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夫婦でこねるパン作り【前編】

「見てよ夫くん。パン教室やってる」

ぼくたち夫婦は買い物が大好き。

何を買うってわけでもないけど
足の向くまま、気の向くままに
色々な店を冷やかすのが大好き。

とある大型ショッピングモールに立ち寄った際
嫁ちゃんの視線を奪って立ち止まらせた場所。
それがABCクッキングスタジオである。

通路から100%見渡せるガラス張りのキッチン。

ストリートバスケができそうな広さのキッチンで
可愛らしいエプロンを着けた数多くの女性たちが
白く清潔で長方形のテーブルでパンをこねていた。

「あー。パン、いいね。美味しそうだね」

「うん・・・いいよね」

おや、と思った。
嫁ちゃんのこの反応はおそらく・・・

「もしかしてパン作り、興味あるの?」

「えっ」

図星だった。胸中を言い当てられた驚きと
希望の入り混じる顔を見てぼくは確信した。

「ちょっと見てみよっか」

ガラス張りでキッチンが丸見えなのをいいことに
ぼくたちは入口近くでガン見を決め込んだ。
なんという不審者夫婦。本当に見るだけか。

「よかったら見学してみますか?」

そんな不審者夫婦ぼくたちを見かねたのだろう。
黒エプロンを着用したスラリとしなやかな女性が
声をかけてきた。不審者二名様ご案内である。


「夫くんも、一緒にやるよね?」

「えっ、ぼくもやるの?」

紆余曲折あったのだが細かいことは省略。
とにかくぼくたちは決めたのだ。
ABCクッキングスタジオに通うことに。

決め手はなんといっても時間。
なんと2時間で全てが完成するという。

パン作りというのは時間がかかるもの。

なぜなら
グルテンの生成、一次発酵、ガス抜き
二次発酵、オーブンで焼き上げという
必ず避けては通れない工程が存在する。

その魔術めいた工程を素人でもわずか
2時間で完成できるというのが売りだ。

しかも、焼きあがったパンはその場で
ゆっくり食べることもできるし
持ち帰りだって全然可能なのだ。

・・・

それはそうと、いつのまにやら
ぼくまで一緒にパン教室に通う流れになった。
どうしてこうなった。

「ご夫婦で教室に通う方も多いんですよ」

黒エプロンのスマートな店員さんが後押しする。
(後で聞いたらここの店長さんらしい)

でもなぁ。本当かなぁ。
今話を聞いている間も
このキッチンにいる男性はぼく一人だけなんだ。
99.9%は女性が占めているんだよねぇ。

ぼくは女性との話は好きだし楽しめるけど
流石に男性が全くいないのは気が引けるぞ。

「まあまあ、いいじゃない。私がいるし」

嫁ちゃんが他人事のように言う。
それもそうだな、と思いなおす。

かくしてぼくたちのパン作りは幕を開けた。

・・・

これは過去の記憶。
ぼくたちが結婚して程よく経ったときの話。

嫁ちゃんと話しながら思い出していたら
わんさかと思い出が蘇ってきて楽しいぞ。

よしよし、ならばこの楽しい思い出達を
「パン作り」の記事として書いて行こう。
しばらくお付き合い頂ければ嬉しいです。

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