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写真家 齋藤陽道 × KamaHan ワークショップ 【写真とことば】

 釜ヶ崎芸術大学と大阪大学とのコラボレーション企画「KamaHan」。
今年度は写真家の齋藤陽道さんをお招きして、「写真とことば」という講座を開催しました。

 6回にわたる齋藤さんとのワークショップで生まれた写真とことばをもとに、大阪大学にて展覧会を開催しました。ワークショップから展覧会までの様子を振り返ります。

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第1回 10月31日(木)

 齋藤さんを迎えての初めての講座。齋藤さんにとっても先生になるのは初めての挑戦。耳の聞こえない齋藤さんと参加者とのコミュニケーションをスムーズに行うために、齋藤さんの言葉はスクリーンに投影させ、参加者は紙とペンを持ち、自己紹介や質問などを書いて見せるという形式で講座は進んでいった。
 最初は齋藤さんの生い立ちとこれまでの作品や撮影している人の紹介、初期作品が生まれた経緯を説明し、参加者は自己紹介と釜ヶ崎との関係について、一人一人順に発表した。
 それから、齋藤さんの「写真とは何か」というお題に対して、参加者それぞれ自分が考える写真とはこういうものというのを紙に書いて発表した。

 後半は、1台の写ルンですを回して使い、それぞれが「釜ヶ崎」と感じるものを1人1枚取りに行くことになった。世代、性別、背の高さなどが違う人たちが1台のカメラで撮ると、何が見えてくるのかを探すというのが目的のひとつ。
 ココルームに残った人たちは齋藤さんが打ち出すことばの数々に集中して目をやっていた。その時間は静かで、とても豊かな時間に感じた。16時を過ぎて講座の時間を終えても、引き続き順に撮り続け、17時過ぎには全員が撮り終えた。それをカメラ屋に持っていき、翌日までに現像した。

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第2回 11月1日(金)

 前日に参加者たちが撮った写真をスクリーンに映し出し、写真から感じること、読み取れることを紙に書き出した。それを1枚につき2名ずつ発表し、撮影者たちが前日に書いた「写真とは何か」を読み上げ、また撮影者は何を意図してその写真を撮ったのかを説明し、写真を撮る側と見る側の考え・感じ方を照らし合わせた。
 そうすることによって、撮影者の考えがどれほど写真に表れているか、また見る側の見方・感じ方が合っていたり、異なっていたりといったことを感じることができた。この一連の流れを通して、被写体と撮影者との関係性、身体感覚といったことばがキーワードとして出てきた。

 「写真とは何か」という問いに対して、多くの人が「過去との関係性からくる価値」といった意見が多いのに対して、齋藤さんは写真は未来にそれを見る人によって意味付けされるような、未来のためにあるものといった考え方をされていたのが印象的だった。

 次回の講座までに、1人1台の写ルンですを使って「釜ヶ崎」と感じる場面、もの、風景などを撮ってくるという宿題が出された。

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第3回 12月12日(木)

 参加者が各自1台の写ルンですを持ち、「釜ヶ崎」と感じる場面、もの、風景などを撮ってきた写真27枚から1枚を選び、その写真にことばをひらくということを行った。
 
 参加者が写真を選ぶ前に、齋藤さんからセレクトについてレクチャーがあった。写真を撮るのも難しいが、多数ある写真から「これ」という1枚をセレクトするのはもっと難しいと、自身の経験を踏まえて教えてくれた。齋藤さんの日常では2000枚から20枚をセレクトするということの繰り返しなのだそう。
 レクチャーをふまえ、参加者は「釜ヶ崎」と感じる写真を1枚選び、その写真から思い浮かぶことばをのせた。
 そして、写真と撮影者のことばが書かれた紙を他の人に回し、他の人がその写真を見て感じることばを書いていった。
 最後にいろんな人のことばが書かれた紙をテーブルに並べて、全員で見た。

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第4回 12月13日(金)

 齋藤さんは各参加者が「これぞ!」とセレクトした写真を見て、「他にもっといいものがあるのに!」と感じたので、前日の講座終了後に齋藤さんがいいと思う写真をセレクトした。そして、齋藤さんがセレクトした写真が貼られた紙を全員で回し見した。
 
 そのあと、撮影した本人ではなく、それ以外の人がその写真に対してことばをひらいていった。というのも、撮影した本人は写真に対する印象や思い入れが強く残ってしまうため、そこから思考を開いていくという作業が必要だからとのこと。

 いろんな人のことばが書かれた紙を撮影者本人が見て、自分と他者との「ズレ」をことばにするということをし、それを発表した。感想のように書く人もいれば、詩のように書く人も。それぞれ印象の揺さぶられた写真から浮かんでくることばを書き綴っていた。

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第5回 1月16日(木)

 初回の講座で、参加者が釜ヶ崎内に出かけていき、写ルンです1台を使って回し撮りした。そこで撮った写真と、撮影者が考える「写真とは何か」ということばを並列させたフォトブックができあがった。編集は上田假奈代さん1人。
 
 前半はそのフォトブックがどんな仕上がりになったのかをひととおり確認した。この講座では展覧会とともにフォトブックも作るので、実際にフォトブックを制作するにあたって参考となる試みであり、みんなのことばが良い。
 そのあと、齋藤さんが最近出版した写真集『感動、』のスライドショーを見た。写真集をつくるにあたり2万枚の写真から100数枚をセレクトするのに10年間かかったそう。セレクトするときに大事にしていることは、ことば。ことばをもち写真に向き合うという姿勢について貴重な話を聴けた。

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第6回 1月17日(金)

 次回はいよいよ展覧会の準備ということで、どんな構成で行うかなどの具体的なイメージをもつために、齋藤さんから過去に開催した展覧会、現在開催中の展覧会の様子についてに聴いた。
 
 その後、これまで撮った写真や出てきたことばから、共通するものを探し、展覧会のタイトルを考えた。一人3,4つの候補を挙げていったので、合計30くらいのタイトル候補から「2+2は4にならない街」が選ばれた。

 後半は、自分が撮った写真からどの写真を展覧会に出すかセレクトした。それから展覧会をつくるにあたり、どんなしつらえにするかといった具体的なことを話し合った。結局、事前準備はせず次回で展示方法を考えることとなった。

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展覧会 「2+2=4ではない街」 

2月28日〜3月13日 
会場:会場:大阪大学 豊中キャンパス サイエンス・コモンズ スタジオB 

 齋藤陽道さんを迎えて行った全6回のワークショップの集大成として、大阪大学で展覧会を開催しました。

 あるものでなんとかする精神で、ココルームにあるダンボールや画材などを使い額装された写真たち。写真を撮った人と額装した人が違うコラージュ作品のようなものまで、勢いのあるエネルギーを感じる写真が並びました。

展覧会


 展示された写真ひとつひとつに丁寧に向き合い、そこからことばをさらにひらきながら、齋藤陽道さんの手話からも感じられる、そのダイナミックさと熱量を感じました。
 これまでのワークショップ内でもなんども齋藤さんが話された「写真とことばは恐ろしいぐらいに直結している」というのが手に取るようでした。

 最後に集合写真をパチリ!

展覧会2

<ワークショップ参加者の感想>

・齋藤さんのおはなしの中で「その写真から拓いたことば」という言葉がとても心に残っています。”拓く”んだぁ~、そうかぁ~どんな感じなのだろう?ひらく、ひらく、拓く…。とってもたのしみにしています。参加できてよかったです。

・こんなに真剣に写真をみたことはなかった。写真は「人」である。写真は「その人の人生」である。写真にかんして新しい見方が生まれました。

・身体感覚、おもしろい。齋藤さんも言っていたように、撮った人の身体感覚を宿すように見れたときは、妙なおもしろさがあった。撮った人のことばが重なるとまた味わいと立体感が増す。自分の写真もみんなと齋藤さんと言葉を拓きたかったなぁ。

・27枚撮って選べるのは1枚!それぞれの写真に思いがあったから選べないかなと思ったけれど、「自分」をみつめて「釜ヶ崎」に近づけたっと思えるものを選ぶのは、全然迷わなかったです。釜ヶ崎の人たちに写真を認めてもらうことで、また、自分も仲間にいれてもらった気持ちになりました。他の方々の写真も、セレクトの理由も、おもしろかったです。いろんなまなざし、その瞬間にしか撮れないものと出会えて世界の広がりを感じました。

・写真から感じる何かが、それを撮った方のその時の気持ちとどこかが近づく?重なる?そういう感じがしました。写真を撮る前後の物語と、撮る時とは時間を隔てているけど撮った方が経てきた時間(物語)とが、とても写真を印象づけているのかな。一枚の写真をきっかけに初めて出会った方と話が広がったことも、とても嬉し楽しかったです。

・自分の写真と出会い直す。あらかじめ想像していなかったことばがつけられた写真は自分ではないように感じました。とてもおもしろかったです。


齋藤陽道(さいとう はるみち)

1983 年、東京都生まれ。写真家。都立石神井ろう学校卒業。
2010 年、第 33 回キャノン写真新世紀優秀賞受賞。
2013 年、ワタリウム美術館にて大規模個展「宝箱」を開催。
2015 年、3331ArtsChiyoda で「なにものか」を開催。
主な写真集・著作に『感動』『宝箱』『写訳 春と修羅』など。
2018 年に『声めぐり』『異なり記念日』を同時刊行。
2018 年釜芸制作の「佂ヶ崎妖怪かるた」絵札の撮影者のひとりでもある。


KamaHanについて


 釜ヶ崎芸術大学と大阪大学COデザインセンターとが共同で行う講座で、2018年から始まり今年は2年目になります。「KamaHan」の講座は、いつもの釜芸の講座と同じくどなたでも参加できますが、大阪大学の授業科目「協働術H」としても開講されています。この授業を受講する阪大生は、釜ヶ崎の町を歩き、釜芸を経験し、講師や参加者と対話することを通じて、表現によって社会と向き合うことを学びます。さらに進んで、「誰もが表現を⾏えて、その表現が受け⼊れられる場」を作り、維持することはどうしたら可能なのかを考えます。2018年は、講師として武田力さん、深澤孝史さん、マット・ピーコックさん、藤井光さんをお招きしました。
 2019年度の講師は、写真家の齋藤陽道さんです。齋藤さんは写真と著作を通じて、他者との向き合い⽅について、また手話の表現の豊かさを含むことばの可能性について考察してきました。今年度のKamaHanは、釜芸が阪大で行う出張講義「釜芸in阪大」でスタートを切ります。その後、齋藤さんを迎える準備として、いくつかのテーマ(釜芸の成り立ち、齋藤さんの写真、手話)についての講座を開きます。そして10月の末から齋藤さんとともに街に出て釜ヶ崎で写真を撮ります。その体験のなかで⾃分の感情がどのように動いたのかを振り返り、語り合うプロセスを通じて、自分の表現の仕方を深めていきます。その成果として、講座の最後には写真展を開催する予定です。こうした実践を通じて、表現の場づくりの可能性について探究すること、それがKamaHanのねらいです。
https://www.osaka-u.ac.jp/ja/news/seminar/2019/10/8502


 ココルームは、今ピンチに直面しています。カフェ業と宿泊業の売上が活動の基盤を支えていましたが、新型コロナウイルスの影響で95%の減収です。今日と未来のために新しいであい方をさがしたい、仕事や住まいを失うなど、困った方と力をあわせたい、生きのびる知恵と技をこの街から発信したい。こうした思いから、現在ココルームはクラウドファンディングを実施中です。であいと表現の場を開きつづけていくために、みなさんのご協力をどうぞよろしくお願いします。

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現在、ココルームはピンチに直面しています。ゲストハウスとカフェのふりをして、であいと表現の場を開いてきましたが、活動の経営基盤の宿泊業はほぼキャンセル。カフェのお客さんもぐんと減って95%の減収です。こえとことばとこころの部屋を開きつづけたい。お気持ち、サポートをお願いしています