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アジアのアニメは日本市場を制するのか?~テレビアニメにおける中国や韓国アニメの存在感~

例に挙げるまでもなく、昨今ネットのニュースでは「日本スゴい」。あるいはその逆の「日本ヒドい」といった見出し(や記事)だとPVが稼げると言われています。
古今東西、ナショナリズムは燃えやすいですし。

アニメの世界でも、
──中国のアニメが日本のアニメ市場を奪ってしまう。
──家電業界のように、日本のアニメは隅に追いやられる。
──薄給である、日本のアニメのクリエイターが、軒並み中国企業で働くようになる。

……といったものを定期的にネットで見かけたりします。

本当でしょうか?🤔

全世界のシェアなどを検証しないと、細かい実態や動向はなかなか分かりませんが、目の届きやすい日本のテレビアニメでは、どうなっているか? を今回調べてみました。

アジア(主に中国・韓国)のアニメの定義

日本のテレビで放送しているアジアのアニメとは、どういった作品を指すのでしょうか?
まずは定義を考えてみます。
(ここで述べるアジアは、日本以外の「アジア」という意味です。あしからず)

■2022年冬アニメの例

『時光代理人 -LINK CLICK-』

原作や製作、制作はすべて中国です。
中国産のアニメを日本でローカライズしています。
ローカライズは、ソニー・ミュージックソリューションズとアニプレックスが担当です。

これはわかりやすいですね。

海外ブランド・海外生産のものを買ってきて、日本で売る商売です。ハリウッド映画なども同様です。

けれど、同じく2022年冬アニメである『ドールズフロントライン』はどうでしょうか?

『ドールズフロントライン』

クレジットを確認してみましょう。

・原作:【中国】SUNBORN Network Technology、Mica Team
・製作:【中国と日本?】「GRIFFIN&KRYUGER」名義の製作委員会
・制作:【日本】旭プロダクション

原作は中国のサンボーン社とMICA-teamです。
実際に手を動かしてアニメを制作している会社は、日本の旭プロダクションになります。

また、アニメの著作権を持つ製作については、製作委員会の「GRIFFIN & KRYUGER」です。匿名性があります。
アニメ『鬼滅の刃』のように「集英社・アニプレックス・ufotable」と製作委員会のメンツが明示してあれば、明瞭なのですが、外からだとちょっと不明なところもあります。

ただ、以前放送された『どるふろ -癒し篇-』のクレジットは、「(C)SUNBORN Network Technology Co., Ltd.」のみです。こちらは、一社製作で作られているのでしょう。

今回も一社製作であれば、同じような表記になるはずですが、製作委員会名義の「GRIFFIN & KRYUGER」になっているので、どこかの会社が出資をしているのだと推察します。

OPクレジットを注意深く確認してみると、「企画」にワーナーの川村さんがクレジットされていますし、ワーナー・ブラザース・ジャパンがプロデュースしているので、大枠はワーナー+原作サイドのSUNBORN Network Technology, Mica Teamという製作委員会の組成かなと思います。
(もし間違っていたら修正しますので、ご指摘ください!)

さてここでもう一度クレジットの確認に立ち戻ります。

『ドールズフロントライン』
・原作:【中国】SUNBORN Network Technology、Mica Team
・製作:【中国と日本?】「GRIFFIN&KRYUGER」名義の製作委員会
・制作:【日本】旭プロダクション

ここで一つ疑問が出ます。

この作品は中国のアニメでしょうか? それとも日本のアニメでしょうか?

アニメの権利的には、実際に製作費を拠出してビジネスを展開する「製作」が中心になります。アニメの著作権者でもありますので。アニメ作品『ドールズフロントライン』については、おそらくは中国と日本の会社で共同権利を持っています。

一概にこれは日本のアニメだ、中国のアニメだとは言い切れないはずです。

また一方で、日本ではアニメの権利とは別に「原作」も強かったりもします。アニメは、オリジナル作品を除いて原作の二次利用コンテンツでもあります。

あるいは、アニメのような制作者のクリエイティビティに依存するコンテンツは、やはり実際に「制作」した人たちのものでしょう……という意見もあるかもしれません。

なかなか複雑です。

日本でのアジア・テレビアニメの状況

さて概況的には、アジア(特に中国や韓国)に関連したアニメについて、日本でのテレビ展開はどうなっているのでしょうか。
2020年から、2022年冬アニメの作品を調べてみました。
※あの作品がない、あるいは何でこの作品がピックアップされているの? という声もあるかもしれませんが、あくまでもざっくりとしたリストです😅
※アニメの著作権者である「製作」については、製作委員会名義が多い≒外部から実態が把握しにくいので割愛しています

■2020年冬アニメ

対象作品なし

■2020年春アニメ

『神之塔 -Tower of God-』
・原作:LINEマンガ 『神之塔』SIU/LINE マンガ
・制作会社:テレコム・アニメーションフィルム
・放送局:TOKYO MX・BS11ほか日本・アメリカ・韓国で同時展開

■2020年夏アニメ

『異常生物見聞録』
・原作:web小説 遠瞳
・制作会社:MMT Technology Co.,Ltd
・放送局:BSフジほか

『THE GOD OF HIGH SCHOOL』
・原作:LINEマンガ Yongje Park
・制作会社:MAPPA
・放送局:TOKYO MX・AT-Xほか

■2020年秋アニメ

『兄に付ける薬はない!』
・原作:ウェブコミック配信サイト『快看漫画』 幽・霊
・制作会社:イマジニア、ファンワークス、Planet Cartoon(第3期)
・放送局:TOKYO MXにて

『キングスレイド 意志を継ぐものたち』
・原作:ゲーム VESPA
・制作会社:OLM×SUNRISE BEYOND
・放送局:テレビ東京ほか

『NOBLESSE -ノブレス-』
・原作:LINEマンガ 『ノブレス』SJH・LKS/LINEマンガ
・制作会社:Production I.G
・放送局:TOKYO MXほか

■2021年冬アニメ

『アズールレーン びそくぜんしんっ!』
・原作:ゲーム 『アズールレーン』運営
・制作会社:Yostar Pictures / studio CANDY BOX◆制作協力:横浜アニメーションラボ
・放送局:TOKYO MXほか

『直感×アルゴリズム♪ 3rdシーズン』
・原作:生放送アニメ NTTドコモ、ミグ動漫有限公司
・制作会社:ALiCE
・放送局:YouTubeLive、bilibili動画

『魔道祖師』
・原作:小説 墨香銅臭
・制作会社:テンセント・ピクチャーズ
・放送局:WOWOW、TOKYO-MXほか

■2021年春アニメ

『セブンナイツ レボリューション』
・原作:ゲーム:ネットマーブル Seven Knights Revolution
・制作会社:ライデンフィルム、ドメリカ
・放送局:TOKYO MXほか

『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 3』
・原作:オリジナル Thunderbolt Fantasy Project
・制作会社:Thunderbolt Fantasy Project
・放送局:TOKYO MXほか

『どるふろ –癒し編2-』
・原作:ゲーム:ドールズフロントライン 上海散爆網絡科技有限公司
・制作会社:大火鳥アニメーション
・放送局:Amazon Prime Videoほか

『魔道祖師 羨雲編』
・原作:小説 墨香銅臭
・制作会社:テンセント・ピクチャーズ
・放送局:WOWOW、TOKYO-MXほか

■2021年夏アニメ

『異界探偵トレセ』
・原作:グラフィックノベル バジェッテ・タン/カジョ・バルディッシモ
・制作会社:フィリピンの会社?
・放送局:Netflix

『戦乙女の食卓II』
・原作:ゲーム「崩壊3rd」のスピンオフ miHoYo
・制作会社:miHoYoAnime
・放送局:BS日テレほか

『天官賜福』
・原作:小説 墨香銅臭(モーシャントンシウ)
・制作会社:絵夢動画
・放送局:TOKYO MX・BS11にて

■2021年秋アニメ

※『幻想三國誌 -天元霊心記-』コロナ禍のため、2022年に放送延期

■2022年冬アニメ

『幻想三國誌 -天元霊心記-』
・原作:ゲーム UserJoy Technology
・制作会社:GEEKTOYS
・放送局:BS12

『幻想三國誌 -天元霊心記-』
・原作:オリジナル?
・制作会社:瀾映画
・放送局:TOKYO MX・BS11ほか

『ドールズフロントライン』
・原作:ゲーム SUNBORN Network Technology, Mica Team
・制作会社:旭プロダクション
・放送局:TOKYO MXほか

仕分けが難しいアニメ作品

上記で挙げた作品リストは、ビジネス的にもアジア色が強い作品です。しかしながら、例えば『真・中華一番!』などはいかがでしょうか。

原作は、講談社の週刊少年マガジン連載の人気漫画です。
制作も、日本のアニメスタッフで作られています。
製作は、製作委員会方式で組成されています。

「これは中国のアニメだ!」と、取り上げられることは少ないでしょう。

しかし、OPクレジットの「製作」を確認すると、上位2名が中国の方なのですよね。
クレジットの並びは通常、出資比率順ですので、中国企業の出資が最上位だと思われます。

またOPのラストクレジットでは、『真・中華一番!』の上に、「企画・制作:JY Animation」とクレジットされています。JY Animationは中国のアニメ企業ですので、アニメ『真・中華一番!』のメインプレイヤーは中国だと分かります。

他のパターンだと、『空色ユーティリティ』も挙げられるでしょう。

・原作:オリジナル
・制作会社:Yostar Pictures
・放送局:TOKYO MX
……というクレジットで、製作はYostar Picturesのみとなっています。

日本のスタッフで制作されているアニメでも、Yostar PicturesはYostar(中国)の子会社です。
著作権的には中国アニメとも言えます。

見えてくるもの

今回、色々まとめようと四苦八苦してみましたが、一概にこれは「中国のアニメ」「韓国のアニメ」「日本のアニメ」と峻別が難しい側面がありますね😅

そもそもアニメは、昔から海外の企業と合作を行ったり、ライセンス展開をしたり、動画・仕上げなどはアジアの各国を頼ったりしています。
元からグローバルですので、ナショナリズムとは相容れません。

ですので、アジアのアニメは日本市場を制するのか?
……の問い自体が、少しピントがずれている気がします。

もちろんローカライズされている作品や、中国企業がメインで製作出資している作品も定期的に放送されています。
けれども、こうした作品について日本は、作品の出し先の一つという位置付けのことが多いです。TOKYO MXなどのローカル局が中心ですし。

キー局で日本の新作アニメを押しのけて、ローカライズ作品が多くなれば、「アジアのアニメは日本市場を制する」とも言えるかもしれません。

ただ世界的に成功している韓流ドラマやK-POPであっても、日本市場を制しておりませんよね。もちろん、日本でも非常に人気が高いのは確かですが、未だゴールデンタイムのドラマのほとんどが韓流ドラマにはなっていません。

そもそも日本で放送されているアニメ制作本数自体が過剰です。一昔前は、アニメを全話視聴しているマニアも珍しくなかったですが、今はあまり見かけません。
もしかすると、年間300作品以上の生産量が奇しくも参入障壁にもなっている可能性もあります。

例えるなら『北斗の拳』修羅の国編のように、「修羅」が多いので、レッドオーシャン≒競争が激しすぎて、参入するにはメリットが少ないというイメージでしょうか。

まあ何はともあれ、「日本スゴい」「日本ヒドい」といったセンセーショナリズムとは一線を画して、目の前のアニメを楽しむのが一番ですね。


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