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モーニングワーク〜朝ではなく喪の仕事|臨床心理士への随録 心理学

はじめて「モーニングワーク」と聞いたとき、朝(morning)の仕事、そう、朝食作りとか窓のカーテンを開けるシーンを想像しました。どうも違うらしい。モーニングワークは「mourning work」、日本語訳は「喪の仕事」となります。

喪の仕事

ヒトは大切な人を死別などによって失う(喪失体験)と、大きな悲しみ(悲嘆)を感じ、長期に渡って特別な精神の状態変化を経るようになります。この悲嘆のプロセスこそが「喪の仕事」です。

"大切な人"とは、親や伴侶のみならず、ペットや友人など、深い心理的な関わりがある対象を指します。"喪失体験"は、死別に限りません。身体の一部を失う、自身のアイデンティティを失う、心から大切にしていたモノやコトを失う事でも起こります。高齢者が体験する認知機能の低下(昔できていた事ができなくなる)もあてはまります。

悲嘆のプロセスはキューブラ=ロスの理論が有名ですが、キリスト教色が強くて私にはいまいちピンとこないため、ここでは平山正実氏の4段階説で紹介します。

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1. ショック(ストレス)
 感覚の麻痺、涙が出ない、感情が湧かない、足が地につかない。何も考えられず、混乱状態の中、何にも集中できない。日常生活の簡単なこと(食べる・眠るなど)さえもできない状態。

2. 怒りの段階(防衛的退行)
 悲しみ、罪責感、怒り、責任転嫁。深い悲しみとともに、故人・周囲の人を責める気持ち、そう思ってしまう自分を責める気持ちが同時にある。故人との思い出にふけり、現実を認められない。幻想空想と現実の区別がつかない状態。

3. 抑うつの段階(承認)
 絶望感、深い抑うつ、空虚感、無表情、希死念慮。周囲のあらゆるものへの関心を失い、自分は価値のない人間だと思ってしまう。適応能力に欠け、外出せず、引きこもりのような状態。

4. 立ち直りの段階(適応と変化)
 徐々にエネルギーが出て、新しい希望が見えてくる。周囲との関わりを大切にしようと思えるようになる。故人の死の現実を認められるようになる状態。

各段階は一直線に進むのではなく、時には退行したり、何度も行き来しながら、適応へと向かいます。

グリーフケア 

喪失体験によって生じる心理的な困難に対し、心理的な関わりをもつことが「グリーフケア」です。悲嘆のプロセスに寄り添い、喪失体験の受け止め方を一緒に整理していきます。認知行動療法、複雑性悲嘆療法、筆記療法などの手法があります。

私はグリーフケアでとても大切な要素は「時間」だと思います。「時間が解決してくれるよ」は、およそ陳腐な慰め言葉ではありません。

仏教では初七日や四十九日という法要があります。法要には故人の供養と共に、自分の気持ちを整理していく意味合いがあります。喪失体験という大きなショックは、一日やそこらで整理がつく代物ではありません。慌ただしい現代社会でも、意識して時間を確保し、しっかりと故人を偲び、日常の一片として丁寧に綴じていきます。これをないがしろにすると、変な感じに引きずったり、生活に支障が出てきたりします。

悲嘆のプロセスは確かにつらい体験ですが、明けない夜はありません。ひとりでの直面化が難しい場合や整理の仕方がわからない場合は、心理相談室やメンタルクリニックで専門家と一緒にグリーフケアを行い、新しい朝を迎えましょう。うん、そういう意味では モーニングワーク=朝の仕事 でも、あながち間違いではない気がしてきました。