見出し画像

「本当に ”みんな” が高校で「情報」を学ぶ必要があるか」を考えてみる

こんにちは。みんなのコード永野です。
前回の記事では、2022年度の学習指導要領の改訂に伴い、高等学校の教科「情報」がどのように変わったのかについて書きました。今回は、教科「情報」の意義についてです。

高校で「情報」を学ぶ意義とは一体何なのでしょうか。今回の記事のポイントはこの3つです。

  • 情報科は情報活用能力を発揮して「情報社会の問題の発見・解決」を目指す教科

  • 情報活用能力を生かした問題発見・解決はIT産業に従事する人々だけに必要な資質・能力ではない

  • 問題発見・解決能力は教えるだけでは身につかない。子供たちが主体的な学習活動を通じて獲得していくもの

学習指導要領の教科「情報」の目標

2022年度から実施となった高等学校学習指導要領解説「情報編」を見ると、共通教科情報科の目標として以下のように記載されています。

(1) 情報と情報技術及びこれらを活用して問題を発見・解決する方法について理解を深め技能を習得するとともに,情報社会と人との関わりについての理解を深めるようにする。
(2) 様々な事象を情報とその結び付きとして捉え,問題の発見・解決に向けて情報と情報技術を適切かつ効果的に活用する力を養う。
(3) 情報と情報技術を適切に活用するとともに,情報社会に主体的に参画する態度を養う。

高等学校学習指導要領解説【情報編】p.18

すべての目標に共通していることを端的に言ってしまえば、教科「情報」は、「情報社会における問題発見・解決能力を養う」ための教科といえます。

問題発見・解決能力は、今回の学習指導要領総則編で、小中高に共通する「学習の基盤」のひとつと定義され、これからの時代を生きる子供たちにとって身につけるべき重要な資質・能力とされたのです。

なぜでしょうか。

今の子供たちやこれから誕生する子供たちが,成人して社会で活躍する頃には,我が国は厳しい挑戦の時代を迎えていると予想される。生産年齢人口の減少,グローバル化の進展や絶え間ない技術革新等により,社会構造や雇用環境は大きく,また急速に変化しており,予測が困難な時代となっている。

・・中略・・

こうした変化の一つとして,進化した人工知能(AI)が様々な判断を行ったり,身近な物の働きがインターネット経由で最適化される IoT が広がったりするなど,Society5.0とも呼ばれる新たな時代の到来が,社会や生活を大きく変えていくとの予測もなされている。

・・中略・・

このような時代にあって,学校教育には,子供たちが様々な変化に積極的に向き合い,他者と協働して課題を解決していくことや,様々な情報を見極め,知識の概念的な理解を実現し,情報を再構成するなどして新たな価値につなげていくこと,複雑な状況変化の中で目的を再構築することができるようにすることが求められている。

学習指導要領解説 第1章 総説 p.1

上記は、学習指導要領解説の冒頭部分です。

まるで教科「情報」のために書かれているようにみえますが、この一節は、小学校・中学校・高等学校・特別支援学校の全ての学校種・全ての科目の指導要領目標を包括する【総説】なのです。

これからの社会は様々な予測のつかない問題が起き、これまでの人間の社会や生活は大きく変わっていきます。そのような社会の中で、誰かが正解を教えてくれるのを待ち、与えられた作業をこなすだけでは、激動の時代をたくましく生き抜いていくことは難しいと考えられます。

さまざまな情報を見極め、テクノロジーを活用して新たな情報や価値を創造したり、他者と協働しながら問題を解決したりしながら、未知の問題に立ち向かう資質・能力が必要となってくることを示しています。

これはまさに教科「情報」の目標に他なりません。

もちろん、国語・数学・理科・・などの各教科にも、それぞれの目標が設定されているわけですが、小・中・高の全てに共通する全体目標といえる内容が、教科「情報」の目標とほとんど一致しているのです。

教科「情報」は、これからの時代に必要な資質・能力の最も根幹といえる学習の基盤である「言語能力、問題発見・解決能力、情報活用能力」の育成を直接的に扱う教科といえるでしょう。

プログラミングは一部の人のもの?

つまり、「情報」は、これからの時代を生きる全ての子供たちにとって必要な資質・能力を育む教科といえます。

プログラミングやデータサイエンスという言葉を聞くと、IT企業などに勤める人にしか関係のない分野だ、自分には関係のないことだ、と感じられる方もいるでしょう。

これまでは確かにそうだったと言えるかもしれません。しかし、「Society 5.0」の時代にあっては、あらゆる職業、生活の中にこれらの要素が含まれてきます。

みなさんに1本のビデオを見ていただきたいです。



これは、あるきゅうり農家の青年が、収穫したきゅうりの仕分け作業をAI技術によって効率化している事例です。母親が行っていた時間のかかる手作業を軽減するため、AIを利用して自作のきゅうり選別システムを作り出しています。

単に長時間労働や根性で乗り切るといった解決ではなく、テクノロジーを使って自ら解決に向かおうとするこの青年の取り組みは、まさに「これからの時代を生きる姿勢」の具体化された姿だと感じます。

もちろん、彼は農家であり、プログラマーではありません。きゅうりの選別システムを作るのは簡単なことではなかったと思います。多分、テストと改善をサイクル的に繰り返し、試行錯誤しながら問題発見・解決に取り組んだことでしょう。

まさに、「情報」の目標を体現しているひとつの姿なのではないでしょうか。

つまり、共通教科情報科の目標である、

  • 情報と情報技術及びこれらを活用して問題を発見・解決する方法について理解を深め技能を習得し、

  • 様々な事象を情報とその結び付きとして捉え,問題の発見・解決に向けて情報と情報技術を適切かつ効果的に活用し、

  • 情報と情報技術を適切に活用するとともに,情報社会に主体的に参画する態度

そのもののように感じるのです。

もちろん、農家に限った話ではありません。これからの時代に、あらゆる職業、そしてあらゆる生活の場面で、このような姿勢で生きていく若者たちが増えたら、日本はより良い国になっていくのではないかと思うのです。

それを目指すのが教科「情報」なのではないかと考えています。

教科「情報」のなかでも、必履修科目となっている「情報I」では、情報デザイン、プログラミング、データ活用など、様々な内容について学びます。それらの理論について、知識として理解し、覚えなければならないことも沢山あります。でも、学習項目として理解するだけでなく、それらは「情報社会の問題発見・解決」に向けた自らの行動に繋がるものであると生徒たちが自分自身で感じとることが重要です。

問題発見・解決能力は、先生が教えるだけで身につくものではありません。生徒たち自身で、知識や理論を活用しながら、疑問を持つこと、試してみること、うまくいかなかったら改善しようとすること、そして自分だけでなく周りの先生や友達と協働しながら取り組むこと、などが必要です。

このような学習にはどうしても時間がかかるのです。単位数や他教科・総合的な探究の時間との連携の問題など、実現に向けての問題は沢山あります。

みんなのコードでは、これらの「問題発見・解決」に取り組み、子供たちの豊かな「情報活用能力」の獲得に向け、先生方へのご支援を続けて参ります。次回は、大学入学テスト「情報」についてお話したいと思います。


ここまでお読みくださりありがとうございます。

みんなのコードは「子どもたちがデジタルの価値創造者となることで、次の世界を創っていく」をビジョンに掲げ、2015年の団体設立以来、小中高でのプログラミング教育等を中心に、情報教育の発展に向け活動し、多くの方からのご支援をいただきながら取り組んでまいりました。

もし、私たちの活動に共感いただき、何かの形で応援したい、と思ってくださった方は、みんなのコードへの寄付をご検討ください。

引き続き、21世紀の価値創造の源泉である「情報技術」に関する、教育の充実に向けて、これからも取り組んでいきます。


この記事が参加している募集

オープン学級通信

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?