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コーチングの基礎

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ルー・タイスのコーチング・プリンシプルに基づいたマインド(脳と心)の仕組みと上手な使い方について説明しています。各記事には1つのテーマの解説と、それに対応するワークが含まれていま… もっと読む
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【1】 見えていないもの

何かを欲しい、買いたいと思っていると、それを身につけている人や売っている場所が意外と多いことに気づいたという経験はありませんか? たとえば、あるブランドのバッグを欲しいと思っていたら、電車や街中でそれを持っている人を何人も見つけたり、よく行くショッピングモールでも売っていたことに気づいたりした、といった経験です。 そのような経験をしたときは、その欲しいものが街中に「増えた」あるいは「出現した」ような感覚を覚えるかもしれません。もちろん、増えたり出現したわけではありません。

【2】 見ようとしているものしか見えない

私たちは五感を通じて、外の世界を認識しています。 しかし、外の世界の情報は脳にとってあまりに多すぎるため、すべての情報を同時に処理することはできません。 そのため、自分にとって重要な情報、あるいは注意を向けている情報のみが処理され認識されています。 例えば、この文章を読んでいるとき、足やお尻にかかっている体重を意識的には感じていないはずです。 また、周囲の音が聞こえていても、どのような音がしているかまでは認識していないと思います。 このように指摘されるとその対象へ注

【3】 何が見たいものを決めているのか?

私たちはあることに注目すると、つまりロック・オンすると、それ以外のことがスコトマとなって認識できなくなります。 そして、私たちが無意識にロック・オンしているのは、「自分にとって重要なこと」です。 つまり、私たちは自分にとって重要なこと以外はスコトマとなって認識できていません。 では、「自分にとって重要なこと」を決めているのは何でしょうか? それは、情動記憶(emotional history)です。 情動記憶とは、過去の体験についての感情を伴った記憶のことです。 その感情が

【4】 重要なものだけが通り抜ける

私たちは、自分にとって重要なものだけを知覚しています。それ以外の情報はスコトマとなるため知覚できません。 「自分にとって重要なもの」とは、具体的には、自分にとって価値のあるものと危険なものです。 自分にとって価値のあるものと危険なものを知覚させ、それ以外の情報をスコトマにするメカニズムがRAS(Reticular Activating System)です。 RASは脳にあるフィルターシステムのようなものです。 RASのおかげで、私たちは自分にとって大切な情報を大量の情報のな

【5】 何を重要だと思わされているか?

RASは自分にとって重要な情報だけを通します。 そして、RASを通り抜けなかった情報はスコトマとなって知覚されません。 RASを通り抜けないものは、本人にとって存在していないことと変わりありません。 だから、何が自分にとって重要な情報となっているかを把握し、場合によっては自分自身で重要度を修正する必要があります。 なぜなら、ものごとに対する重要度は、自分以外の存在によって決められたものである可能性が非常に高いからです。 何が自分にとって重要であるかは、子どもの頃に、親や先生

【6】 信じていることしか見えない

私たちは、様々な物事に対して「それはこういうものだ」「それはこうあるべきだ」という信念(belief)を持っています。 本当に物事がそうであるかとは別に、各個人が「これが真実である」と思っていることです。 それは「目上の人のいうことは聞かなければならない」「コーヒーは健康に良い」「自分は社交的な人間だ」といったあらゆる信念です。 この「個人が真実であるべきだと考えているすべてのことがら」をリアリティ(reality)と言います。 リアリティは、思考や経験が積み重なって出来上

【7】 自己イメージに従って認識している

私たちは、世界の様々な物事に対して「それはこういうものだ」「それはこうあるべきだ」という信念を持っています。 そして、「これが真実である」という信念の集合として、それぞれの人に独自のリアリティが存在しています。 私たちはリアリティと一致する情報だけを認識しており、それ以外の情報はスコトマになるため認識していません。 リアリティのなかでも、特に自分自身に関するものは自己イメージ(self-image)と呼ばれます。 「自分はこういう人間である」「自分は他人からこういう人間であ

【8】 自己イメージに従って行動している

私たちは、「自分自身のことをどのような人間であると信じているか」という自己イメージに合致する情報しか認識していません。 そのため、自分が持っている自己イメージが正しいことを証明する情報だけを取り入れ、日々、現在の自己イメージを強化しています。 これは、私たちのマインドに、自分のリアリティが正しいことを証明しようとする働きがあるためです。 実は、この働きは認識だけでなく、無意識の行動や選択においても働いています。 そのため、私たちは無意識のうちに、自己イメージが正しいことを証

【9】 エフィカシー

コーチングにおいて中心的な概念をひとつ紹介します。 「エフィカシー(efficacy)」という概念です。 コーチングにおけるエフィカシーの定義は、「自分のゴールを達成する自己能力の自己評価」です。 「自分はその目標を達成できる人間だ」という確信の強さと言ってもいいかもしれません。 「コーチングでは何をするのか?」という質問に一言で答えるなら、「エフィカシーを上げること」と言うことができます。エフィカシーは、それほど重要な概念です。 エフィカシーも自己イメージの一部で

【10】 セルフ・エスティーム

エフィカシーと対になる概念が、セルフ・エスティーム(self-esteem)です。日本語では、自尊心と訳されます。 セルフ・エスティームもエフィカシーと同様に自己イメージの構成要素です。 エフィカシーの定義は「ゴールを達成する自己能力の自己評価」でした。 それに対して、セルフ・エスティームの定義は「自分の価値に対する自己評価」です。 エフィカシーがゴールという未来に起点がある概念であるのに対して、セルフ・エスティームはゴールとは関係なく、どちらかというと過去に基づいて

【11】 セルフ・トークが自己イメージをつくる

自己イメージは、私たちの認識や行動に強い影響を与えています。 私たちのマインドには、自己イメージを維持するように、認識や行動を調節する働きがあるためです。 では、自己イメージはどのようにつくられるのでしょうか? 自己イメージも他の信念と同様、思考が積み重なって形成されています。 私たちの思考は3つの軸で行われています。 3つの軸とは、言葉(word)、映像(picture)、感情(emotion)のことです。 私たちはまず言葉で思考します。 その言葉は、私たちのマイン

【12】 無意識の判断(アティテュード)

私たちは、日々、たくさんの判断(judgment)をしています。 食後の飲み物はコーヒーにするか、紅茶にするか。 電車で席を譲ろうとしたときに声をかけるか、かけないか。 誘われた飲み会に行くか、行かないか。 気になった服を買うか、買わないか 大きな仕事を頼まれたときに引き受けるか、引き受けないか。 判断の内容は些細なことから人生を大きく左右するものまで様々ですが、それらの判断の積み重ねが人生を決めていきます。 そして、その判断を左右しているのが、無意識の判断(アティテュ

【13】 アティテュードについて、もう少し詳しく

私たちは、日々、情動記憶にもとづいたアティテュード(無意識の判断)に影響を受けて、判断をしています。 過去の記憶にもとづいて、「それをしたいか、したくないか」「するか、しないか」といったアティテュードが形成されています。 私たちは過去の記憶にもとづいた判断を無意識に自動的に繰り返しているのです。 その判断の繰り返しによって出来上がった現状は、未来にどうなりたいかではなく、過去の記憶にもとづいたものです。 いわば、目の前の現実ではなく、記憶の世界を生きているようなもので

【14】 無意識の行動(ハビット)

私たちは、日常生活のかなり多くの部分を無意識かつ自動的に行っています。 この無意識かつ自動的に行っている活動が、無意識の判断(アティテュード: attitude)と無意識の行動(ハビット: habit)です。 無意識の判断(アティテュード)が選択に関わるものであるのに対して、無意識の行動(ハビット)は習慣や行動など、より身体的なものです。 「コーヒーか紅茶かを選ぶ場面でいつもコーヒーを選ぶ」というのがアティテュードであるとすれば、「毎朝コーヒーを飲む」というのがハビット