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離人症は自分と世界の距離感の病|臨床心理士への随録 心理学

離人症の主症状は「離人感」と「現実消失」である。

離人感」とは、自己の身体・感情・思考・感覚などから自分の主体性が失われて、自分自身を非現実的に感じる体験である。「現実消失」とは、自分が外界から切り離されていて、周囲の世界を非現実的に感じる体験である。

「自分の人生なのに観客席から眺めているよう」とか「自分と世界の間に常に薄いもやがかかっている感じ」と表現する患者さんがいた。自他の境界線が曖昧になるという部分では、統合失調症に似ているともいえる。

離人感が持続的かつ広範的で苦痛や機能障害を引き起こし、それが独立している場合に離人症の診断がつく。うつ病の併発もしやすいとされている。若年者の成長途中で起こる一時的なものであれば、加齢とともに徐々に消えていくことが多いのだが、そうでない場合はとても難しい病気となる。

なんせ、治療法が確立していない。薬で症状が緩和するので脳内の神経伝達物質の異常なのだが、生得的な気質にも関連があるように思う。

効果的だと言われる治療法のひとつがグラウンディングである。五感を活用して、自分が現実世界とつながっている感覚を強めることを目標とする。大音量の音楽をかけたり、掌に氷を乗せてみる。このような物理的感覚は無視することが難しいため、クライエントは現実に生きている自分自身の存在を認識することになる。そこにフォーカスするのだ。頭で行う認知だけではなく、身体を含む五感を総活用して、「今ここにいる自分」を感じる。

論文や本を漁っても、なかなか効果的な心理療法が見つからないのが現状だ。薬で症状を和らげながら色々と試してみるしかない。没頭できる何かがみつかり、やりがいや生きがいが芽生えれば離人感は薄まってくるはずなのだが、うつ病などが絡んでくると集中力の低下と興味関心の希薄により空虚感が増して、狙う方向と真逆の状態に陥る。

離人症は厄介で扱いが難しい。