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「ファクトフルネス」が通じぬリアル

『FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』(著:ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド)

「世界の教養」という帯のコピーが眩しいですが、大ベストセラー『FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』は、なるほど確かに刺激に満ち、新たな視座を与えてくれる本でした。

自分も注意深く世の中を見て、考え、行動していこうと思いました。

ところで、僕には今でも付き合いがある幼馴染がいます。
地元で就職したので、電車にもかれこれ10年以上乗らず、またネットなどもやらずに情報源はTVがメインという、典型的な地方のオジサンです。
アメリカであれば、ラストベルトにいる「忘れ去られた人」という形容が合うのかもしれません。

その彼が、世の中の厄介事などについて、「ファクトフルネス」でいうところの「宿命本能」「単純化本能」「犯人捜し本能」という観点でしか物事を捉えられていないのです。

その1:農協の策略

ジャンボタニシと呼ばれる外来種のタニシが、田植え直後の稲を食べてしまう被害が関東でも広がっています。
決定的な対策もない中で、稲作農家の方々は戦々恐々としています。
「どこそこの市でも被害に遭った」
……といったことも、僕自身耳にすることもあります。

そのジャンボタニシについて、幼馴染と話しているときに、彼は以下のように話していました。

「あ~あれね。あれは農協の策略だよ。専門の農薬を売るための」

農協は農薬を売っても、大したお金にはならないでしょう。
逆に、豊作で農家が儲けてくれた方がよっぽど利益になるに違いありません。

彼にファクトを幾ら尋ねても、「いや、そうに決まってるんだよ!」といった感じで聞く耳を持ちません。

その2:病院の陰謀

幼馴染の親が入院をしました。
原因は不明で、検査も工数が掛かるとのことで、結果として数ヶ月の入院になってしまいました。
また、検査結果が出ても原因は不明なままです。
幼馴染の親は、僕もお世話になっている方なので、非常に心配しています。
原因が分からないのならば、せめてセカンドオピニオンで、別の病院の先生に検査結果を診てもらうべきだと直言したところ、顔を曇らせました。

「言っていることは分かるけど、病院はどこへ行っても一緒。また長期間入院させて、病院が儲けようとしているんだ」

と真顔で言いました。

その表情からは、決して説得されないぞという決意も読み取れました。

その3:企業の脱税

幼馴染が地元の上場企業へ転職したときのことです。
中小企業とは異なり、大会社だと福利厚生も手厚いのが常だと思います。
会社や健康組合によっては、保養所なども保有しているところもあります。
僕が羨望混じりに話しているときに、幼馴染は話しを止めました。
そして僕の顔を見ながら、噛んで含めるように言いました。

「会社っていうのは、保養所を買って脱税しているんだ」

ちょっとこれは流石にないだろうと思い、「脱税」じゃなくて、せめて「節税」でしょう。
企業会計でも認められている……と云々カンヌン言ったところ、幼馴染は首を横に振り、

「君はまだ世の中を知らないんだよ」

と諌められました。
自分の説明の仕方がまずかったのかもしれませんが、またも理解してもらえません。

『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』では、著者がザイールで身の危険を感じたエピソードがあります。

最初に詳しく説明をしていなかったために、村人の一部から「村人を騙して、血を盗むつもりだ」と誤解を受け、殺気だった人たちが詰めかけたのこと。

このときは聡明で勇敢な村人の女性の演説で、その場は収まり、ナタを持った村人の男たち5、6人はぶつぶつ言いながらどこかへ消えてしまった、とあります。

しかし、ぶつぶつ言って消えた男たちは、納得はしたのでしょうか?
世の中は、揺るぎないファクトを目の前にしても、信じない人たちがある一定数います。

彼らに対して、丹念にファクトを説いていくのが良いのか。
それとも、適度な距離を保ちながら、前向きな意味での「無視」が良いのか。

アメリカの大統領選挙を見ても、「分断」が一つのテーマになっています。
分断の解消には、「ファクト」を積み重ねていくしかないようにも思いますが、理屈抜きで「ファクト」を信じない人たちにどう接するべきなのでしょう。

著者が存命中であれば、直接伺ってみたいテーマです。

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