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エルフリーデ・イェリネク「光のない。」

ELfriede Jelinek: Kein Richt.
3.11東日本大震災及び福島原発事故を受けて

 今月、原発事故が起きてからちょうど10年。現在コロナ禍で社会情勢は未来が見えないですが、津波で多くの人が亡くなり、国内で原発事故が起きた恐怖は今も消えることがありません。脱原発を掲げているドイツでは原発への関心が強く、高級紙が特集を組むことと思われます。

 オーストリアの作家&劇作家で2004年ノーベル文学賞者のイェリネクは福島原発の報道後迅速に反応し、半年後戯曲「光のない。」を書きあげました。原文はHPで今も見ることができます。https://www.elfriedejelinek.com/fklicht.htm

 イェリネクは近年、ギリシャ神話と時事問題を融合させて、文学と社会をつなげる試みをしています。「光のない。」も、ギリシャ悲劇で有名なソポクレースの「イクネウタイ」(とルネジラール「現実的なものの埋もれた声」)を下敷きにしたもの。

 あらすじは、オーケストラのA(第一ヴァイオリン奏者)とB(第二ヴァイオリン奏者)が交互に語る形式。AとBは共にヴァイオリンを奏でているが、自分及び相手のヴァイオリンの音色は聞こえず、得体のしれない「絶叫」でかき消されている。

 「設備の急停止」「脱却」「放射」「エネルギー」「異物」「半減期」などのセリフから、音の過剰に伴う音の知覚しがたさは、「大量に放出された放射性物質を五感で知覚しがたいこと」を示唆しているように見えます。またAとBが制御できない「叫び」の音は、「放射能物質の体内への蓄積を制御できないことへの怯え」を表しているように思えます。小説の最後はこう締めくくられ読者に「判断」をゆだねています。「あなたたちの判決が欲しい Ihr Urteil bitte!」と。

 テキストは難解で 音と放射性物質が重ねて語られるとき、「楽器(Instrument) 」は「原子炉」に喩えられていたり、入り組んでいます。傑作ですが読みにくさはリルケの「ドゥイノの悲歌」のようでした。

音楽は、「地震・夢」など東北地震を受けて震災をテーマにしたオペラを制作している現代作曲家、細川俊夫の管弦楽曲「冥想 - 3月11日の津波の犠牲者に捧げる」。

Meditation - to the victims of Tsunami 3.11

https://www.youtube.com/watch?v=zBTwt_WHuHA

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