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日本の常識が全く通用しないエチオピア その2

前作の記事は下のリンクより↓

【人混みを掻き分け、紙を持った人達が階段の方へ向かっていくのが見えた。
僕はフードを出来る限り深く被り、後ろに少し首を捻り、ジヒンと目を合わせて頷きあう。ジヒンもまた、真剣な目をしていた。
首を前に戻し、少し俯きながら早足で階段の方へ歩き出した。

騒々しく蠢く人混みの隅で、僕らの闘いのゴングが誰にも気づかれる事なく、静かに鳴った。】

ー前作よりー

しとしとと降り注ぐ雨の中、少しでも雨に濡れまいと人々が押し合いながら我先に建物の中に雪崩れ込んでくる。しかし相変わらず職員が階段の前に立ち、流れを堰き止めている為、建物の入り口から階段までの間の通路は身動きも取れない程の数で溢れている。階段に向かって罵倒の言葉を浴びせる人々を両手で左右に掻き分けながら強引に前に足を進める。ジヒンはちゃんと付いて来ているだろうか。

目の前で紙を持った集団が階段に辿り着いたのが見えた。サウジアラビアに巡礼に行く集団だ。人数は4人。やはりその人達は階段の先に行く事を許されているらしい。職員が紙をチェックし始めている。職員の目が書類に釘付けになっているのを確認する。

今しかない。

後ろを確認すると少し後ろにいたジヒンが目で合図を送って来た。よし。軽く深呼吸をし、足をさらに早める。フードを更に深く被り、階段の端から気配を消して侵入した。通り抜ける際、横目で職員の方を見るが全くこちらに気づいていない。音を立てないように注意しながら足を更に早めて二階まで到達した。職員が追って来ている気配も無い。成功だ。ほっと一息ついて後ろを振り返るとそこにジヒンの姿は無かった。

しかし職員が騒ぎ立てる様子も無い為、恐らく捕まってはおらず一緒のタイミングで行きそびれただけであろう。二階に上がってからの手順も聞いていなかった為、ジヒンを待つしか無い。

2分程待つと踊り場にジヒンの姿が見えた。良かった。ジヒンも無事に潜り抜けられたのか。そう思って安心した瞬間、僕は目を疑う光景を目撃した。

走りながら上がってくるジヒンの後ろに、何人もの人々が群を成して階段を駆け上がって来ていた。明らかに巡礼の人々では無い。どうやら暴徒化した集団が職員のバリケードを突破し、最早ストッパーは機能しておらず次々と人が雪崩れ込んで来ているらしい。

「職員が来る前に受付を済まそう!!行くぞ!!」

ジヒンの掛け声と共に僕も一緒に走り出す。受付の前には行列が出来ており、そこに並んだ。

「&#%!($&”($&)”’)$!!!」

その時、声にならない声を発して怒鳴り散らしながらこちらの方へ猛スピードで走って来た男がいた。職員だ。彼は受付の扉の裏側へ行くと、全ての扉を強引に締め出した。少しでも抵抗する人には御構い無しに暴力を振るっている。

もう午後の受付も今日はやらない。全員帰れと怒鳴っているらしい。

終わった。ここで今日中に書類にスタンプを貰わないと、ケニアへのフライトの日までに出国VISAの発行を間に合わせる事が出来ない。

タッタッタッタッタッ。天井の隙間から漏れて来た水が、リズミカルに地面を叩く。

目の前が真っ暗になった。

つづく。

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