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アニメ『チェンソーマン』が製作委員会をぶった切る!

※本稿はMAPPAの100%出資が分かる前の論考記事です。100%出資の論考は以下で行っています。

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現在、TVアニメとして制作中の『チェンソーマン』。スタッフも発表になり、PVも完成。放送までに期待値がどんどん上がってきますね。PVを見る限り、確実に『呪術廻戦』の「次」が狙える作品になりそうです。

期待の『チェンソーマン』ですが、かなり気になった点が1つあります。
公式HPの下部にひっそりと表示してある、アニメ『チェンソーマン』のコピーライトです。

コピーライト

(C)藤本タツキ/集英社・MAPPA

これを目にしたとは、目を疑いました。

え?
原作者はともかく、アニメの権利者は集英社とMAPPAしかいないの……!?

通常、こうしたコピーライトは、当該アニメ作品の著作権者を示します。

(C)原作者/〇〇製作委員会
……といった表記だったり、アニメ『鬼滅の刃』の製作委員会のように、委員会メンバーを並べる表記をしたりします。

鬼滅コピー

(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

いずれにせよ、数社……場合によって、十数社からなる任意組合です。
なお『鬼滅の刃』は、3社しか製作に参加しておりませんので、各社の役割もはっきりしていますね。

・集英社:出版
・アニプレックス:プロデュース
・ufotable:アニメ制作

『鬼滅の刃』の製作委員会の成り立ちは、Wikipediaにも詳しい解説が書かれています。

出資は企画・販売のアニプレックス、原作を出版する集英社、アニメーション制作のufotableの3社のみであり、テレビ局などの出資に頼らない形式となっている。通常10社近い企業からの出資が当たり前であり、尚且つアニメスタジオが出資することが少ない日本のアニメーション作品でも珍しい形態であるが、アニプレックスとufotableは共に組んできた十数年間の作品すべてで同様の出資形式を採用している。これは、出資企業が多くなることによりアニメーション制作に制約が出てしまうことを避けるため。そのため、アニプレックスとufotableが初めてタッグを組んだ『劇場版 空の境界』より、両社以外の製作委員会への参加企業に関しては原作を出版・発売している企業のみにするという最小の出資企業数に留めている。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AC%BC%E6%BB%85%E3%81%AE%E5%88%83_(%E3%82%A2%E3%83%8B%E3%83%A1)

さて、『チェンソーマン』です。
『鬼滅の刃』よりも更に、絞り込んだ製作チームで組成されています。プロデュース会社がなく、出版社と制作会社だけなのです。

このシンプルな構造はなかなか衝撃的で、事業構造的にも『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』の「次」が到来した感もあります。

トムス・エンタテインメントの篠原宏康氏は、上記のインタビューで、以下のように語っています。

出版社からは10社での製作委員会よりは、「制作と営業と出版と3社でいいじゃないか」との声もでています。

しかしながら、現状はもっと早く進んでおります。
3社ではなく、2社なのです!

製作委員会の意義と問題点

少し横道にずれますが、今までのよくある製作委員会について、解説します。

製作委員会方式

※コンテンツ産業の展望
https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/bizinfo/industry/sangyou/pdf/1048_03_02.pdf


製作委員会とは、「テレビ局」「玩具メーカー」「ビデオメーカー」等々のアニメの事業会社で組成する任意組合のことです。

TVアニメは総製作費が1クールでも数億円にもなるので、1社で背負うのは困難です。リスク分散のためにも、複数の企業が出資を行い、事業を展開します。
利益は、それぞれの窓口手数料などを控除後、出資比率に応じて各社に配分されます。

リスクを低減させて事業に参画できる非常に優れた仕組みだからこそ、年間300以上のアニメ作品が制作可能になりました。製作委員会なくして、今の日本のアニメ大国はなかったはずです。

しかしメリットばかりではありません。
製作委員会の参加企業が多いと、意思決定も遅くなり、図体ばかりデカく、なかなか行動できない組織になったりもします。

また、私が一番問題だと思っている点は、製作委員会の意向を無視して、委員会の個別企業が自分たちの利益確保に走るケースがあることです。

共に出資をして製作委員会を組成。作品の成功へまっしぐらに突き進む……というのは、ある種の理想論です。

製作委員会という任意組合でも、参加している個別の企業が等分で売上や利益が得られるということは実はありません。製作委員会は赤字でも、その中の一社だけが黒字というケースもあります。

例えば、、、
商品化含め、日本国内ではまったくダメだったアニメ作品が、海外でブレイクした場合、海外の権利窓口を担当している製作委員会の会社が、窓口手数料含め最も大きな売上を手にすることになります。
当然、他の会社は不満がたまります。しかし、最初に決めた製作委員会の契約書通りなので、途中から海外の権利を寄越せとは言えません。

……といった具合で、まずは自分たちの売上を確保することに専念し、肝心の作品の成功は二の次になってしまうのです。

製作委員会から「新しいビジネス」が生まれにくいのは、こうした点もあるからです。

原作者/出版社+制作会社を解読

一方、アニメ『チェンソーマン』の事業構造は、通常の製作委員会形式は異なります。
もちろん、2社でも製作委員会であることには変わりないですが、出版社と制作会社という組み合わせは珍しいです。
メリットとデメリットについては、思いつく限り、以下に記してみました。

▼メリット
2社しかないので意思決定はかなり早そうです。
また、『チェンソーマン』は成功する確率が高そうなので、その分の売上も最大限享受できます。

▼デメリット
プロモーションやライセンス含め、全部自分たちで行う必要があり、リソースがかなり取られます。また、集英社=出版社、MAPPA=制作会社になるので、専門のアニメプロデュース会社ではありません。特に、MAPPAについては、クリエイティブ重視の制作会社であるので、ビジネスまで仕切るのはなかなか大変です。
また、成功角度が高い『チェンソーマン』とはいえ、参加企業が2社しかないからこそ、制作費の拠出も通常のアニメよりも多くなります。比例して、リスクも高くなります。失敗したときは、通常の製作委員会形式よりも多額の赤字を抱え込むことになってしまう可能性があります。

……以上、デメリットもそれなりにありますね。
ただ事業面については、主要なところだけは自分たちで行って、あとはマスターライセンシーの会社使って展開すれば、回らないことはないかなと思います。
とはいえ、ライセンシーは機を見るに敏なので、もしリスクが感じられたら、サッといなくなってしまいますが……。

あくまでも私の想像ですが、以下図解してみます。
※商品化のライセンスを例にしていますが、どういう構造で事業展開するかは外からだとわかりません。バンダイ等に丸っとライセンスするかもしれませんし、個別でゲームや玩具メーカーにライセンスしていくかもしれません。
繰り返しますが、あくまでも想像上の図解です!

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製作委員会の未来

今後、製作委員会はどうなってしまうのでしょうか?

まず間違いなく言えるのは、今まで継続的に組成されてきた、一般的な製作委員会がなくなることはないでしょう。
『チェンソーマン』のように2社しかないパターンは、リスクも鑑みると、やはりなかなか主流にはなりにくいです。
とはいえ、もし『チェンソーマン』が大成功したあかつきには、変化の時期が到来します。
集英社のみならず、小学館、講談社と続いて、本当にアニメとして「売れる」と確信が持てる原作は、原作者/出版社+制作会社の枠組みで展開される可能性が出てくるはずです。

【追記(2022/10/2)】MAPPAの100%出資!?

以下の記事だと「MAPPAの全額出資」とのことですが、にわかに信じられません。
虎の子の『チェンソーマン』を集英社が、1円の出資もしないでアニメの権利を手放すのは、あり得ない感じがしています。
IGNの記事の誤訳(or勘違い)かもしれませんが、いずれにせよアニメのクレジットにも注目ですね😄

【追記(2022/10/6)】MAPPAの100%出資のようです

リアルサウンドでMAPPA大塚社長のインタビューが掲載されていますが、100%出資のようですね。
制作会社が100%出すのは、なかなか革命的です!


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