真夏の予定の夢(詩集6-5)
壊れかけの冷房とアブラゼミの音
エンジンと風鈴の音
甲子園と芝刈機の音
オリンピックと本日の犠牲者が交互に流れるニュース
炭酸が抜けてぬるくなったぶどうのジュース
羊水に浮かんでいた頃を思い出す
生温い室内 これ以上ない状態
悪化する一方の 遠くの遠くの祖父の容態
どっちが兄でどっちが弟かも分からなくなった兄弟
曇天の午前中 デッデッポポーの正体
午後に吹いていったあとを追いかけたくなる風の招待
真夏の昼下がり
それは湖の近くで涼もうにも
汗が止まらない妖精が見るような夢
熱射病におかされた感情の蜃気楼
こんがり焼けたアスファルトの雑踏
あるいは誰もいない学校
背の高い雑草の海の色
寂れた旅館から聞こえる『め組のひと』
さあてそろそろ寝るかあと思ったら日付変わる直前にスマホが鳴って急に友達にカラオケ誘われて久しぶりにオールしようぜとか言われてえーでも明日お墓参りしなきゃいけないし昨日も夜遅くまで家族と飲んでたから寝不足なんだよなーいやーでも今しかねえかよしおっけーああ迎えに来てくれんのありがとじゃあねーっつって友達の近況とかよう分からん歌とか聞いてたらもう太陽がーあー君らもこれからいろいろ用事あんのねお疲れさんじゃあまた年末にでもばいばーいうわー楽しかったけど疲れたなーこれからお墓参りかー3時間ぐらい眠れるかー……的な
真夏の予定の全てが
ただ無表情に 白昼夢みたいに通り過ぎてゆく
ツクツクボウシの声が目立つようになった雑木林
コオロギの声が聞こえるようになった夜の町
真夏の暑さは 眩しさは 騒がしさは
こんなにも僕を怠くさせるのに
夢の中でもいいから保存されていてほしいと
想う 僕は 虫かごの死にかけの虫みたいだ
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