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WAIS、IQ、EQを考える|臨床心理士への随録 心理学

自分のIQがいくつなのか、みなさん興味はありますよね。東大生の平均は120、MENSA会員は全員130以上(全人口の約2%)らしいです。でも、IQ高けりゃ優秀かといわれれば、そうとも限りません。

まずはIQの定義からいきましょう。厚生労働省の説明がわかりやすいです。

IQ(=知能指数)とは、単に学習で覚えた知識や学力ではなく、様々な状況や環境に合理的に対処していくための土台となる能力を知能と捉え、それをわかりやすく数値化したものである。

IQを測定するWAIS(ウェイス)という心理検査があります。診察で発達障害が疑われると真っ先にバッテリーを組まれる検査なので、発達障害の判別機能が備わっていると勘違いされがちなのですが、WAISは知能構造の特徴を探ることを目的とした心理検査です。全体的な知能水準、および言語の理解力、視覚情報の認識力、聴覚情報の記憶と操作力、情報の処理能力の4つの側面から、その人の知能構造の特徴を明らかにしようとします。

私は高次脳機能の検査をとるようになってから、WAISの奥深さと精巧さが少しわかってきた気がしています。

例えば暗算をする時、知能のどの機能を駆使していると思いますか?まず、紙に書いてある問題を解くのか、口頭で教示されたものを解くのかで、まるっきり違う機能を使うことになります。わかりやすく言えば視覚なのか聴覚なのか。脳の使用部位で言えば後頭葉なのか側頭葉なのかです。紙に問題が書かれてあれば、問題を記憶する必要はありません。聴覚であれば、耳で聞いた情報を、頭の中に留め、留めた情報を頭の中で操作(計算)して答えを導くことになります。全然違うんです。

WAISの計算問題では、記憶能力や概念操作能力、計算能力などをみています。もし失点していたら、それはどの能力の影響によるものなのか。記憶はいいけど計算が苦手かもしれないし、逆に計算はいいけど記憶が苦手な人もいます。他の検査項目の結果や、聴取した生活史などの情報も加えて複眼的に解釈していきます。

WAISの結果は数値だけではなく解釈にも着目しましょう。自分の知能構造の強み弱みを生活に生かす観点から心理的困難の解消を目指すのです。

さてここで、「EQ」という概念を出してみます。

EQ(Emotional Intelligence Quotient)とは、自己や他者の感情を知覚し、また自分の感情をコントロールするこころの知能を指す。(Wikipedia

こちらのサイトでは、EQをこのような能力と説明しています。

・自分自身を動機づけ、挫折してもしぶとくがんばれる能力
・衝動をコントロールし、快楽を我慢できる能力
・自分の気分をうまく整え、感情の乱れに思考力を阻害されない能力
・他人に共感でき、希望を維持できる能力

EQを持ち出して何が言いたいかというと、IQだけ高くてもダメなときがあるということです。必ずしもIQが高い=優秀とは限りません。「優秀」の定義によりますが。優秀=心理的困難に陥らず適応的な生活を営む人とするならば、メンタルクリニックには実に多くのIQ120以上の方々が来院されています。

EQとはつまり生き抜くための精神力です。EQを活用することにより、自分の手でポジティブな変化を創りだすことができます。IQが先天的な資質によるところが大きいのに対し、EQは後天的に誰もが開発可能とされています。

EQを高めよう!と言いたい訳でもありません。もちろんIQもEQもどちらも高ければいいんでしょうけど、完璧な人間なんていませんし、目指す必要もありません。IQもEQも含めた自分の凹凸を理解し、それを受容し、どこに努力の矛先を向けるか決めましょう。人間というのは凹に注意しがちですが、凸を生かして自分らしく輝くことを忘れてはいけません。自論というか私の価値観ですが、社会適応的に生きていくためには得意を最大限に活用することが大切だと感じているのです。

雑文になりましたが、WAISは単純ではない面白い心理検査である、IQの点数だけにとらわれるのはもったいない、知能構造の強み弱みを日常に活かす、EQの力で人生をサバイブしよう、という話でした。

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