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『チェンソーマン』製作費100%出資の考察

アニメ『鬼滅の刃』の制作著作を示すコピーライトは、以下でした。

(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

コピーライトとは別に、アニメクレジットの並びを確認すると、アニプレックス・集英社・ufotableの順番です。
おそらくは、この順の出資比率での製作委員会になっていると推察されます。

一方、『チェンソーマン』のコピーライトは以下になります。

(C)藤本タツキ/集英社・MAPPA

『鬼滅の刃』からアニプレックスが抜けて、制作はMAPPAに替わったスキームかなと思っておりましたが、違いました……!😅

MAPPAが100%出資する構造ですね。これは全く予想もしておりませんでした。
集英社が虎の子である『チェンソーマン』へ出資をしない≒アニメの権利をスルーすることは考えられなかったからです。出資をしない理由は不明です。

想像すると、以下のうちどれかかな? とも思いますが、根拠はありません。

①MAPPAの制作会社としての価値が高く、すべて任せてみようと考えた
②原作(藤本タツキ)の代理人である限り、出資をおこなわなくてもアニメをコントロールできると考えた
③社内で出資の予算が組めてなかった
④そもそも社内の人員が足りなかった
⑤実は『チェンソーマン』は、アニメ化に適していない難しい原作との認識(≒アニメ化はリスクが高い)

集英社が出資をしない経緯は不明ですが、まずは通常の製作委員会の構造を確認してみましょう。

通常の製作委員会構造

みずほ銀行「コンテンツ産業の展望」

製作委員会とは、「動画配信」「玩具」「TV」等々のアニメの事業会社で組成する任意組合です。
TVアニメは総製作費が1クールでも数億円にもなるので、一社で背負うのは困難です。リスク分散のためにも、複数の企業が出資を行い、事業を展開します。
日本で多くのアニメ作品が作られている理由の一つが、製作委員会方式にあります。広く薄くリスクを取ることによって、全体としてのリターンを狙います。(一つ一つの赤字に拘泥せず、全体として黒字にするのが目標)

また、製作委員会はリスクをヘッジすることに長けていますが、大ヒットしても、窓口手数料や各社事業分利益などを除くと、基本は出資分しかリターンはありません。
なお、事業が各委員会メンバーの意向に左右されることも多く、柔軟性や即時性に欠けたりもします。

ですので、かつてCygamesがアニメ『神撃のバハムート』で100%出資したように、資金に余力のある企業は、製作委員会方式を取らないケースもあります。

しかしながら、制作会社がテレビアニメで100%出資するケースはあまり聞いたことがありません。クリエイティブはもちろんですが、ビジネスも自分たちの責任で展開する必要があるからです。

制作会社100%出資スキーム

みずほ銀行「コンテンツ産業の展望」の一部を改定

通常の製作委員会方式に比べると、一社でおこなうことが多岐に渡ります。アニメ制作と権利窓口の行使に加え、放送枠の獲得や宣伝業務なども入ってくるからです。
製作委員会であれば、それぞれの得意とする領域でビジネスが展開できます。ですが、一社であれば、それらもすべて単独でおこなわなくてはなりません。

100%出資のメリット

ざっくりとメリットを挙げてみます。

①(原作・脚本・音楽を除いて)利益の総取りができる
②委員会メンバーの承認を取る必要がないので、大胆かつ迅速な事業判断が可能
③純度100%のクリエイティブコントロールができる
④「制作のみならず、ビジネスを含めたトータル的なアニメプロデュースが可能」といった、制作会社のブランディング向上
⑤制作会社自体の成長(筋トレと同じで、負荷をかけることによって成長する)

100%出資のデメリット

デメリットも挙げてみます。

①展開するアニメビジネスの事業が赤字の場合、すべて自社が被る
②宣伝も自社の責任
③電波料などの拠出(テレビの場合、スポンサーが足りないときは自ら補完する)
④トラブル発生時、自ら解決する必要がある
⑤出資作品ではないという理由で、窓口委託(≒マスターライセンシー)をしている会社の動きが鈍くなる可能性

アニメ『チェンソーマン』の構造

公開されている情報をもとに、『チェンソーマン』のビジネス構造もまとめてみました。

みずほ銀行「コンテンツ産業の展望」の一部を改定

この構造に付け加えると、1話目の提供は「ソニーミュージック」と「MAPPA」だけでした。
ソニーは『チェンソーマン』の音楽を担っているので、制作協力金も拠出されているのでしょう。またキャスティングも、ソニー色が強いです。

・デンジ役:戸谷菊之介(ソニー・ミュージックアーティスツ)
・マキマ役:楠木ともり(ソニー・ミュージックアーティスツ)

メインの2人はソニー系の事務所です。

ちなみに、2話以降は提供スポンサーが増えておりました。提供枠が売れたということでしょう。

なお宣伝は、スロウカーブが担っています。この辺りは万全ですね。

テレビ東京の局印税が発生しているかどうかは不明です。通常なら発生しそうですが、機密事項なので推察するしかありません。

まとめ

アニメ『チェンソーマン』について、制作は問題ないでしょう。100%出資であればこそ、制作はMAPPAにとって一丁目一番地のはずです。そもそもアニメ作品のクオリティが高くなければ、売れるものも売れません。

また、宣伝も手慣れたスロウカーブが展開しているので、安心感があります。

懸念点としては、MAPPA単体でアニメの事業を回していく展開力でしょうね。映像ライセンスなどは、ルーティーンできるところもあるので、それほど負荷がないかもしれません。しかしながら、商品化の部分は、多種多様なライセンス対応が必要ですし、監修だけでもかなりのマンパワーが求められます。
こうした面倒な部分は、もしかすると窓口委託で外部に出しているかもしれませんが、それでも大変な業務に違いありません。

単純に人を採用して済む問題でもありませんし、組織をどう作るか?
……といったアニメ業務とはレイヤーが異なる、純粋な経営能力が会社に必要とされています。

『チェンソーマン』はアニメ本編はもちろんですが、MAPPAという会社がどう道を切り開いていくのにも注目しています。


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