいだろ。疲れてるんだ」

 大きな玄関から長い廊下を進み、迷わず右手の部屋へ入る。六帖一間の俺の部屋だ。体重で中央が凹んだ万年床に倒れ込む。体が重くてもう寝がえりも打てない。視界の端に、脱ぎ捨てたスーツが映る。せめてハンガーにかけないとシワになるな、と思ったが動きたくない。どうせもう着ることは無いんだ。

 朝起きて会社へ行くのが苦痛だった。一日が始まると思うと何も咽喉を通らず、朝一番のミーティングで吊るし上げられ、足を棒にして取引先を回るが愛想笑いしかもらえず、終電に滑り込み家に帰ると泥のように眠る。

 その毎日は、寝過ごして途切れた。目が覚めた時には出勤時間の十分前だった。もう間に合わない。慌てて上司に電話をしかけて、止めた。もういいや、と口に出すと、体の力が抜けた。この三年で初めて味わった解放感だ。声を上げて笑った。出勤時間になると、上司から着信が入る。条件反射で思わず取ってしまう。

 罵声。否定。罵声。否定。罵声。罵声。
 俺が話す間もなく切れた。そのまま携帯の電源を切った。

 その日は一日家で過ごした。ひさしぶりに使う家の鍋で袋ラーメンを作る。コンロの上でそのまま食べる。今まで食べたラーメンの中で一番じゃないかと思うほど旨かった。だが、さすがに会社へ連絡しないといけないと思い、携帯の電源を立ち上げる。不在着信が二十二件。先輩や同僚からも一件ずつあるが残りはすべて上司からだ。おそらく上司からでは出ないと考えて周囲にかけさせたのだろう。もう一度電源を切った。

 あれから何日こうして過ごしているのだろう。万年床に寝そべったまま、ぼんやりと部屋を眺める。ポストに届いていたチラシをそのままゴミ箱に突っ込んでいたが、その間に封筒があるのに気づく。起き上がって手に取ると、ウチの会社の封筒だ。中に入っていたのは一枚の切符だった。




さらに続きを書いてくださった方が!

リレー小説④


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