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対訳フランス語で読む「失われた時を求めて」(吉川一義篇著×白水社)(2021年4月刊行 )
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毎回新刊が出るのを心待ちにしている、白水社の「対訳フランス語で読む」シリーズ。待望の「失われた時を求めて」が発売されたので朗読を聞いてみました。
朗読に収められているのは第1編「スワンの恋」のハイライト。特にヴァントゥイユのソナタの小楽節が、ヴェルデュラン夫人とサン=トゥーヴェルト侯爵夫人の音楽会エピソードの双方載っているので嬉しい。
株式仲買人でパリ社交界の寵児スワンと高級娼婦オデットの「愛の国歌」ともいうべきヴァントゥイユのソナタは、スワンを恋の幸福へと誘いながら、その幸福の「空しさ」も暗示します。
(小説からの引用です)
スワンが入ってくると、ヴェルデュラン夫人は午前中に送られてきたバラの花を見せて「こんなことなさっちゃいけませんわ」と言っては、オデットの横の席を勧めるあいだにも、ピアニストは、二人のために、二人の愛の国歌ともいうべきヴァントイユの小楽節を弾いてくれる。
ピアニストが始めるのは、ヴァイオリンのトレモロがつづく箇所からで、数小節のあいだはそれだけが聞こえて前面に陣どっている。と、突然、それがわきに退き、なかば開いたドアの狭い框が奥行きを生み出しているピーテル・デ・ホーホの画のように、ずっと遠くから、まるで異なる色彩をまとい、指し込む光のビロードのような光沢につつまれて、小楽節は踊らんばかりに、田園詩ふうに、挿入された逸話のように姿をあらわし、まるで別の世からやって来たかと思える。単純な、それゆえに不滅の襞(ひだ)をまとって通り過ぎてゆくとき、天賦の優雅さをあちこちに振りまきつつ、いつも同じえもいわれぬ微笑みを浮かべている。
曲は、ヴァントゥイユ・ソナタのモデルの一つと言われるセザール・フランクのヴァイオリンソナタが収録された、イザベル・ファウストのアルバムで。何回聴いても素晴らしいです。
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César Franck:Violin Sonata in A Major, M. 8
Isabelle Faust(V)&Alexander Melnikov (P)
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