なんてことのない一日(裏)
朝
曇り空と車たちの排気音で灰色のフィルターがかかる朝
ゴミ置き場に捨てられた少女にカラスがたかる
一羽が一つの眼球を大事そうに咥えて飛び立つ
二羽が顔に血を塗りながら腐り落ちた脇腹の肉を啄む
昼
弱々しい日の光が伸びきる昼
公園の木についていた黒く変色した蛹を
亜実ちゃんが手でプチっと取って口に含んだ
夜
無駄に多い街灯とネオンライトで埋め尽くされる夜
「だからそーゆー意味で俺はニーチェに似てるんだ」
佐々木くんが無茶苦茶に動かした口から飛び出た唾が
永井さんの緑茶ハイに着水するのを
小便から帰ってきて着席した藤原くんが見てから
トイレの床が尿やゲロにまみれていたことや
個室からマヨネーズを思い切り踏んづけたときの
音みたいな排便が聞こえてきたことを話し出し
永井さん以外のみんなが笑い出した
藤原くんの対面の席に座っていた小野寺さんが
「それってアタシの口臭とどっちが臭い?」
と言って中に充満した空気を全て
押し出すように口から息を吐き出し
放置した煮干しのような臭いを藤原くんが嗅いだ
また永井さん以外のみんなが笑い出した
吹いた佐々木くんの口から飛び出た唾が
今度は永井さんの腹あたりに着地した
未明
身元不明の遺体が
また一つ増えたみたいだ
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