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「知能検査で発達障害は弁別できない」 臨床心理士への随録 心理学

大人のADHD(注意欠如・多動症)なんて言葉がメディアで取り上げられるようになり、自分の生きづらさを発達障害に求める人が増えてきたように感じます。私が勤めるメンタルクリニックで実施できる心理検査は少ないのですが、世間の動向からか、WAIS-Ⅳの導入が検討されています。

WAISとは

16〜90歳を対象としたウェクスラー式知能検査です。Wechsler Adult Intelligence Scaleの略称で、ウェイスと読みます。検査結果として、IQと4つの群指数(言語理解VC、知覚推理PR、ワーキングメモリWM、処理速度PS)が数値で出てきます。全検査IQで精神発達遅延を、群指数の相対から知能構造の偏りをつかむことができます。

2018年にⅣの日本語訳版が発売されました。ⅢからⅣへの改定で検査項目の見直しがなされ、キットの簡素化により実施時間が短縮し精度が向上しました。臨床心理学の日進月歩がここにあります。今年に入りうちの大学院の心理相談室にも納品され、ならばと試してみたところ、看板に偽りなく扱いやすくなっていました。

利用目的の注意

WAIS単体では発達障害の弁別はできません。Ⅳになってもそれは変わりません。

個人の知能の大まかな傾向は把握できますが、ここが何点だからあなたは自閉スペクトラム症、あなたはアスペルガー症、あなたはADHDとは診断できません。発達障害の診断・弁別は、他の心理検査の結果や、言動などの周辺情報を総合的に鑑みてなされます(ちなみに診断できるのは精神科医のみで、心理士はできません)WAISの点数は障害者手帳取得の判断材料に使われたりするので、ここら辺が勘違いする要因なのだと思われます。

知能検査は知能構造の特徴を知ることができます。忘れ物が多くてどれだけ気をつけても直らないとか、漢字だけが苦手とか、地図が読めなすぎるとか、それが生活に支障をきたすレベルの心理的困難であるなら、受検をおすすめします(一般的には1万円を下らない実施料金が気軽さのネックですが)。客観的な自己理解と困難の改善にひと役買ってくれることでしょう。