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「スリープ・オン・ザ・グラウンド」第13話
「清水先生が『依頼した』とか『宝は我々のものになる』って話してた。それって「カラス」に依頼して宝を手にするって意味なんじゃないかって思って……」
私は恐る恐るふたりに自分の考えを打ち明ける。ストーリー展開的にあの会話はそんな雰囲気が漂っていた。
「そんなー考えすぎだって!流石にそれはないでしょ!ねえ?和久君」
「いや、学校内部に「カラス」と通じる人間がいるのは確かだね」
笑い飛ばそうとした瑠夏に対して、和久君がきっぱりと否定する。
「……え?ほんとなの?」
「だって暗号文を持ってるのも、旧校舎の内部を知ってるのもおかしくない?誰かがカラスに情報を伝えたとしか思えないね」
和久君は顎に手を当てて考え込む素振りをみせる。その姿はドラマで見る刑事や探偵そのものだ。
和久君の言う通り。そもそもカラスが学校に宝があるのを知っていることや暗号文を持っていることがおかしい。
宝飾品店や金持ちの家をターゲットにするのは分かる。家や身に着けている物、暮らしを観察しているだけで分かるし、宝飾品店は品物が高額商品なのだから悩む必要もない。宝を盗みに学校へ行こう!……とはならないはずだ。
以上のことを考えるとカラスはどこかで『同森ヶ丘中学校には宝が隠されている』という情報を手にしたに違いない。
今までの情報を分析すると……その情報は学校関係者である清水先生達が出したのではないかと私は考えた。ストーリー展開的にその方が面白そうだし大いに有り得る。
「校長先生か教頭先生に聞いてみるのは?一応ふたりが宝の所有者かもなんでしょ?学校の宝が泥棒や教師から狙われてますよーって」
瑠夏が気の抜けた声で提案する。それができたらどんなに楽か……。私が口を開く前に和久君が首を振る。
「残念だけどそれは無理だね。だって『宝の噂は嘘で、生徒は宝探し禁止!』って校長先生と教頭先生が職員会議で言ったんだよ?そんなこと聞いたら僕達は生徒指導室行きで宝探しも出来ずにゲームオーバーになっちゃう」
「うわっ……そっか。ん?でもおかしくない?そんなに大事な宝なら学校から移動させて金庫にでもしまっちゃえばいいのに」
瑠夏の的を射た発言に私は心の中で指を鳴らす。
そうそこ。そこなんだ。私が引っかかっていた部分は。
「たぶん校長先生達も宝の正体を知らないんだよ。ただ宝が学校に隠されているってことだけ知ってるんだと思う」
和久君の発言に補足するように私が続ける。
「宝の在り処が分かるならとっくの昔に移動させて、本丸家の手元に置いてると思う。それをしていないってことは……宝がどこにあるかも何なのかも分からないってこと」
「うわー……。なんかそれっぽい。てか、そこまで分かるなんて……名探偵たちはすごいねー!全然っ理解できなけど、面白くなってきた!」
興奮気味に瑠夏が手を叩く。
だとしたら先生達の動きも把握しておかなければならない。考えなければならないことが増えて私は深いため息を吐く。瑠夏が素直に宝探しを楽しんでいるのが羨ましい……。
「私は校長先生と教頭先生について調べてみる」
和久君が大きく頷く。
「それはそうだね。宝探しの発端が分かれば宝の正体も分かるかもしれないし、ライバルたちに対抗できるかも。僕は旧校舎の片付けに備えて暗号文を見直しておく」
「私は?私は何しておけばいい?」
「瑠夏は……部活頑張って」
「須藤さんは臨機応変に対応してくれればいいよ」
和久君と私の答えに瑠夏は眉間に皺を寄せる。
瑠夏は何かが起こった時、咄嗟に行動できる性格傾向にある。それこそバレーボールのプレイのように。どんなボールが来ても得点にしてみせるのだ。
入念に下調べをして備えるタイプの私からしてみれば一発勝負に強い瑠夏の方が才能あふれる人物のように見える。私なんて調べても本番で失敗することもあるというのに。瑠夏は試合で必ず決める。
「何それ?私だけ何もなくない?まあ、部活は行くけど。またね!」
瑠夏はもう我慢できないというように廊下を駆け出していた。取り残された私と和久君は顔を見合わせると肩をすくめる。
「それじゃ僕も部活行こうかな。またね!」
「うん。また……」
私はひらひらと手を振ってふたりを見送った。
「楽しそうでいいね」
突然背後から声が聞こえてきて私は肩を揺らす。
「加賀美先輩……。びっくりするじゃないですか」
図書室のドアから顔を覗かせていたのは加賀美先輩だった。驚いた私を見て微笑みを浮かべている。
「ごめんね。後輩たちが仲良しなの可愛いなって思って。見守ってた」
可愛いのは加賀美先輩ですとキザな台詞が思い浮かぶ。まさかそんなこと口に出すこともできず私は困った笑みを浮かべた。
「ちょっと盗み聞きしちゃったんだけど本丸校長先生のこと調べたいんでしょう?」
加賀美先輩が開けておいてくれたドアから図書室に入ると私は目を見開いた。その反応を見て加賀美先輩がいたずらっ子のように笑う。
「言ったでしょ?私も宝探し協力できることは協力するって」
「ありがとうございます。先輩受験生で忙しいのに……」
私は首をすぼめながらがら空きの席に座った。
受験生は忙しいというレッテルが張られているせいか、変に気を遣ってしまう。
「大丈夫!まだ時間はあるから。こういう時に楽しめることは楽しんでおきたいじゃない?受験が近くなったら色々我慢することも多いだろうし」
そう言って先輩は遠くを見るような目をする。
「先輩だったらレベルの高い高校に合格しそう。心配する必要ないですもんね」
御世辞ではなく心底そう思っていた。優秀で先生の評価も高い加賀美先輩のことだ。レベルの高い高校に入学できるに違いない。
私の言葉に加賀美先輩は曖昧に微笑んだ。
「そんなことより宝探しのこと考えよう!本丸校長先生のことだったら噂好きの先生に聞くのはどうかな?」
「もしかして……百花先生ですか?」
「そう!我が文芸部の幽霊顧問の百花先生!きっと何か知ってるよ」
私はげんなりしてしまう。百花咲先生は妙齢の女性教師だ。本人は「アラサー」と公言している。いつも香水の香りがキツイ。
放任主義で文芸部に滅多に顔を出さない。「加賀美さんがいるなら大丈夫でしょう」と言ってうまく部活の指導をサボっている。
文芸部の活動に監督も何もないから仕方がないけれど、軽んじられている気がしてならない。実際、「文芸部の活動なんて面倒くさい」と思っているに違いなかった。
授業前に生徒達に職員室の裏話を披露するのが定番で、一部の生徒達から支持を得ていたりする。
噂好きの百花先生なら知っている可能性が高いけれど……私が苦手な性格傾向の人物だから気が進まない。
「今から聞きに行ってみる?部活動の相談と称して」
「あの……職員室だとちょっと具合が悪いというか……」
折角のチャンスに思わず言葉が淀んでしまう。職員室にはカラスと内通してるかもしれない清水先生と鬼山先生がいる。そのふたりに聞かれるのは非常にマズイ。そんな私の気も知らず、加賀美先輩が私の右腕を取る。
「大丈夫!図書室に来てもらおう。百花先生、私のクラスの担任でもあるから声掛けやすいし!」
「はあ……」
嫌だとは言えなかった。
私は先輩に腕を引かれて職員室に向かう。その間ただ先輩の後ろ姿……あの綺麗なバレッタを眺めることしかできなかった。
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