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【陸前高田体験記 3日目】体が頭を追い越す

Change Makers' Collegeに遊びに来てくれた森山 寛菜さんが、カレッジの体験談を書いてくれました!
全3回の超大作です。広田町での暮らしをとっても楽しんでもらえたようで、嬉しいです。

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東川~陸前高田~気仙沼、と旅した2週間のうち、陸前高田で過ごした3日間をここに記す。今回は3日目。

1日目2日目のお話はこちらから▼

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書き手:森山 寛菜(もりやま・かんな)
茨城県水戸市で育つ。9歳のとき山奥の村で1年過ごしてから、どういうわけか色んなところへ移り住む人生がはじまった。中高は韓国、大学はアメリカへ。ちょこっと横浜に住んで秋からは島根へ。今は仕事をやめて寛ぎ中。

3日目。朝、太陽が眩しくて目が覚めた。

カーテンのない部屋で寝ると太陽が暑い。
昨日は雨で気がつかなったけど、晴れているとこんな景色が見えるのか、と窓から顔を出して驚いた。
今この瞬間、この景色を地球上で私だけが見ていると思うと、大変贅沢な気持ちになった。

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朝起きて窓から見えた景色

急いで顔を洗って、カメラをもって外へ飛び出す。
今のこの美しさは待ってくれない。今、外に出たい、と思って昨日の朝散歩した海を目指した。
坂を下りながら、足元に見える海を見て、昨日聞いた津波の話を思い出す。こんなに穏やかな海なのに、と色んな感情が込み上げてくる。

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太陽の光が海の上に道をつくる。
肌が焼けるのを感じる。
もともと朝に弱い私だけど、旅の間はずっと早起きだった。
会社員だった頃は、眠い、電車に遅れる、仕事か、の3つだけをひたすら考えていた時間に、地球はこんなにも美しい姿を見せてくれていたのか、と感じる。
昨日の雨で濡れた草木に陽の光があたって輝く。

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漁港

漁港で話す人の声が聞こえた。
何を釣ってるのかな、と考えながら歩いていると、
「あなたは、誰だったっけ」と短髪に刈り上げた元気なおじさんが声をかけてくれた。

「2日間だけ、こっちに泊まってるんですよ」と言うと、
「ああ、SETの」
と言われて、はいと答えた。

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ああ、SETの。でとんとんと進んでいく会話を楽しみながら、これがSETが10年間ここで築いたものなんだな、と、昨日一緒にすいかを食べた人たちの顔を思い浮かべた。

おじさんはわかめとウニを獲っているそうだ。
昨日の夜、わかめ漁をする3-4月は漁に忙しくて、自分の誕生日の記憶がない、と話していた4月生まれのシェアハウスの住民を思い出す。

「その、坂の上のとこ泊まってるのか。あーゲッツのとこの。ゲッツはすげえんだぞー。ゲッツはわかめ漁3年目だからな」

ほとんど喋ったことがなくて、顔もうるおぼえのゲッツはすげえんだ、という情報が書き足される。
田舎の暮らしってこういうことなのかも、と思う。
直接話してない人に、まちの人の言葉で出会う。
1対1の出会いだと一面しか見えないその人の姿が、別の人の言葉をかりて立体的に見えてくる。

仮面舞踏会

以前、「私たちっていつも仮面舞踏会してるよね」と話す人に会ったことがある。
会社で働いていたとき、仕事の話はできるけど、その人が何者か話せない関係性にモヤモヤしたことがあった。仕事モードの仮面を被ってお互いが話をする。でも、毎日顔を合わせているのに、くもりガラスの向こう側にいるみたいに、隣に座る人の輪郭が見えない。一緒にいるけど孤独。そんな感情があった。
人はいっぱいいる。でも、脆い個々があつまっているような感覚になった。

そこからの陸前高田。ここだと、仮面がかぶれない。
SETで出会った人たちの、移住者であるはずなのに、醸し出される土着民感。
昨日のお昼、「俺たち漁業権もってて、船もってっからさ。」
畳の上に片肘を立てて寝転がりながら、ぶっきらぼうに言っていた人。
後で知ったら、SETの代表だった。

暮らすから、全面が見えてしまう。
きっとそれは煩わしく感じられることもあると思うけど、ちゃんと人と出会える場所であるようにも思う。

おしゃべり

お散歩から帰って、SETで泊まれるように手配をしてくれた方と話した。
東川から陸前高田に来て、感じてた色々を話していると、

「体が先に感じていて、頭が後からきてるって感じだよね」と言われた。

なんて素敵な表現なんだ!と感動すると同時に、そう、いまそれなの、と思った。

東川で一緒に釣りをした人が「地球に生まれてよかった」と言っていた。
生きててよかった、とか、いい人生だったとかは聞いたことがあるけど、地球に生まれてよかった、という人をはじめて見た。でもその言葉の意味が、今なら少し分かる気がする。

普段なら流してしまいそうな何でもない景色が愛おしくて、逃したくないと思う。
私はこれまでどれくらい見逃した景色があったんだろう、と思う。
景色の解像度が高すぎて、処理できない瞬間の連続だから、ぼーっとすることにする。
そんな日々を過ごしていたので、感性のビックバンが起こりまくっていた。

今こうして文章にできているのは、旅を終えて横浜に戻っても情報過多で対話欲が爆発して、「いまお時間ある?」とチャットして、陸前高田を勧めてくれたゆりちゃんと3時間話し続けたからだ。東川で過ごしてみても思ったけど、私は最初の3日くらいはうまく言葉にできないみたいだ。その後、湧き上がってきた言葉を息継ぎもせず一旦全部出し切って、話しながら整理する人間みたいだ。
今の私が生きていられるのは、話したいときに「きいて!」と捕まえても、嫌な顔せず聞いてくれる人たちがいるからだ。

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対話相手のゆりちゃん(左)と。
「めっちゃ疲れた評論家みたいな顔してるやん、私」
とゆりちゃんが言ってた。

目的をもった人がくる場所

陸前高田広田町は半島になっている。まちからまちへ移動するときには、理由がなければ寄ることがなく、通り過ぎてしまう場所だ。
だからここは、目的をもった人しかこない場所だ、と言った人がいるという。

たしかに。私も勧められなかったら絶対に来ない。
でも3日過ごしたら、また来る気がした。

これまでの私だったら、消費先になっていた旅行先で、短時間だけど暮らしてみた。
私が陸前高田に抱いた印象は、荒削り、野生。
まだ出会ったことないディープな日本に出会った。
ここで稼げるかは分からないけど、生きることはできると思った。

陸前高田で出会った人と、別れの挨拶をした。
東川で出会って三陸館の絵を勧めてくれた友人が、駅で別れるとき「またすぐ会えそうだね」と言っていたのがなんかいいなと思った。
だから、陸前高田の人と別れるときも、「またすぐ会えそうですね」と言って別れた。

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◇ ◇ 完 ◇ ◇


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