#61 使用上の注意? ~昇段審査の都市伝説
■反響
連載「昇段審査の都市伝説」のマガジンフォロワーさんが増えてきました。
X(ツイッター)は告知にのみ使っていますが、そちらでも反響をいただいています。
どうもありがとうございます。剣道修錬において、なにかしらのお役に立てれば嬉しく思います。
この連載は、私がアマチュアの世界によくいるごくごく普通の剣道愛好家として、初段から七段までに合計22回の受審の過程において考えたこと、気づいたことを書き連ねたものです。
初太刀を外したらその時点で不合格になる。審査員はもう見てくれない。
色胴で受審すると合格できない。竹刀の付属品が新品のほうが心象がよい。
引き技を打ったら不合格。
周囲からの助言に振り回され、戸惑い、よく言われているあんなことやこんなことができなかったらどうしよう?と不安になり、一週間も前から初太刀を確実にとるために、まずどの技から入ろうか?と考えて眠れなくなったりもしました。
つまり剣道のことばかり考えているのに集中ができていない日々が続きました。
それが最終的には「余計なことを考えず開き直り、普段の自分の剣道で立ち合うこと」が大切なのだと気づくのに、何年もかかりました。
22回の受審のなかで、自分自身の立ち合いだけでなく他の人の立ち合いや合否などを見ていくなかで気づいた「数ある都市伝説から脱却することで、迷いが消え、自分の力を十分に発揮すること」を紹介し、不安や迷いが消え、当日自分の剣道ができる人がひとりでも増えますようにと願いつつ、公開した文面です。
この連載を読んでくださった方から、好意的な感想が寄せられるようになりました。
「これを読んで迷いが消え、立ち合いに集中できたおかげで合格できました」
というご報告もいただくようになったことは、素直に嬉しいです。
よし、自分も後に続こう!!そう決意表明してくださった方もいます。
でも、ちょっとだけ気を付けてほしいことがあるので、書いておきたいと思います。
■合格のコツではない「昇段審査の都市伝説」
昇段審査をテーマにした記事や動画などはネット上を中心にたくさん出回っています。
これができれば○段は合格できる。合格のコツ!この技が出れば審査員が○をつける!
――初めてであろうが、何度目かの挑戦であろうが、次の段位への挑戦には少なからず不安がついてくるものです。
特に複数回同じ段位に挑戦し
「なぜ不合格になるのかがわからない。誰か助けて!」
そんな心境になっている最中「合格のコツ」「極意」なんて言葉を見つければ、すぐに飛びつきたくなるものです。もしかするとこの連載「昇段審査の都市伝説」も遠からず…なのかもしれません。
私は、昇段審査に「コツ」は存在しないと考えています。
合格への近道というのはあると思います。上位の段位に近づくために大切にしなくてはならない稽古、無駄を減らしながら取り組むことで成果につながる稽古というのは確かにあります。
稽古は積み重ねです。特に社会人、アマチュア剣道愛好家は、稽古量の確保も容易ではありませんので、質×量の掛け算の稽古を意識する必要があります。
質×量を意識せず、漫然と稽古しても「コツ」というものはあまり役には立たないと思っています。
これはおそらく「合格のコツ」を掲げている人たちもわかっているはずなのですが、そのわかっている部分が、読み手や視聴者になかなか伝わりにくかったりします。
■啐啄の機(啐啄同時)
稽古を積み重ね、ある程度の地力が備わってはいるけれど審査になると力を出せないという人が少なくありません。
審査直前になると自信が感じられなかったり、迷ってしまうなど、何らかの理由でもうひとつ届かず結果につながらない…そういう人に対して、気づきのきっかけを与えてくれるのが「合格のコツ」なのだという側面は確かにあります。コツを知ったおかげで合格できた!という話もあるでしょう。
これは、次の段位に合格できる力を持っている人だからこそ「コツ」を知り、それを実践できたのだと私は考えるようにしています。
昇段審査の都市伝説からの脱却も、上述の「力はあるのに審査になると力を出せない人」にきっかけを提供する点では同義かもしれません。
ただこれは
「合格の条件やコツといった数多ある情報から一度離れ、自分自身を開放しましょう」
という内容なのです。細かいことに捉われずに、普段自分が信じている剣道でそのまま数分間を立ち合いましょうよ、ということを書き示しています。
次の段階に進むために研究し、様々な情報を得たうえでときには取捨選択し、日々実践することがとても大切です。私もそれを意識しながら稽古を続けています。
ではここで、いわゆるコツとはちょっと違う審査の呪縛から解放された私自身の体験を少し紹介しておきます。
■「いいから稽古しろ」
私が六段審査に挑戦している最中に、とある八段の先生との出会いがありました。その先生に初めてお願いした稽古のあとに、すべて見透かされたかのようにこう言われました。
「次の段位に合格したいのであれば、その待って機会をうかがって何とかしようという剣道は捨てなさい。
攻めを体得したいのであれば、難しいことを考えずに先を取って遠めの間合いからどんどん打ち込んでいくことから始めること。
相手がしっかりと構えているところを攻め込み、打ち破ることができるのが実力者。
(稽古環境を言い訳にしていることに対し)貴方は子どもや初心者相手であっても誰よりも大きな声を出し、全力で打ち込む基本稽古や懸かり稽古をしていますか?」
――アマチュアの剣道家でしかないのだからと、何かをあきらめながら剣道をし、省エネながらもきっと近道があるはずだと考えながら稽古をしていた私の剣道観は、その先生との出会いで見事にひっくり返されました。
その後、しばらくお会いしておらずに失礼を続けていますが、私が次の段階に進んでいくために必要だと思っていることは「こういうこと」なのです。
それはもしかするとコツや極意のようなものとは程遠く映るのかもしれません。
でも私にとってもし近道があるとすれば、誰よりも大きな声を出し、先を取って遠めの間合いからどんどん打ち込めるような地力をつけようとすることなのだと思っています。
■今回のあとがき
下記の「#07」に書いているように、次の段階に進むためのセオリーはひとそれぞれです。Aというセオリーで合格した人、Bというセオリーで合格した人…でも、後進の剣道愛好家が、AのタイプなのにBを押し付けようとするケースがあります。Bのほうがその人には合っているのに、Aを教え込もうという先輩がいたりします。進む道は人それぞれですので、私がここに書いていることも人それぞれの解釈があってよいと思っています。
それを踏まえたうえで、遠回りでも近道でもなくここまで歩んできた自分の剣道を100%表現することが、次の段階に進むためには不可欠だということから始まり、また帰結するのが「昇段審査の都市伝説からの脱却」なのですよということをあとがきに、今日のところはこの辺で。
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