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監獄の様なアフリカの列車の中で


アフリカで長距離鉄道に乗るのは2回目だ。

時刻は夜の7時。辺りはもう真っ暗で隣の人の顔も見えない中ようやく到着した列車に荷物を抱えて乗り込む。


携帯のライトを片手に進むと『C』の表示がある部屋に辿り着いた。2段ベッドと折りたたみ式の机があるだけの簡素な2畳ほどの蒸し暑い小部屋。手に持ったチケットと見比べる。どうやらここらしい。


部屋でしばらく1人本を読んでいると、出発間際になって地元の青年が駆け込んできた。彼も同じく始発から終点、つまりヴィクトリアフォールズからジンバブエ第二の都市ブラワヨへ行くと言う。


挨拶をして、また寝転がり本を読み始めると、少し外に行ってくると言った青年が友達と彼女を4人程引き連れて帰ってきた。

狭い2畳部屋に僕を含めて6人。引き連れて来た男達はみんな大柄で、暗くて全く顔が見えない。僕の全財産を入れたバッグも、僕と一緒にベッドの上にある。せめて携帯のライトで部屋を照らすが、細部までは見えない。


人のベッドの上に靴を履いたまま遠慮なく足を投げ出している事を除けばただ楽しく喋っているだけで問題は無いのだが、やはり少しの不安は頭から離れそうもない。強盗に遭ってからというもの、もし今襲われたらどうなるか、どうすればいいかを無意識に考えてしまう癖がついてしまったが、今回は多分どうしようもないな、と半ば投げやりに考えるのをやめた。


電子機器を少しでも見せたくない為、携帯の写真を惰性で眺めながら目の前の机に座った男と話していると、急に上から液体が大量に身体に降り掛かってきた。驚いて咄嗟に身体を動かし、寄りかかっていた壁を見ると、上のベッドから液体が垂れてきているのが確認出来た。


「お前なんしてんねん!!」思わず少し大きな声でそう言うと、

「え?水欲しい?」上の男はそう言った。

「いや、水は欲しくない。お前の水が漏れ出してめっちゃ掛かってきたんやけど。」


頭、上着、バッグ、ベッド。液体がかかった箇所を一通り確認しながらそう説明すると、上の青年はペットボトルを窓の外へ投げ捨て、謝りながらティッシュペーパーを差し出してきた。

明らかに悪気はないので「いいよ。」と言うが、髪を触ってみるとベトベトして固まっている。バッグの匂いを嗅ぐと甘い匂いがする。さっきこいつが飲んでいたコーラだ。

心の中で軽く舌打ちをして、コーラをティッシュで綺麗に拭き取り、元の位置に座り直す。


相変わらず大音量で音楽を流して大声で喋り続ける男達はいつになったら自分の部屋に帰ってくれるのか。先程1人帰ったと思ったら、ビール瓶を片手に戻ってきた。酒は飲むか、と聞かれるが答えはもちろんNoだ。


ふと窓の外を見ると、まるで誰かの手から滑り落ちて割れたガラスのビンの破片のように、大小様々な光が暗闇の中に散らばっていた。

限りなく澄んだ空気の中で煌めく遠い宇宙の惑星たちは、こちらの暗闇が深まれば深まるだけ皮肉にも輝きを増すらしい。


知ってる?宮沢賢治は一生の大半を仙台で過ごしたのに、病気で病院から出られない妹のために銀河まで旅してみせたんだよ?


どこの誰が言ったのか、はたまた本で読んだのか思い出せない科白がふと頭に浮かんできて、頬が少し緩んだ。

なんで今やねん。『アフリカ鉄道の夜』ってか?

溜まったお金は全額、月に行くために使います!