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2022年8月10日

今日のココ日(ココルーム日記)
最近毎日釜芸に顔を見せるオッチャン。
いつも酔っ払っていて大声で皆んなの会話に首を突っ込むものだから、その態度に困惑するお客さんもいる。
時々「そんなことばっかりしてたらいつかつまみ出されんで」と注意すると、愉快そうに顔をクシャクシャにして笑っている。
その様子を見ると僕もついつられて笑ってしまうから悔しい。
オッチャンは多種多様な仕事をしてきたらしく、やたらと色々なことに詳しくて、こちらがやっている作業にいちいちアドバイスをしてくる。
お茶っぱの揉み方はこうしろ、まな板の使い方はこれがいい、鍋の洗い方はこうやれ、などなど挙げるとキリがない。
それが実際正しい情報なので、僕は最初はふむふむと聞いているのだが、そもそもが酔っ払って偉そうな態度で僕にアドバイスし続けるものだから、僕はだんだんイライラしてきて、しまいには「口だけコーチ、黙っとけ!」と思い切り文句を言ってしまう。
そうするとオッチャンは頭をかきながら「こわいなぁ。お兄さん、岸和田出身やろ」などと言って、顔をクシャクシャにして笑う。
そんなどうしようもないオッチャンだが、釜芸がよほど気に入っているのか、他に行く場所がなくて仕方がないからなのか、来るたびに野菜や花や本やチラシを持ってきてくれる。
その品々をポケットが沢山ついた一見エプロンに見えるジャケットから出すのだが、「これやる」とアイテムをポケットから取り出す仕草はまるでドラえもんのようだ。
「オレの家、なんでもあるからなぁ」
そう言ってオッチャンは「今度炊飯器持ってくるわ」とか「あとでポット持ってきたろか」とか繰り返し言うのだが、ポケットに入らない大きさのものはいつまでも持ってこないらしい。
昨日の夜、皆んなで店閉めをやっていると、突然すぐ近くでガシャーンと音がした。
驚いて見ると、その酔っ払いオッチャンが、ちょうど釜芸の前で乗っていた自転車から思い切り転けていた。
顔から地面に落ちたらしいオッチャンのおでこは擦りむけて、血がひと筋ツーっと垂れてきた。
「オッチャン大丈夫か?!」
皆んなで介抱するとオッチャンは「大丈夫や、オレいつもこんなんやから」と、コケて額から血を流したまま手をスッと差し出して僕にこう言った。
「これやる」
その手には一輪の紅い花が握られていた。
ともかくその花を受け取って花瓶に放り込み、急いで絆創膏を取ってきたが、「ええねん、オレ絆創膏持ってるから」と言ってオッチャンは構わずふらふら起き上がると、また自転車に乗って行ってしまった。
そして今朝、何事もなかったかのようにオッチャンはかさぶたの出来たおでこのまま、釜芸の店出しを手伝いにやってきた。
開店準備が終わり、皆んなでラジオ体操を始め、やる気満々で僕が体を動かしていると、オッチャンは「そんなに膝曲げたらアカンで!」とさっそくアドバイスをかましてきた。
「ラジオ体操くらい好きにやらせろや!」
そう言い返す僕に、オッチャンは顔をクシャクシャにして「お兄さん岸和田の出身やろ」と笑った。
(書いた人:テンギョー)

現在、ココルームはピンチに直面しています。ゲストハウスとカフェのふりをして、であいと表現の場を開いてきましたが、活動の経営基盤の宿泊業はほぼキャンセル。カフェのお客さんもぐんと減って95%の減収です。こえとことばとこころの部屋を開きつづけたい。お気持ち、サポートをお願いしています