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日焼け止め成分を徹底解説【紫外線吸収剤って肌に悪いの?】

だんだん暑い日も増えてきて、本格的に日焼けが気になる季節になってきました!
皆さんは毎日使う日焼け止めに配合されている成分が、どのように紫外線を防いでくれているのか知っていますか?
「ノンケミカル」「紫外線吸収剤フリー」でなんとなく肌によさそう・・・と、よくわからないまま選んでいる方も多いのではないでしょうか?

今回は日焼け止めに入っている紫外線防御剤(紫外線散乱剤/紫外線吸収剤)が紫外線を防ぐ仕組みやそれぞれのメリット・デメリット、さらに「ノンケミカル」の本来の意味「紫外線吸収剤は肌に悪い」というウワサの真相までわかりやすく解説します!


紫外線防御剤の種類

日焼け止め製品に使われる紫外線防御剤には、紫外線を反射・散乱させる紫外線散乱剤と、紫外線を吸収する紫外線吸収剤があります。

紫外線散乱剤と紫外線吸収剤の違いを表にまとめました。

紫外線散乱剤と紫外線吸収剤の違い

ここからは紫外線散乱剤と紫外線吸収剤について、それぞれの特徴とメリット・デメリットについて詳しく解説していきます。

紫外線散乱剤とは?

紫外線散乱剤は、主に紫外線を物理的に反射・散乱させることによって紫外線から肌を守ります。

紫外線散乱剤には、酸化チタン酸化亜鉛などの無機粉体が使用されます。これらは紫外線を散乱させるだけでなく吸収することも知られており、酸化チタンは主に UVB 領域の紫外線を吸収酸化亜鉛は UVA から UVB まで幅広い波長の紫外線を吸収します。

引用:紫外線防御剤を用いた製剤化技術の開発*³⁾,井上美緒著,(2014)より

酸化チタン
酸化チタンは、ファンデーションなどのベースメイクにカバー力を与える白色顔料としても使用される粉体原料です。日焼け止めには白浮きの少ない100nm以下の微粒子酸化チタンが多く使用されます。UVA・UVBの散乱およびUVBを吸収する紫外線防御作用があり、主にUVBの防御剤として活用されています。

酸化亜鉛
酸化チタンに比べると紫外線防御力は劣りますが、透明性が高いため日焼け止めの紫外線散乱剤としてよく使われています。UVA・UVBの散乱・吸収作用があり、主にUVAの防御目的で活用されています。

酸化セリウム
酸化チタンや酸化亜鉛に比べると日焼け止め成分としての実績は少ないですが、幅広い波長の光に効果を発揮し、UVAやUVBだけでなく、UVAより長波長のブルーライトや近赤外線まで防ぐことができるといわれています⁹⁾。

紫外線散乱剤のメリット

  • 皮膚刺激が起こりにくい

  • 幅広い波長の紫外線を防御できる

紫外線散乱剤のデメリット

  • 紫外線吸収剤に比べて紫外線防御効果が低い

  • 白浮きしやすい

  • きしみや乾燥を感じやすい

紫外線散乱剤は、紫外線吸収剤と比べて皮膚刺激が起こりにくく肌への負担が少ない反面、これまでは白浮きやきしみを生じやすいという欠点がありました。
しかし近年、製造技術の進歩によって超微粒子粉体の製造が可能となり、白浮きせず、固まりにくい、新しい原料が開発されています。
機能性の高い新しい原料の登場や、消費者の安全性への意識の高まりにより、紫外線吸収剤を配合せずに散乱剤だけで紫外線を防御する紫外線吸収剤フリーの日焼け止めも増えてきています。

紫外線吸収剤とは?

紫外線吸収剤は、紫外線を吸収し、熱などの別のエネルギーに変えて放出することによって、紫外線が肌の奥まで到達するのを防ぐ成分です。

紫外線吸収剤は、成分ごとに吸収する波長が異なり、波長の長いUVAを吸収するUVA 吸収剤、波長の短いUVBを吸収するUVB 吸収剤、どちらも吸収するUVA~UVB吸収剤に分けられます。

引用:化粧品成分オンライン⁶⁾

日本で使用されている主な紫外線吸収剤をまとめました。

主な紫外線吸収剤

UVB吸収剤として代表的な成分はメトキシケイヒ酸エチルヘキシルで、紫外線吸収能が高く、溶解性に優れていて配合しやすいことから、多くのUVケア化粧品に配合されています。

UVA吸収剤としてよく使用されているのはt-ブチルメトキシジベンゾイルメタンです。近年、より皮膚の深いところまで到達してハリや弾力の低下を引き起こすUVAへの注目が高まり、UVA吸収剤への需要が高まっていますが、UVB吸収剤に比べて開発の歴史が浅く、種類も少ないのが現状です。

紫外線吸収剤のメリット

  • 紫外線防御効果が高い

  • 白浮きせず、軽い付け心地で使用感がいい

  • 汗などで崩れにくい

紫外線吸収剤のデメリット

  • 人によって刺激を感じることがある

  • 光劣化によって紫外線防御効果が低下することがある

紫外線吸収剤は紫外線防御効果が高い反面、紫外線のエネルギーを別のエネルギーに変換する際に、人によっては刺激を感じる場合があります。
オキシベンゾンパラアミノ安息香酸などの紫外線吸収剤の使用によって光接触皮膚炎が生じる可能性があるという報告⁸⁾もあり、過去に皮膚炎などが起きたことがある方にとっては注意が必要です。

また、一部の紫外線吸収剤は紫外線を浴びると「光劣化」を生じ、紫外線防御効果が低下することがあります。特にUVA吸収剤のt-ブチルメトキシジベンゾイルメタンは光劣化を起こしやすいといわれいて、他の吸収剤と併用したり、安定化剤を配合したりすることによって光劣化を抑える処方上の工夫が行われています³⁾。

日焼け止め成分に関するよくある疑問

日焼け止め成分に関する2つの疑問に化粧品開発者がお答えします!

①ノンケミカルって何?

ケミカルとは、英語の“chemical(化学物質)”のことで、化学的に合成された成分のことを指します。ノンケミカルとは本来、化学物質を含まないものを指しますが、日焼け止めにおいては一般的に、紫外線吸収剤が含まれているものが「ケミカル」、紫外線吸収剤が含まれていないものが「ノンケミカル」と呼ばれることが多いです。
しかし、植物由来のフェルラ酸など、自然由来の紫外線吸収剤も少ないですが存在しますし、反対に化学合成の紫外線散乱剤も存在します。また、機能性を高めるために表面処理された紫外線散乱剤のコーティング剤には化学合成された成分が含まれることが多いです。
紫外線吸収剤不使用だからといって、化学物質を含まない、本来の意味の「ノンケミカル」とは限らないので混同しないようにしましょう。

②紫外線吸収剤は避けるべき?

『紫外線吸収剤は肌に悪い』という情報が広がり、「紫外線吸収剤フリー」「ノンケミカル」の日焼け止めが増えてきていますが、結論から言うと今まで紫外線吸収剤配合の日焼け止めを問題なく使っていて、肌荒れなどが起きたことがない方は、特に避ける必要はありません

紫外線吸収剤が肌に合わない方がいるのは事実ですが、それは他の成分も同様です。まれにですが金属アレルギーの方の中には紫外線散乱剤が肌に合わないという方もいます。日本で使用されている紫外線吸収剤は、国内の基準をクリアしていて一定の安全性が確認されているため、吸収剤が肌に合わない一部の方以外は問題なく使用できます。

最近では安全性を考慮して、水にも油にも溶けにくく吸収剤と散乱剤の長所を併せ持ったような不溶性紫外線吸収剤や、経皮吸収を抑える高分子型紫外線吸収剤など、 刺激の少ない新しい紫外線吸収剤が開発されています¹⁰⁾。
また、紫外線吸収剤の組み合わせや散乱剤との併用によってトータルの紫外線防御剤の配合量を減らすなど、肌への負担を少なくする処方上の工夫も行われています。

紫外線吸収剤と散乱剤のメリット・デメリットは表裏一体なので、両方を上手に組み合わせることによって、機能性が高く肌への負担も少ない日焼け止めが続々と開発されています。
日焼け止めの技術がどんどん進化している中、肌に悪いというイメージだけで紫外線吸収剤配合の製品を避けるのはもったいないので、紫外線吸収剤で刺激を感じたことがない方は、吸収剤の有無に関わらず、いろいろな日焼け止めを試してみてください!

まとめ

今回は日焼け止めに入っている紫外線散乱剤/紫外線吸収剤が紫外線を防ぐ仕組みやメリット・デメリット、よくある疑問に対する化粧品開発者の見解をお話ししました。
化粧品や成分が合う・合わないは個人の肌質によって違うので、特定の成分を悪者にするような根拠のない情報に惑わされず、自分に合った化粧品を見つけてくださいね!

日焼け止めについてもっと知りたい!という方は、以下の記事も読んでみてください。

最近、SNSなどで話題になっている「酸化亜鉛は毛穴に詰まる?」というウワサを検証する実験企画も予定しているので楽しみにしていてください!

これからも世の中に溢れる曖昧な情報に「モノサシ」をあてる正しい美容情報を発信していきます!美容にまつわる気になるウワサや、取り上げてほしい美容情報があれば、ぜひコメントで教えてくださいね♪

(執筆:なな)

【参考文献】
1)日本化粧品技術者会、化粧品用語集
2)紫外線吸収剤の皮膚に対する傷害性を 抑えた日焼け止め化粧料の開発,山口 和弘著,(2021)
3)紫外線防御剤を用いた製剤化技術の開発*,井上美緒著,(2014)
4)紫外線についての基礎知識、日本化粧品工業会
5)化粧品開発に用いられる紫外線防御素材*,本間茂雄著,(2014)
6)化粧品成分オンライン,化粧品配合成分「酸化亜鉛」の総合レポート
7)日本化粧品工業連合会,化粧品のナノテクノロジー安全性情報,2014年6月20日調査報告
8)光アレルギー Photoallergy,川田暁 著 ,(2011)
9)近赤外線への水溶性遮蔽原料水分散型酸化セリウムの効能の検証, 藤本幸弘著, Fragrance Journal, 43, 18-23, (2015)
10)最近の化粧品用途紫外線吸収剤,藤岡賢大著,オレオサイエンス第7巻第9号,(2007)



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