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”Hey,Jude”からのエピソード  天才たちが持つ先進性について

時代をリードする者だけが感じている感覚、
と言えばよいのだろうか?

僕は物心ついた頃から洋楽を聞いてきて
それなりにポピュラー音楽についての耳はもっているつもり。
その中でトップクラスの革新性と大衆性を誇っているのは
何を隠そう、ビートルズだ。

彼らは音楽を含め、文化や言動、ビジネスなどあらゆる
時代をリードしているという自覚を常に持っていた、という点に注目したい。
言い換えれば、従来の常識にとらわれないざん新さと言えばよいだろうか。

それを「先進性」と定義したい。
英語に翻訳するとSprit of Innovation。
それは文字通り、精神の現れなのである。

皆さんもよく知っている"Hey,Jude"は7分を超える大曲なのだが(しかもシングルのA面だ!)、
こんな長い曲をどこのラジオ局が掛けてくれるんだ?というスタッフの問いに
ジョンレノンはこう答えたという。

「ビートルズの曲だぜ、掛けない訳がないだろう?」

その一言で決まった。
7分もの小組曲が世界中のラジオから流れ続けた。
彼らのメッセージとして世界中の人々に流れていった。

後年ジョンは、これはポールの曲なのだが、
ポールが書いた曲のなかでいちばんいい、なんてことを言うのだ(笑)
おそらく後年の"Imagine"に影響していったに違いないと思う。

この確信のようなものはどこからくるんだろう?
と訝しく思ったのだ。(さすがに後付のデマかもしれないが)
絶対的な確信。絶対的でなくても、それがなければ人間は動くことができない。
人間は誰もやったことがないことに拒否反応を示す生き物なのに。
なんでそんなものが彼らにあるんだろう?
ひとえにそれは「時代の寵児」だったからに決まっているじゃないか!
と一言で済ませることができれば、
こんなところで僕が言及するまでもない(笑)


”Hey,Jude”は一方でアメリカの南部にある、フェイムスタジオでも
先進性を物語るエピソードがある。

その名もデュアンオールマン。
後にエリッククラプトンの”Layla”の制作に深くかかわることになる、
オールマンブラザーズのリードギタリストである。

60年代後半当時、
黒人と白人のアイデンティティから由来する相互差別は激化していて、
黒人歌手は南部であればあるほど(とくに保守的な地域)、
白人の歌を歌おうなんて酔狂はありえないことだった。
しかも、その歌手は気難し屋で自作曲のヒットをもっていたウィルソンピケット。
彼は自分で作詞作曲できるので、他人の歌なんて必要ない歌手だったのだ。
それなのにデュアンオールマンは、
しかも白人バンドのビートルズの”Hey,Jude”をしきりにすすめた。
ギターで歌メロをなぞりながら、ウィルソンピケットを説得し続けた。
気が進まかったが、促されるままに仕方なくうろ覚えのメロディを歌った
ピケットはとてもソウルフルに自分の歌唱を表現できる曲であることを確信した。

歌の内容と被るが、デュアンオールマンはウィルソンピケットに
”Don't carry the world upon your shoulder”と歌いかけていたのだ。
デュアンオールマンは確信していたのだろう。

黒人が歌う白人のヒットソングではあるが、
ただの模倣ではない、アメリカ音楽の持つルーツに根差した、
全く新しくて、とても優しいアンサーソングなのだ、と。

確かに今となっては何が先進だったのか分かりづらいが、
ビートルズの原曲にないもので言えば、ウィルソンピケット版には、
歌に寄り添い、ときには叱咤するデュアンのギターが
クライマックスに向けて大いなる役割を果たしていく。
とてもエモーショナルで、神聖な、と言ってもいいだろう。
そこにホーンと白玉バッキングのオルガンが絡む。
これはソウルミュージックを作ってきたという音楽集団、
マッスルショールズの自負であり、原曲を作ったイギリスへの回答であった。
こういうところは、アメリカという国の奥深さを感じさせるものだ。
いい曲だということは本質的に彼らは理解していたのだ。

この曲は、黒人層からも支持されて、大ヒットになっていく。
この曲からアメリカ南部にいる彼らの存在を世界中が認識するようになり、
サザンロックの形成に一役買うことになる。

時代に影響されながら(影響されない人間なんてありえない)も、
新しい可能性を探り、その鉱脈を選び取るその力は凄いものだ。
当時スーパースターだったビートルズから
当時一介のスタジオミュージシャンだったデュアンオールマンまで、
持っている人は持っているとしか言えない。

その先進性は、
世界中の多くの人たちへの連帯や問いかけで成り立っていてほしい。
それは他者への優しさや敬慕であり、歌のように続いていってほしい。
Hey Judeのように…

そんなことを思ってもみる。

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